妖怪アパートと平凡な俺(仮
──まさか俺が、妖怪たちと共同生活をすることになるなんて思いもしなかった。
高校に入って早半年。いきなりの親父の転勤話。俺は付き添うか、一人こちらに居残るかの選択をしなくてはならなくなった。
見た目はどちらかと言えば女顔。しかし見間違われるほどではない所謂平凡な男子高校生だ。
半年もいれば友だちも少なからずいる。インパクトに欠ける俺でも。女より可愛いのに中身は男らしいやつや、100%バカの塊でも人情に熱い熱血なやつ。女子ともそれなりに会話出来ている。
平凡なりに、当たり前の平和な高校生生活が送れている。だから、今更一からスタートはしたくなかった。選択肢は自ずと後者をとることとなる。
一般家庭のため、家賃の安いアパートを探した結果、都内にも関わらず込み込み二万という格安物件を見つけた。曰く付きだが、誰かが殺されたとか自殺したなどといった理由ではないというだけで決めてしまった。
それが、すべてのはじまりだった……。いや、既にその要素は潜んでいたのかもしれない。
先に荷物を送り、手荷物だけでそのアパートに辿り着く。そこの見た目はちょっと古い、引き戸の三階建て一軒家。所謂、シェアハウスというやつだ。安い理由の一つ。だが、込み込み二万は異常に安いと思えるくらいにキレイなお宅だった。
「ごめんください! 」
軽くノックし、引き戸に手を掛けて開ける。
……そこで俺は恐怖を味わった。
「……男、男ぉぉぉぉぉ! あは、あははははは! 」
そう叫びながら、玄関のフローリングを器用に腕だけで這いずってくる女性。長い黒髪は乱れ、差詰め貞子さながらにこちらに恐ろしい早さで近寄ってきた。
「?! 」
ホラーな展開に声も出せずに固まっていると。
「ハイハイハイハイ!
金髪ウェーブをポニーテールにした女性が、勇敢にも目の前へ階段からひらりと飛び降りた。流石の貞子ばりの千種と呼ばれた女性は急停止した。
「
そのまま、その薫と呼んだ女性の足にしがみついて泣き始める。
急な展開に何も言えないままでいる俺に、薫と呼ばれた女性が笑顔で振り返る。
「ごめんさいねー? びっくりしたでしょう? 千種、またフラレたのねぇ。えっと、新入居者くんかな……?」
「あ!
ハッとして、頭を下げた。
「譲くん、ね。よろしく。私は
薫さんが俺の後ろに声を掛ける。
「……ただいま」
振り向くと、氷のように冷ややかな表情の、腰まである真っ直ぐでさらさらな紫の髪を
セーラー服、女子高生だろうか。
「あなたは……」
感情のこもらない瞳で譲を捉える。
「は、はい! 本日からお世話になります、坂田譲です! よろしくお願いいたします! 」
何となく緊張して背筋を伸ばしてしまう。
「そう、私は
まさかの、同い年くらいの女の子に管理人と告げられ、再度俺は固まった。
……平凡な人生が一転した瞬間だった。
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