報告と告白と
俺は楠木を放課後呼び出した。
「事務所でも良かったっちゃよかったんだけどさ」
悪意がなかったはいえ、楠木たちを怖がらせた元凶がいる場所に連れていくことは躊躇われた。だから、学校にしたんだよ。
「うん、咲良の顔みたらわかるよ。もう被害者は出ないんだって」
「犠牲者もいなかったけどな。取り敢えず、本人から」
スマホを楠木に渡す。そこには……。
『……ごめんなさい。あたし、遊んでくれるお友だちがほしかっただけだったの』
リリィが映っている。妖怪であること以外は正直に話してもらった。
「え? この子が? 」
「ざっくりだけど、彼女は超能力みたいなものが使える。楠木を追い駆けてたのは彼女の力で動いてたヌイグルミだったんだよ」
「ヌ、ヌイグルミ? 」
まぁ、思考回路が追いつかなかろうがそこは気にしない。
『あたし、誰も殺してないわ。あれはゲームで、ちょっと先の未来が見えるのも本当。皆おうちに帰しました。……リリィ、やり過ぎた。怖がらせたままでごめんなさい』
動画の中で、可愛く頭を下げて謝る姿に誰も怒れないんじゃないかな。
「……彼女、不思議な力のせいで一人ぼっちだったらしくて、淋しかったみたいだよ」
「……そう。怖かったけど、種明かしされたら何だかどうでもよくなったよ。夏休み前の早い肝試し体験が出来たって思っておく。てか、こんな可愛い子ならあんなことなくても友だちになったのになぁ」
確かにちょっと確信犯めいた笑いかたをするものの、可愛い女の子ではあるよな。
「ありがと、咲良。紗綾と美由希、あ、金城さんね。にも伝えとくよ」
「ああ、そうしてくれよ。俺の関わりない女子だし」
「……でさ、咲良」
急に楠木が真顔になる。
「あたし、咲良に伝えたいことがあるんだ」
え? まさか、いや、ないない。でも、楠木は仲の良い隆一じゃなく、俺に助けを求めてきた。まさか……。確かに楠木は可愛くない訳じゃない。そもそも俺は女子とそんな関わるほど会話をしてきてないし……。
◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと押すんじゃないわよ………! 」
「……ここは狭いんです。我慢してください。お嬢様♪ 」
「何言ってんのよ。昼間だからってベタベタしないで頂戴……! 」
「……はぁはぁ、昼間のお嬢様は本当に可愛らしい♪ 」
二人から少し離れた草むらに、何故かついてきたエドと二人でいるのには訳があった。
間接的に依頼主であっても、真理ちゃんは女の子。ボクの優多に何かあったら事だわ!
「……本当昼間なのに、炎天下のお昼休みタイムなのに、ふふふふふふ」
「気持ち悪い……」
確かに日の光はボクには大敵。万が一、浴びたら大変なことになる。砂になることはないけど、肌が爛れる。一部爛れたら、一瞬で全身に蔓延してしまう。妖怪と言うより神様に近いから、死に至るほどじゃないんだけど、入りたくもない棺桶に一年は冬眠ならぬ夏眠しなきゃならない。力も出なくなる。散々ってわけ。
でも、今はそんなこと言ってられない。だって、だって! ボクの優多が他の、しかも人間女子に奪われたら……ボク、生きてけない!
◆◇◆◇◆◇◆
覗き魔がいることも知らず、俺は楠木の次の言葉を模索してテンパっていた。
「……あたし、あたしね」
すげぇモジモジする男勝り女子。ギャップ萌えで悪くはない。……だけど、ちょっとモヤってした。なんで、なんで……菖蒲さんが浮かぶんだろう。確かにドストライクの容姿だけど、鬼畜で凶暴で、ワガママで……。
「……あたし、眞木のことが好きなの! 」
「……はぁ? そんなん直接本人に言えよ。親友だからって関係ねぇよ」
ちょっと期待していただけに、冷たく言い放つ。
「……ぷっ、あははははははは!!!! やっぱそうだ。咲良ってホントは口悪いクセに優等生ぶってるよね。そのクセ、女の子に耐性ないから助けてって名指ししただけで意識しちゃって。……あたしが咲良にコクるとかありえない。だって、あんた女の子より可愛い顔してるんだもん。それで黒帯って稀少だし、使えるって思っただけに決まってんじゃん」
……ああ、騙されたのか。
「眞木は超イイヤツだよねー。単純に、純粋に俺も何かしたいって。何もなくても頑張れるヤツのがカッコいいよ。あんたは頭良くて、黒帯で? 顔綺麗でムカつく。眞木可哀想」
女子って口数多いよな。
◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっ……! 」
「ダメですよ、お嬢様……! 」
立ち上がろうとしてエドに止められる。
あんなに言われて、女の子だから殴れないの? 酷いじゃない! 優多がどれだけカッコいいか! 我慢できない!
再度立ち上がろうとした瞬間、別の手がボクを静止した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほうほう。楠木は、自分より格下がお好みと? すげぇなぁ、50m5秒切れるの? 大学からは金メダル確実のアスリートじゃね?
」
楠木の後ろから隆一が現れた。
「え? 眞木? どうして……」
おどけた口調に反して、目は笑っていない。
「……おまえは俺の何知ってんの? 取り柄は能天気さだけ? てか、俺はいいさ。相棒コケにされて、ムカついてんのはこっち。何もしなくても優等生になれる天才なんているわけないだろ。たまたまこいつは勉強が嫌いじゃないだけ。黒帯もちびんときから中学まで道場通ってたんだよ。ほら、こいつ体小さいし、女顔だから」
楠木は青ざめて何も言えない。
「おまえの気持ちは嘘でも嬉しくない訳じゃない。だけど、こいつの顔を茶化していいのは俺だけだ。理解のないやつの軽はずみな言葉と一緒にすんな。ああ、俺はバカだよ。頭の良い優多とつるんでんのは端から見たら疑問かもしれねぇが、そんなんこっちの勝手だろうが。こいつが人を見捨てられない理由は知ってる。……誰かを置いて来ちまったって思いがこいつを動かしてる。猫だろうが犬だろうが、こいつは見捨てない。見捨てないんでも、力と知識が必要なんだよ」
隆一……?
「……だから、俺はおまえとは付き合えない。仕方ないからダチではいてやるよ」
楠木は小声でごめんなさいを繰り返し、走っていった。
「……隆一、取り敢えず礼は言っとく。ありがと。だけどさ」
「アイツ、根はイイヤツなんだよ、か? んなこと俺が一番知ってる。毎回お前抜きでアイツのグループ誘われてたの、全部断ってたからなぁ。悪いな、俺のせいだ」
「おまえのイイトコ知らなかったんだな。観察眼、半端ねぇよ。ま、顔のこと言われるのはおまえでも腹立つけどな! 」
俺たちは肩を組み、笑い合う。隆一は誰よりも人を見てる。それは生半可なものではなく、その努力の一端でも成績に反映されればいいけど、全くもって……。
「……しかし、初めての女子からの告白。ちょっと勿体なかったなぁ」
◆◇◆◇◆◇◆
「ガキの喧嘩はガキでどうにかなるもんだろ? 」
ボクを静止したのは翔太だった。タバコを加えながら、当たり前かのように言う。こいつ、伊達に教師してないわね。淡白なくせして、やることはやる。イヤミなタイプよね!
「友情! 最高ですな! 」
「……帰るわよ、エド」
ボクはエドを連れて帰った。もちろん、長時間外にいるわけに行かなかったからよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、隆一。気になってたんだけどさ。あのバット、どこに仕込んでたんだ? 」
「これか? これかぁ……」
スラックスの後ろポケットから取り出したのは、無惨にも折れた木のバット。
「折り畳みのお気に入りが、あの熊の硬さで……この有り様だ」
そんなんあるんだ……。確かにあの熊、かなり重い衝撃があったな。木とはいえ、金具ごと真逆に折れるとか半端ねぇ。
「ま、これで真の運命共同体だ。これからもついてくぜ、相棒! 」
愉しい遊び見つけたって顔してやがる。
「来るなって言ってもついて来るんだろ?
」
俺は心配もあるが、頼もしくもある。記憶力あるくせに勉強に活かせない不器用な親友。
きっと菖蒲さんもエドガーさんも、相良先生も反対しないだろうな。
俺は空を見上げる。
「当たり前田のクラッカーよ! おー、眩しいぜー」
隆一も見上げ、目を細めた。
──置いて来てしまった誰かは会いに行く、そう言っていた。これから会えるのか、はたまたもう出会っているのか。
分かったときにその人が傍にいたのなら、伝えるんだ。
『もう離れたりしない、ずっと一緒にいよう』って。
第二話完
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