真相と正体と

「……そんなこと、聞けるわけないじゃない! 」


赤いストレートの髪、灰色の瞳がはっきりとこちらを睨み付ける。黙っていればかなりの美少女だが、彼女も妖怪なんだろうな。

ばっと腕を広げ、俺たちは身構えた。


──ヴ………………ン!!


後ろに巨大スクリーンが現れる。そこにはファンシーなおもちゃ箱のような空間に、虚ろな瞳をした十数名の男女がそこの熊サイズのヌイグルミたちと戯れている映像がでた。

たぶん、彼らがなんだよな。これは、生きてるのか? 魂を喰われちまったのか? 人間である俺には判断出来ない。


「……なの。ほら、楽しそうでしょ? クスクス。だから、ベティを返して! これからもゲームをしてを増やしていくの! 」


楽しそうでしょ? って、そうはみえないぜ?


「あ、そう。じゃあこいつの首、もぐわよ」


菖蒲さんに通じるわけがない。わかってた。この人、容赦ないからな。むんずと熊の頭を掴んで持ち上げた。体にもう片方の手を添えてスタンバイ。


「いやぁ! ベティ! 」


──リリ……ィ、ゴメン。オレガユウワクニマケテ、カッテニコイツラヲヨビコンダノガゲンイン……。セキニントル、サヨナラ、リリィ……。


正気に戻った熊は潔かった。


「イヤよ! ベティがいなきゃ! 帰すから、ベティを返して! 」


菖蒲さんに通じないことを理解したのか否かはわからない。


「最初からそうすりゃいいのよ、手間掛けさせないで」


乱暴に少女に向かって投げた。必死で熊をキャッチし、抱き締める。その瞬間スクリーンに砂嵐が起きて、画面の中の人たちが我に返ったのがわかる。


「……ああ、ベティ。こんなに……こんなにぼろぼろにされて! 」


その姿って、菖蒲さんたちにキャッチボールされたのが原因だったのか……。


「流石お嬢様、性悪さが滲み出ておりましたね」


「えげつねぇ女だよな」


セリフだけなら菖蒲さんだけだろうけど、ああしたのはあんたらもだからな!


「……直に皆戻るわ。。文句ないでしょ。あたしたちはもう行くわよ」


犯人は突き止めた、行方不明者の生存確認と解放。逃がしたら、解決にならなくないか?そもそもの目的は……。


「行かせないわよ」


「何でよ! 人間たちは返したじゃない! 」


「あんたたちにまた繰り返されちゃ困るのよ。だから……」


あれが来る!!!!



ドヤ顔イタダキマシタ……。


「は? 何で下僕なんかにならなきゃならないのよ! 」


すっと二人の間にエドガーさんが執事姿で現れる。リリィに膝間付き、手のこうにキスをした?!


「麗しきレディ。我が主の真意をお伝え致します。『友達になってあげるからうちにいらっしゃい』とのことです。ご安心くださいませ、リリィお嬢様。あなた様のことはわたくし、エドガー・クロフォードが誠心誠意、尽くさせていただきます」


下心が見えるキラキライケメンスマイルだな、をい。このロリコン!


「……ちっ」


何だかんだでリリィとベティを保護する形になった。


「待って! フランソワ! キャシィ! ベス! サンディ! マリオン! クララ! アンディ! エレノワ! ライオネル! おいで!


画面に映っていたヌイグルミたちが揃って走ってくる。……あれらに追い掛けられてたとしても、怖い。皆一メートル近いヌイグルミ総勢10体にはひきつっていた。当然っちゃ、当然だよな。


「あたしたち、家族なの。あたしとベティの友達になってくれるんでしょ? だったら、皆とも友達よね? 」


満面の笑みでこちらを見据える。

……そこに小さな菖蒲さんを見た気がしたのは、気のせいだと思いたい。


◇◆◇◆◇◆◇◆


……あれ? 何か忘れてないか?


「見ろよ、優多。ベティの足……」


「あ……! 」


右足の付け根から下に掛けて、リリィの髪と同じカラーのはずが……だった。気がついたらしいリリィが苦しそうな、哀しそうな顔をしてベティを抱え込む。まるで隠すかのように。

俺はなにかを感じた。この先、このことで何かトンでもない事件に巻き込まれるなと。ま、この協調性皆無の無敵チームといれば大丈夫。そう、俺は信じてる。


◆◇◆◇◆◇◆


……ふわりと甘い香りが後方からして……柔らかいものが背中に当たる。ちょっ!


「……優多。戦ってるときの優多、スッゴクカッコ良かったわ。ドキドキしちゃった♪


更に腕を回し、俺を抱き締める。首筋や耳に吐息が当たる。柔らかい胸は背中一面に当たる。菖蒲さんは触り方が厭らしい……。あ……。


「……もう、エッチねぇ。また、固くなってる♪ 」


股間までまさぐられ、俺は必死にもがいて彼女の腕から逃げ出した。


「相棒! 走るぞ! 倒れるまで! 」


「お? わかった! 任務完了の走り込みだな! 付き合うぜ! 」


全身熱いのを冷ますためなんて言えるわけがない。何も考えずについてきてくれる隆一がありがたい。


◆◇◆◇◆◇◆


「……お嬢様、抜け駆けしましたね? 」


「は? あんたが先に褒めたのが気に食わなかったからに決まってんじゃない。てゆうか、別にあんたと協定結んでないんだから、抜け駆けも何もないっつぅの! 」


優多はボクのものなんだから!


「……普通の女は飽きたから、参戦して遊ぶかな」


「興味ないなら入ってくんじゃないわよ!


男なんかに負けないけど、相乗効果で印象わるくなるからホント迷惑。


「……あの人間の取り合い、ね」


リリィがこっそり微笑んだのを、ボクは見逃してしまった。


小さい優多とは大好きと言い合った。でも、今彼に記憶はない。ボクが目印で付けた印がこんなことになるなんて思いもしなかった。今はまだ話せない。だから、ボクが守り続けなきゃ。たとえ、あの日の約束をあなたが覚えていなくても、ボクは守り続ける。


──だって再会出来たんだから、ずっと大好きだったあなたに。


『あなたが傍にいてくれるだけで、ボクはボクでいられるの』

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