奇想天外
──ずるりずるり、……イイニオイ。
敵さん、自分のルールを守らなくなってきたよ。俺たちの速度は変わらないのに後ろが歩調揃えてくれない。俺はマタタビか何かかよ!
「……優多、ちょっと耳貸せ」
隆一は俺をさらに引き寄せると、耳打ちした。
「……了解。それ、おまえらしくて好きだわ。至ってシンプルだし」
コテコテに考えても纏まらないなら、単純でいこう。結局は振り向かなければならない。その前にあちらさんがルール違反をしてるってことは、普通にやってもゴールがゴールをなさない可能性が高い。
「サンニィイチ……、GO! 」
俺たちは肩を組んで、走り出す。当然……。
──ずずずずずずずずず!! アアアアア!マテェェェェェェ!!
そうなるよな。だが、待つわけない。俺たちの体力舐めんなよ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
……走りはじめてから20分。俺たちは一時間や二時間なら速度は変わらない。……意外なことが起きた。
──ずるっずるっ……ずるるるる……マッテェェェェェ……。
まさかの敵さんのスタミナがなかった。マヌケな展開に逆に戸惑う。
「……ヤバい、これは予測してなかった。振り向いても中々辿り着かないとかないよな?
」
「スタミナ切れて引っ張る力なかったりか?
」
だったら、有り難さと脱力感を感じそうだな。
……ふと疑問に思う。相手はどうやって追ってきているのか。ターゲットが走ることを予測してなかった? 他にも色々と引っ掛かる。
「……相棒! 」
隆一の声に我に返る。
「あれじゃね? 楠木が言ってたゴール」
走りながら空いている腕をつき出す。
確かに前方にドアサイズの白い光の空間。周りはそこだけ切り抜かれたように不自然に続いていた。
「……作戦が成功するか! 」
速度を上げその前で急停止し、振り向いた。
「……菖蒲さぁぁぁぁぁぁん!!!!! 」
見ようが見まいが扱いは一緒だけど思わず目を瞑り、叫んだ。
──ずるるるるーーー!!!! ツカマ……!!!?
──ガッ!!!
「ちょっとぉ?! すばしっこいわね! さっきまでの無駄に非力っぽい声はなんだったのよ! 」
雰囲気をぶち壊す声がした。
「菖蒲さん! 」
目を開くと、さっきの鈍い音の正体が目に入った。……壁に凹みが出来て、ちょっと崩れている。
「……すげー」
隣では呆然と隆一が見ていた。
うん、破壊力半端ないな。……だけど、敵妖怪の姿が確認出来ない。今更みえないとかないよな?
「エド! そっち回って! 翔太はあっち!
」
「あっちじゃわからねぇよ! 」
『そっちもわかりませんね』
……わかってたけど、連携なんて求めちゃいけないだろ。性格噛み合わないんだから。協力してるだけ奇跡な自己中メンバーだし。
「絶景かな、絶景かなー」
皆夜もあり、本来の姿で姿を捉えたはずの敵さんを攻撃している。敵さん、確認出来ないけど。
「おい! モタモタすんじゃねぇよ! 咲良んとこ行ったろうが! バカ執事! 」
ん? 今、何て? ……俺? 俺ー?!
目の前に何かが飛び込んでくる。しかし、寸でのところで……。
──ガッ……キーン!
「ホームラン!!! ヒーハー!!! 」
いつの間にか腕を離していた隆一が、バットを振りかぶっていた。
ナニコレ、どんな展開?! 無茶苦茶だろ?! バットをどこに仕込んでたんだよ俺の相棒は?!
「ちょっ! 誰かグローブ!! 」
そんなサイズなの?! 俺だけまだ敵さんみてないんだけど?!
周りを見渡すと、ごそごそと蠢く生き物が……。生き物?
それは起き上がり、こちらを向いた。それはまるで崩れた熊のような姿をしていた。双膀は空洞で、奥でギラギラ光っている。見た目は凶悪。だが……グローブは無理でも俺の半分くらいの大きさだった。
皆は見当違いの場所を探している。そしてまた、こちらに飛び掛かってくる。バットでホームランされたのにも関わらず、俺に向かってきた。
「……このままじゃ、立場がねぇよな」
俺は静かに構える。
「あ! また! ボクの優多にぃぃぃぃ! 」
菖蒲さんが気がついてその声に皆が反応するが、如何せん間に合わない。
……もう目の前まで接近していた。
「はぁ! 」
──ガッ、ゴッ、ドカ!
やっとヒロインポジ脱却!
見事、俺の膝蹴りからの回し蹴り、踵落としが決まった!
──ビクッビクッ。
起き上がろうとするが、クリーンヒットしたからうまくいかないようだ。
「……やっぱ優多は猛獣並みだな」
俺が有段者だと理解してるのは隆一だけだし。
『優多さん……、惚れ直しましたよ』
やめろ、気色悪い。
「じゃ、トドメと行きましょうか」
菖蒲さんの顔が凶悪だ。その時……。
「やめて! もうベティをいじめないで! 」
女の子の声がした。一斉に声の主に振り向く。涙を湛えながらこちらにやってくるロリータファッションの女の子。
「……ベティは暴走してしまっただけよ。あなたがそんな甘い匂いさせてるから悪いんだわ」
妖怪ホイホイのこの跡か……。
「……そう。交換条件よ。こいつはもういじめない。だからあなたたちが引き摺り込んだ人間たちを返しなさい」
もう死んでいたら意味をなさない、そんな条件を突きつけた。
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