慣れた日常と占いサイト

「むぐっ! いってきまふ! 」


朝起きて慣れ始めたエドガーさんのきらびやかな朝食もそこそこに俺はカバンを乱暴に掴み、学校に向かう。


「優多さん! お忘れものです! 」


ビルを出たところで、エドガーさんの声と共に何かが俺に向かって一直線に落下してきた。


「おっと! 」


ポジション的に忘れられているが、俺の身体能力はかなりいい。見た目や体型で人を判断しちゃいけない。動体視力だけで落下物を難なくキャッチした。

……予想はしていたさ。毎日だからな。『エドガーさん特製愛×弁当』……。


「無理せず、行ってらっしゃいませ! 」


満面のイケメンスマイルで見送られて喜ぶのは腐女子か、なにも知らない女性だけだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「……早く学校に来たものの、女の子ってだけで誰かわからないんだよなぁ。俺を呼んでたから、……クラスは同じと践んでいいかもな」


校門前で佇んでいると、後ろから肩を叩かれる。


「おはよう、咲良。早いんだな」


振り向くと、ついこの前まで俺に付きまとっていた相良先生が爽やかな笑顔で立っていた。


「おはようございます、相良先生。先生こそ早いですね」


途端に先生の顔が暗くなる。


「今日は一限から六限までみっちり入ってるから準備が追い付かん。毎週この曜日が憎い」


いつも爽やかなクソイケメンの素顔だった。いくら好きでなった科学教師だとはいえ、1日フルじゃ疲れるんだろうな。


「いつもの笑顔は作ってます? 」


「当たり前だろ。好感度がなきゃ教師なんてやってられねぇよ。今日日のガキどもは怖いからな。誰もが咲良みたいな優等生なら気にしないでいられるんだが」


勉強嫌いじゃないだけなんだけど。


「あはは。好感度と成績は比例しないですが、出席は関係してきますからね。……あれから先生って、俺には地で話してくれてこっちも気楽ですよ」


「それを言うなよ。あ? ああ、おまえに猫被る理由はないからな。……自暴自棄になった俺を俺に無関心な咲良に救われるとは思いもしなかったさ。感謝してる。それに今は『仲間』だろ? プライベートは」


そう、この相良先生は『口裂け女』に襲われ、不幸にも『口裂け男』という半妖になってしまった人だ。妖怪を呼び寄せてしまう『印』を持つ俺を襲ってしまった。菖蒲さんが間一髪のところで助けてくれたけど。……殺すことも出来た、でもそうしなかった。。元々、殺してはサンプルが無くなるってのもあったみたいだけども。


「そうですね、イヤミな笑顔を見るよりはいいですね。あ、そうですよね、これからは協力してもらえるんでした」


「はは、男にはイヤミだろうなぁ? そうだ、あの変人執事から聞いたぞ。SOSを受けたって」


真顔で切り出されて、俺がびっくりした。やっぱり相良先生は変わった。自ら体験したことで、科学では証明しきれない現象も少なからずあるのだと、受け入れたのは間違いないだろう。信じたくない気持ちは、心のどこかにはあろうとも。


「流石エドガーさん。仕事がはやいですね。そうなんですよ……。『咲良』って呼ばれたから、クラスメイトじゃないかってアタリをつけてはいるんですけど」


推理なんて大層なことではない。この程度は誰だって行き着く。


「ま、そうだろうな。呼ぶくらいだ、おまえとそこそこ話をする女子なんじゃないか?


「隆一以外は挨拶に毛が生えた程度ですって」


「眞木か。そういや、いつもつるんでるな。毎回下から数えた方が早い眞木な」


「本人にもイヤミ言われてるんでやめてください」


そんなどうでもいいやり取りをしている最中だった。


「……紗綾さあや、学校来てよ。淋しいよ。話してよ、何があったの? 」


その声に俺たちは黙り、静かに耳を傾ける。夢のこともあり、些細なことでも気になってしまう。誰かと通話しているようだ。


「……先生、その無駄に爽やかな顔が信頼に結びつく方法を考えたんですが」


「一々イヤミったらしく言うなよ。おまえは可愛い、俺イケメン。それだけだ。優しい先生演じろってか? 」


無言で頷く。相良先生は心底面倒そうに頭を掻きながら、通話が切れるのを見計らって女子に歩み寄っていく。


「おはよう。二組の──金城かねしろだったな。」


「え?! 相良先生?! お、おはようございます! は、はやいですね」


「……ちょっと泣いてたか? 目尻に涙が滲んでるぜ? ……何かあったのか? 俺でよかったら聞くから」


見てるこっちが恥ずかしくなるくらいイケメンスマイル全開で。金城と呼ばれた女子は既に茹で蛸だ。……無駄にイケメンが!


「あ、えっと……。紗綾、三崎みさき紗綾さあやが最近学校に来ないんです。心配で毎日掛けてるんですけど……」


学校に来ない? 友達なら心配になっても仕方ない。


「三崎が? 三崎は電話に出たか? 何か言ってなかったか? 」


まくし立てないようにあくまで優しくゆっくりと聞く相良先生。


「えっと、……『future』の、みたいなことだけは。あ、今人気の占いサイトなんですけど予約が殺到してて中々順番が回ってこないことで有名なんです。一緒に登録したんですが選出はランダムみたいでまだ私には来ていません」


占いサイト『future』。女子の間で騒がれてるアレか。興味ないからスルーしてたな。あ、先生も一瞬、興味無さげな顔した。戻すの早!


「それが関係してそうだな。ありがとう、話してくれて。先生が三崎が来れるようにしてやる。安心しろ」


何する気だよ、イケメン猫被り教師。


「ありがとうございます! あ、あの……そのサイト、当たることで有名ではあるんですが、悪い噂もあって……」


「悪い噂……? 」


「……行方不明者が出てるって。噂なんで信憑性は薄いんですが、紗綾の様子がおかしいので……」


「落ち着け。先生が何とかしてやるからな。おまえは……辛いかもしれないが、三崎が落ち着くまで連絡は控えろ。何があるかわからない。元凶の可能性のあるそのサイトからのメールが来たら開かずに俺に持ってこい。腐っても科学教師だ、調べてやるよ」


科学と占いを無理矢理こじつけたぞ、この教師。金城は全く気がついてないけど、かなり無理矢理まとめてないか?


「は、はい、わかりました……。科学ってすごいんですね。紗綾に会えない間、科学勉強してますね! ありがとうございます! 」


金城は俺に気づかず、相良先生に頭を下げて校舎に入っていった。


「繋がりありそうですか? 」


「……わからねぇが、人間が起こしたにしてはふわふわしてる気がしてな」


「科学で実証するんじゃないですかー? 」


「あんなん言葉の綾に決まってんだろ」


「科学教師のプライドもクソもないですねぇ」


「うるせぇよ! 」



──この話が夢の少女の話を色濃くするとは思っていなかった。此のときは……。

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