残ったのは……
──ずるり、ずるり、ずるり。
ピッタリと付いてくる、引き摺り音。恐怖からか誰もなにも言わない。だが、歩き続けなければいけない。向かう方向はわかっている。空調が効いているのにベタつく汗がまとわりついて気持ち悪い。この状況下ではいくら助けを呼びたくとも呼べるわけがない。
しかし、真理は諦めるつもりはなかった。クリアしてこの最悪な現象のループを断ち切る。戻ったらまず、友人である咲良優多に相談しよう。──それまでは絶対に挫けるものかと。
人とは、得てして目標があると余程の無理難題でない限りやり遂げようとする。例外は当然あるだろうが、真理は決めたら是が非でもやり遂げようとする部類だ。見た目は真面目そうにはお世辞にも言えないが、芯のある女子高生である。
もし万が一、振り向かざる得ない状況になったらどうなるだろう。考えないわけがない。三人が半数が既に見栄や恐怖、道連れで……。
負けるわけにはいかない、負けたくはない。万が一が起こったら、誰かが何とかしてくれるだろうか。弱気になりそうにもなる。
三人三様の百面相が行われているが、今の三人にはお互いを気遣う余裕などない。せめて今の三人で一緒にクリアしよう、協力しあおう、そんな心の余裕を感じることも出来ていない。
──ずるり、ずるり、ずるり。
ピッタリと付いてくる、この引き摺り音は規則正しく、三人に恐怖を与え続けているのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇
時間感覚がないためどれくらい歩いたかわからない。体感的にあの三人はかなりの序盤で振り向いてしまったことになるくらいは歩いた。歩き慣れた人でも息が切れ始めるあたり、かれこれ一時間以上は歩いているはずだ。
「……あ! 前を見てください! 」
女の子の声にハッとして二人も顔を上げる。いつの間にか、皆で下を向いて歩いていたらしい。
声の先にはまるでどこ◯もドアのドアの部分だけがくり貫かれ、真っ白い空間がその向こうに広がっていた。しかし、ドアサイズの空間以外は変わらない道が何事も無かったように続いている。
「……いかにもって感じだけど、怪しいな」
男性が口を開く。
「けど、これ以上歩いても同じだよ。一か八か掛けるしかない」
真理は拳を握り締めた。女の子も男性も頷いて歩調を早め、一路、真っ白い空間へと踏み出した。
──ずるり、ずるりずるり、ずるりずるり。
当然、後ろのアレも一緒に早くなる。
「……入った! 」
まずはリーチのある男性から入る。入った瞬間、真っ白いのは光だとわかる。男性が見えなくなったから。
「着いた……! あなたも早く! 」
真理の腕を掴み、引っ張ってくれた瞬間だった。
「え? 何……」
真理にも目の前の光景が信じられなかった。引っ張ってくれた女の子が真理が入ったと同時に、後ろに勢いよく引っ張られた。
──ガタン!!!
扉が塞がれた。真っ白い空間が少しずつ日常的な色に変わっていく。……そこは、最初に連れてこられた場所と寸分変わらない、灰色のコンクリートの部屋。
『お疲れさまでした。クリアされたお客様には五分後にご帰還出来ます。ご帰還されましたらメールをご覧くださいませ』
目の前の無機質な電子板にはそれだけが映っていた。
「……興味本意が招く悪夢だといいな。彼女、しまる前に振り向いたと判断された可能性があるね。判断基準はあちら次第。彼女も戻れたらよかったけど」
「……ええ。だけど、これで終わらない気がする。あたしたちが終わってもまた新たな強制参加者がループで」
「確かに。予約が殺到しているからな」
「あたし、戻ったら止める方法がないか探ります。……友人が怪奇現象にあって、ある人に救われたって聞いた。だから、その友人にまず相談しにいく」
男性はびっくりして目を丸くする。
「行方不明が出てる噂はちらほら聞くけど、君って行動力あるんだね。俺も何かしたくなってきた。俺は
「何かしてないと落ち着かないだけで……。あたしは楠木真理! 」
そう叫んだ瞬間、光が二人を包み込む。
◆◇◆◇◆◇◆◇
瞳を開くといつもと変わらない自室のベッドの上。頭の上でメールの着信を告げるバイブセンサーが煩く震えた。軽く起き上がると、重い気分のままメール画面を見る。まずはボックスを開く。一つ前の当選メールに違和感を覚えて開くと、内容がすべて消えていた。痕跡を残すまいとしているかのように。
新しく来た《future》のメールを開く。
『楠木真理様
この度はクリアおめでとうございます。
あなたの近未来占いをお届け致します。
恋愛運
今まで恋愛と縁遠かった真理様に初めての恋の雨が降るかも?!
男性の知り合いが増える暗示があります。
恋愛に至るかはあなた次第。
向こう1ヶ月中に多くの男性と知り合えます。
あなたの恋、応援しておりますよ。
ご利用ありがとうございました』
メールだけ見れば、他愛もない、悪意のない安っぽい運勢占いだ。だが、真理は体験してしまった。この謎ばかりが残るゲームを。
真理はフラグを2つにつけ、明日の学校に備えて眠った。……簡単に眠れる心境ではなかったけれど、何とか明け方近くに少し眠ることが出来た。
優多の前でちゃんと話すために。
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