夢と不安


『(咲良──! 助けてよ──! )』



俺は目を覚ました。誰かが必死に助けを求める声を聞いた、夢を見たから。いや、有り得ない。目を覚ましたら夢だと自覚があるし。でも、やけにリアルな夢。俺の知っている誰かが、俺に救いを求めていた。

胸騒ぎがする。ガバリと見慣れ始めた豪華なベッドから起き上がった。

……勢いよくドアを開けると凄惨な光景が。


「あら、優多。どうしたの? こんな夜中に」


どうしたもこうしたもない。菖蒲さんが手酌で開けたビール瓶たちが辺り構わず散らばっている。

朝になったらなに食わぬ顔でエドガーさんが片付けるんだろうな。そして、俺が起きる頃には何事もなかったような豪華な朝食と無駄にイケメンスマイルで……。


って、違う!


「あ、菖蒲さん! 」


「んー? 」


「……笑うかもしれないけど、聞いてください」


ビールの注がれたコップを上から掴みながらこちらを向く。


「なぁに? 」


「……今、誰かに助けを求められる夢を見たんです。でも何だかやけにリアルで──」


こんなこと話しても笑われる。だけど、菖蒲さんなら何か言ってくれる気がして。


「……ふぅん? 十中八九、バカにされるのを覚悟してる顔ねぇ。ま、頭のいい優多だからね。……妖怪を誘う体質を持っているあなたの直感を無視したら後悔するかしら? 」


意味深な言い方はやめてほしい。でも、菖蒲さんはちゃんと俺を見て考えてくれているみたいだ。……酔っ払っていなければ。俺は転がっているビール瓶たちを見ない努力をした。

だって他力本願かもしれないけど、菖蒲さんならどうとでもしてくれるって信じてるから。


「何もなくても──暇だし! で? 助けを求めてるのは、男の子? ……それとも女の子? 」


「菖蒲さん……、笑顔が怖いです。お、女の子ですよ」


「ふぅん、へぇ。……アタリをつけるなら、クラスメイト辺りかしらね。警戒はしておくから今は寝なさい。まだ夜中だもの。起きたら学校で聞き込みしてらっしゃい、ね? 夢じゃ性別わかっても誰かはわからないでしょ? 」


「はい! おやすみなさい」


暇とか本音が飛び出たが菖蒲さんらしいし。安心して眠ることにした。慌てて起きたからまだ眠い。


「はいはい、お休みー」


菖蒲さんは栓抜きで新たなビール瓶を開けながら、振り返らずに俺を見送った。


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