第二話 占いサイトの噂

集められたものたち

──メールの着信を告げるランプが点灯した。


「誰から……あ! やった! サイトの順番来たんだ! 」


部屋でごろごろしていた少女は一瞬でうきうき顔になる。メール画面の送信元は、今巷で噂の『future』から。

よく当たると評判になっていた。しかし、すぐには占われない。メールアカウントだけで占うわけではない。メール内に書かれている約束を守るだけ。そうすれば、翌日には占い結果が送信されるらしい。


『楠木真理様

この度は、当サイトにご登録下さいましてありがとうございます。只今より、あなたにお願いさせて頂く注意事項がございます。今から終了まで、振り向かないでください。達成した暁には、素敵な近未来が待っています。


では、スタート! 』


◆◇◆◇◆◇◆


その文章を読み終えた瞬間、真理は見知らぬ場所にいた。薄暗い鉄筋コンクリートが広がる一室。灯りは古い豆電球が数個。


「な、何ここ……」


突然過ぎて頭が追いつかない。さっきまで自分の部屋にいて、一歩も動いていなかったのだから。


「あ、あの……」


パニックになりかけた真理を現実に戻したのは、か細い女性の声だった。


「へ……? 」


声のする方へと振り替える。薄明かりの中、ぼんやりとセミロングの同じくらいの女の子が怯えながら真理を見ていた。


「あ、あの、貴女もメールで……ですか?


すがるように真理を見つめながら、消え入りそうな声で聞いてくる。


「……『future』? 」


「は、はい。やっぱり貴女も、なんですね……」


安心したような、しかしやはり不安は変わらない怯えた表情だ。真理もそれは同じ。境遇が一緒だからと安心は出来ない。二人とも、現状が飲み込めていないことに変わりはない。


『future』は一体、何をさせたいのか。説明は一切ない。ただ、"振り向くな"としか。


◆◇◆◇◆◇◆


この意味を知ったとき、悲劇が幕を開ける。

だが、今の彼女たちは知るよしもなかった。


「んだよ……。冷てぇな! 」


一瞬で凍りついた。隅で動く気配。真理に話し掛けた少女は、真理にすがりつく。

それもそのはず、相手は柄が悪そうな青年。占いに興味があるようには見えなかった。けれど、見た目だけでは判断するのは失礼だ。


「……あんたも、『future』で? 」


怖いのを押し隠し、声を絞り出す。


「……連れてきたのはてめぇらじゃねぇのか? 」


睨み付けてくる。信じられないのは同じだと言うのに。


「あたしたちもわかんないだから、変に煽らないで」


こんなとき、佐倉がいてくれたらと考えていた。見た目と違ってすごく強くて、頭もいいクラスメイト。男子と話すのが億劫にならないのは、彼がいつも間に入っていてくれたから。


……ふと気がつく。

部屋にいたときしっかり持っていたスマホがない。連絡手段が絶たれてる? 寒気がした。

そう言えばこのサイトは人気だけの好奇心で登録した。行方不明者が出ている噂が絶えない。ただの噂だろうと無視していた。

連絡手段が絶たれてる状況に瀕して、嫌な汗が出る。何があっても、助けは呼べない。手段は一つしかない。生きて帰る、それしか……。


女だけで男性に対峙できるなんて思ってはいない。何が起こるかわからないのだから、こんな争いは無意味。後ろの少女は怖がってしまっている。誰かが冷静に努めなければ共倒れだ。

真理は頭のいい方ではない。でも、今は自分しか出来ない。歯を食い縛ってでもそう考えたときだった。


「……ここはどこだって言えるわけないだろ。女の子怯えさせても何にもならないよ」


別の方向から物腰の柔らかそうなしかし、意志のある声がした。何となくホッとする。何もわからない状況でカリカリするのは、損気というもの。

だが、不思議だ。声がするまで気配すらなかった。メールを開いた順番に現れているんだろうか。あと何人呼ばれるのだろう。


「てめぇも怪しいだろうが! 」


やっぱりこの人はダメらしい。脳筋男かもしれない。


「だったら、君も十分怪しいな」


一死触発な雰囲気に何も言えない。みんな不安なのに自己中過ぎる。バカでもわかるはずだ。冷静を欠いたら足元を掬われる。真理はわからぬ恐怖に身震いした。自分たちはどうなってしまうのかを。頭を過るのは、"振り返ってはならない"と言うことのみ。


「……さむっ! え………!? ちょっ、要二?! 要二?! 」


少し掠れた色気のあるハスキーな声がした。


「……うるせー。麻奈、な……に? 」


少し高めの声。二人ともやはり暗がりから聞こえる。

暗がりから出てきた二人はかなりの薄着。双方とも金髪で目立つ。ほんのりと異臭がした。二人は恋人同士で少し前まで事に及んでいたのだろう。その残り香がこの部屋の空気と真逆なために強調されてしまったらしい。


「ちっ、ガキが粋がりやがって……! 」


誰が聞いても負け惜しみにしか聞こえない。

……彼の声を封切りに、機械音がビービー鳴り響く。皆はっとして部屋をキョロキョロ。そして、視線は一点に集中した。


『ようこそ。あなたの未来を占う場所へ』


壁が光だし、上部に文字が浮かび上がる。


『今からこちらが開きます』


少しずつ下がりながら文字が浮かび上がっていく。


『あなた方は真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ進んでください』


『ただし、メールでもお伝えした通り、絶対に振り返らないでください』


『振り返らずに目的地に辿り着けた方のみが未来を予見されます』


『では、スタート! 』


ゆっくりと繋ぎ目もなかった扉が、重い音を立てながら開き始めた。

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