ちょっとした嫉妬と失踪

……ドアの向こうで不愉快な鼻歌と独り言が聞こえる。寝てるときは静かにやれって言ってんのに。いくら有能でも、バカはバカね。

……陽が傾き始めたのか、取り敢えず体は動かせた。う、羨ましくなんかないんだからね! ……料理とかは向き不向きがあって……ああ! もう! ベッドから転がり降りる。イライラが止まらない。わかんないけど。


窓を全開にした。……陽射しは"毒"だけど、夕焼けはセーフだ。


「……別に心配なんじゃないからね。優多が危なっかしいから迎えに行ってあげるだけなんだから」


誰に言うわけでもなく、呟いた。"妖怪"は基本的に夜間に蠢く。優多が帰宅する頃には真っ暗だ。同じことの繰り返しでは進展しない。たまには正面からヤツに向かわねば。……今の状態では力負けするだろうけど。引っ張って、走り去るくらい可能なはず。本当に優多だけを見ているかだって確証はない。たまたま視界に入っていないだけだという可能性だってある。


「……少しは状況変わるだろうし」


窓に足を掛け、飛び出した。優多の元へ……。


◇◆◇◆◇◆◇


………しかし、この発想が逆効果になるとは今の彼女には知るよしもない。


◇◆◇◆◇◆◇


「……ここが優多の学校、か」


学校……縁がないなぁ。あれ? 下校時間かな? 人がいっぱい出てくる。男の子も女の子も……、ここって共学なんだね。


「ねー? 君、どっから来たの? 超可愛いねー! 」


え? あ……。どうしよ、話し掛けられた。


「えー? 秘密~」


「隠さなくたっていいじゃんよ? 暇なら一緒に遊ばね? 」


うっざいなぁ……。チャラいのには興味ねぇよ。


「でもぉ、ダーリン迎えに来ただけだしぃ。暇ではないかなぁ」


「え? 彼氏いんの? マジで? 残念だなー」


いつの間にか人だかりだよ。面倒臭い。早く来てよ優多!


…人垣の向こうから優多が友だちらしき少年と歩いて来る。ん? 気がつかない? ちょっと……!


「あ! ダーリン☆ やっと出てきたぁ! 待ってたのよぅ? 待ちくたびれちゃったぁ!


何とか人垣を押し退け、優多に飛びついた。


「あ、菖蒲さんですよね? 」


「当たり前じゃない! "ボク"のこと、一晩で忘れたなんて、言・わ・せ・な・い・ぞ☆


こっから早く立ち去りたいんだから、空気を察してよ! ひくついてないで早く! 興味もない連中に見られるのは嫌なんだってば!

人がいっぱいなのは苦手なの!


「……え? 昨日何があったんだよ。ズルいぞ! こんな可愛い女の子とお知り合いになるなんて! 夢のようなプロポーションの美少女じゃないか! 」


優多のお友だちが何か絶賛してくれてるわね、ありがとう。


「……昨日、彼女に助けられたの! それだけだよ。………何か異様に気に入られただけで」


あら、何て淡白な言い様かしら。


「……そんな、そんな都合のいい出会いがあってたまるかー! 」


……少年は走り去った。イマドキ居るのね、ああいうの。


「……面白いお友だちねー。学校は楽しそうじゃない」


「……視線が痛いんで、移動しませんか?


気持ちは同じだったみたいね。


「まぁ、ダーリン☆ デートね! どこまでも一緒に行きましょう?! 」


◇◆◇◆◇◆◇


人目を避けるように移動する。……少し不安になった。まだ、陽は落ちきらない。


「……菖蒲さん、エドガーさんは一緒じゃないんですか? 」


何でエドの話ぃ?


「エドぉ? あれいたら、邪魔されるじゃない」


イライラ顔を見られないように前を向いて拗ねた。たった数秒程度だったのに、……振り向くと優多が消えていた。


「……え? 優多? 嘘……」


ヤツの気配なんてなかったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る