第一話 探偵事務所と少年と口裂け男
変態たちとの共同生活
「……メインディッシュは、真鯛のポワレになります」
エドガーさんが料理を作り、配膳してくれる。
ピカピカなのもエドガーさんがやってるんだろうな。菖蒲さんなんもしなさそうだし。
「エドー! デザートはアイスがいいわ! 」
意気揚々とワガママ言ってるよ。
「はい、爽やかなミントアイスでもお持ち致します。優多さんも同じものでよろしいですか? 」
「あ、はい。お願いします」
お金取らずにやってても良さそうな気がするけど、クライアントからの報酬で成り立っててもおかしくはないか。にしても、豪華な夕食だな。俺毎日コンビニ弁当だから、縁がないものばかりだよ。
「……しっかし、"口裂け男"とかわけわかんないし。気配が人間と違うからわかりやすいけど、何であの周辺しか現れないのかしらね? 」
「そうなんですか? 」
「ここ数日張ってただけだけど、こっちには一切気がつかないみたいなのよ。なぁんか、ピンポイントな気がしてならないわ」
それって、ピンポイントで俺を狙ってるみたいな言い方なような……。すげぇ嫌な予感しかしない。
「予測だけど、行動範囲は然程広くないんじゃないかしら? 」
◇◆◇◆◇◆◇
……目が覚めるとやけに静かだった。何にしても、寝るときは襲われなかったからただのからかいだったんだろうな。だけど心臓に悪いっての!
……あれ? 菖蒲さんなら朝から騒いでそうだけど、朝は寝てるのかな?
「おはようございます」
朝食を並べるエドガーさんの背中に声を掛ける。
「あ、優多さんおはようございます。よく眠れましたか? 」
振り返り、満面の笑みで迎えてくれた。
……変態だと知らなければ、爽やかだって素直に思えるのに。ん? 一人分?
「あれ? 菖蒲さんは? 」
「お嬢様は夕方まで起床されません。放って置かれて大丈夫ですよ」
そう言うもんかと豪華な朝食に舌鼓を打つ。焼き立てクロワッサンにポーチドエッグ、冷製パンプキンスープ。俺、太りそう……。
「御馳走様でした」
「御粗末様でした」
ふと時計を見ればそろそろヤバい。
「じゃぁ、行ってきます」
鞄を片手に立ち上がる。
「あ、優多さん! ちょっと待ってください! 」
え? 何?
フリフリエプロンをしたイケメン執事が駆けてくる。
……俺はゾッとした。まさか、『行ってきますのキスを! 』とか真顔で言われるんじゃ……。
「はい、どうぞ」
目の前に可愛い小箱がぶら下がっている。……え?
「優多さん、パンがお好きなようですが、ちゃんと召し上がって頂かないと」
「あ、ありがとうございます」
……ごめんなさい、エドガーさん。昨日のインパクトが強すぎました。
受け取り、学校に向かう。
今日からは菖蒲さんたちの目が色々な意味で光ってるから、不安も減るだろ。
……別の意味の不安が浮上してるけど。
「あ! 優多! おはよう! 」
昨日ついて来られなかったから心配してたのか? メールが通話してくりゃ……ああ、そう簡単には、おばさんの説教は終わらないか。下手に携帯弄ってたら、逆上するかも知れないし。
「おはよう、隆一! 」
「……昨日、大丈夫だったのかよ? こっちは母ちゃんが収まらないから中々確認しにもいけねぇし」
隠してた分、怒りもひとしおだろうしな。 予鈴がなり始める。ヤバイな。俺たちは足早に教室に向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
……そして、俺の認識が間違い無かったことが証明された昼休み。
『優多さん、LOVE(はぁと』
最悪な桜臀部の文字を見て青ざめた。
あのクソ執事………地味に攻撃してきやがる。
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