番外編 ヒナの職場見学 ~~キャピタル駐屯地の乱~~ 中

見学日当日、キャピタル駐屯地の正門前には学生服に身を包んだ子供達の集団が溜まっていた。

 男女を合わせて11名と言う、人口制限がなされている今の船内では世代的にも平均的な人数だ。

 平均年齢16歳の子供達の顔立ちは進学校の学生である事もあってか、みな利発そうな顔立ちで興味深げに周りを観察している。

 教師が施設の案内役であるエメリと確認の打ち合わせをしている中で退屈を紛らわせていたのだ。

 その中で一番背の低い、肩まで伸びた髪をハーフアップで纏めている少女が、父譲りの瞳でエメリの付き添いで来ていた正面のベニーを見つめていた。

 少女に下から見つめられているベニーは、自分よりもか弱い筈の少女から決して目を合わせようとしない。変装の積りでかけた偏光グラスだけでは目の前の少女――ヒナ・フジムラを誤魔化す事が出来なかった。


「……ベニーさんですよね?」

「……気のせいだ……」

「あれ? でもお兄ちゃんがベニーさんも同じ部隊に居るって言ってましたよ?」

「あの野郎……俺の事は黙っておけって言ってたのに……ユズキさんは息災かい?」


 それでも、先に不義理な事をしたのは己である事を自覚しているのか、ベニーはそれ以上の文句を言わずに逡巡しながらもヒナに尋ねる。視線はまだ合わせられない。

 ベニーからの返事が嬉しい予想外だったのだろう、ヒナは無邪気に顔を綻ばせるとベニーに向けて快活に頷く。


「ハイ、元気ですよ!」

「そうか……すまなかったな、何も言わずに消えてしまって」

「また、家に遊びに来て下さいね! ママも喜んでくれますから」

「…………あの人の前だとどうやっても取り繕えないから、勘弁してくれ……コウタロウや他の同僚に知られたら永遠にネタにされる……」

「大丈夫です、あの時のベニーさんは私とママの秘密ですから」


 ベニーは言動に反して、表情が普段よりも幾分か和らいでいる。

 ヒナのクラスメイトの少女が2人の親しい様子を見て、気さくに尋ねた。


「ヒナ、その軍人さんと知り合いなの?」

「うん、お兄ちゃんの友達なの。えへへ、背高いでしょ?」

「ヒナを基準にしたら男の人はみんな高いわよ……そう言えばヒナのお兄ちゃんもここに居るんだっけ?」

「うん。……あ、そうだ! ベニーさん、お兄ちゃんって普段はどうなんですか?」

「……別に何時もと変わらんぞ。強いて上げるなら、極東アジア駐屯地との合同演習時に何故か『この裏切り者があ』とか『お願いですから俺達にも素敵な出会いを紹介しやがって下さい』なんて言われながら白熱した模擬戦を繰り広げてたくらいか」

「一体、ヒナのお兄さんは何をしたの……」

「あー……そうですか……おじちゃん達に、今度ラムネでも貰いに行こうかな」


 予想を斜めにずれて行く回答にヒナは肩を落とすが、素早く切り替える。

 兄の様子を調べる機会はこの後に幾らでもある筈だ。


「ん、コウタロウが前居た部隊とは知り合いなのか?」

「同じブロックでしたから、何回か尋ねに行った事があるんです。みなさん、優しくておもしろい人達ばかりですよ」

「……大丈夫だと思うが、行くならコウタロウと一緒にな」

「はい、勿論! 花琳ファリンも一緒に行こうよ」

「うーん……少し恐いかなあ。軍人さんっておっかないイメージあるし」

「えー……そんな事無いよ」

「そこのお譲ちゃんが言ってる事も一理あるさ。大抵は脛に古傷持ってて社会から溢れたり、金と自分の命を天秤に賭けてる奴らばっかりだからな」

「ベニーさん、自虐は良くないです。後、どんなに危なくても、汚くても、仕事に貴賎は無いです」


 ヒナがベニーを真っ直ぐと見上げながら、当たり前の様に言ってのけた。

 偏光グラスの光の加減でベニーの目がヒナ達から見えなくなる。


「……ああ、悪かったな」


 ベニーはそれだけ言うと、ヒナの頭を軽く2回撫でて駐屯地の方へと背を向けて去っていく。

 背を向けたままのベニーがヒナ達へ軽やかに手を振った。


「……絵になる人だね」

「うん、何で彼女いないのか不思議だよ」

「はーーい! 学生の皆さんはこっちに集まって下さいねー。って、皆、そんなに近づかなくて大丈夫ですから」


 ヒナ達が頷きあっていると、教師との確認作業が終わったエメリが生徒達に集まるように呼びかけ始めた。

 男子達が普段より丁寧かつ迅速に、整列をしていく。しかし、エメリが言うように距離がいささかエメリに近い。

 ヒナを除く5人の女子生徒が唖然とした表情で事態を見つめ、露骨な男子の反応に辟易する。


「わっかりやすいなー……男ってやつらは」

「…………」

「ヒナ?」


 花琳ファリンが黙りっぱなしのヒナに目を向けると、ヒナはエメリと自分の体を見比べながら測るように手を体の箇所に当てていく。


「――よし、後、3年って所かな」

「追い付く積もりなの!?」


 友人の前向き姿勢に花琳ファリンは思わず突っ込んでしまった。




 駐屯地の内部見学は学生達が予想していた単に施設を巡るだけのものではなく、紹介される場所毎に、その場に応じた体験や遊びをさせてくれた。

 実は、キャピタル駐屯地の司令官が学生のレポート作りがし易いように配慮し、実際に準備を行う現場の軍人達も最初は気乗りしなかった者達を含め、気づけば子供の前でカッコつけたい大人の意地が炸裂。

 そして現在、教官と彼の訓令兵達がグラウンドでパワードスーツを装着したまま、棒術の演舞を披露していた。

 訓練機用のオレンジカラーに染められた『ファイター』2機が教官を左右から挟撃する為に棒を器用かつ激しく振り回し、同時に突きを放つ。


『――ふっ』

『すぁっ!』

『――』


 教官の『ファイター』身を流す動作で後ろに引くと、突き出された棒が交差して金属の音が響く。

 教官はすかさずに交差した2本の棒を己の棍で下から一気に掬い上げ、左右の訓練兵達が棒ごと教官へと引き寄せられ、腹を無防備にさせられる。

 教官はその隙を目掛けて、己の体を素早く一回転させると、左右に一発ずつ棍の突きを放った。

 訓練兵達が急いで棒を持ち直すと同時に教官の突きを防ぎ、再び金属音が鳴り響く。

 そのまま突きと受け流しを交互に行い、徐々に速度を上げていく。

 気づけば、激流の様な演舞に学生達は魅入ってしまい、ヒナも唖然とした自分の口を両手で覆っていた。

 教官と訓令兵が突きを同時に繰り出し、互いの攻撃を相殺すると、彼らは急に動きを止め、静かに横一列に並び学生達に『ファイター』越しで礼を行った。

 演舞が終わったのを学生達が悟ると、ヒナが拍手をし、他の学生達も続ける様に賞賛の拍手を行う。

 列の中央にいた教官が『ファイター』から汗まみれになった身を抜け出すと、学生達に爽やかな笑顔を向ける。


「喜んでいただいた様で光栄だ。意外に思うかも知れないが、実は先程披露した演舞はパワードスーツの訓練課程にしっかりと組み込まれているものなんだ、何故なら――」


 教官が先程の激しい演舞による消耗を感じさせない勢いで、パワードスーツを使いこなすのに体幹が如何に重要な要素であるかを熱弁していく。

 学生達が熱心に聴き入ってくれるのもあってか、教官のテンションが更に上がって行き――。


「よし、じゃあ次は地球時代で有名だったリオのカーニバルに由縁する踊りを君達に披露しようかな! 実はこの日の為にとっておきの衣装が――あ、何をする!? 離せ! 上官に無礼を働くなあっ!!」

『教官殿、学生にトラウマ植え付ける必要はありませんから!』

『このまま子供達に尊敬して貰ったまま綺麗に終わりましょう! ね! ね!』

「離してくれえーー! あの部隊の連中を蹴散らしてでも奪い取った機会なんだぞ!! 私の熱いサンバを子供達に見せたいんだぁ!!」

『あれは忘年会にでもとって置いて下さい!』


 人が変わった様に喚く教官を訓令兵の『ファイター』2機がかりでどこかへと運んで行ってしまう。


「は、はーい! 次はお昼の休憩に入りまーす! 兵舎でお昼ご飯を用意しているのでみんなで行きましょうね、後ろは余り見ないようにして下さい」


 学生達が反応に困まり沈黙していると、エメリが急いで学生達を次の目的地へと引率した。




「――美味しい。お兄ちゃん、何時もこんなに美味いごはん食べてたんですか?」


 ヒナはよそって貰ったシチューのコクを楽しみつつ、一緒のテーブル席で同じ食事をとっているエメリに尋ねた。

 自然食品使った料理を食べたのは生まれて初めてだ。

 ナノマシン技術によって見た目だけは一丁前の食事に慣れているヒナにとって味が見栄えに伴った料理を食べるのはカルチャーショックである。

 クラスメイトの男子達も文字通り、皿に食いついている。


「実は今日のお昼はちょっと特別なんだ。「リップオフ」って言う私達が贔屓にしているお店から用意して貰ったの」

「何時もそこで食べてるんですか?」

「ううん、週に一回行くかどうか、かな? やっぱり少し値が張るから」

「そうなんですか……あの……」

「うん、何かな?」

「何で私達と食事を?」

「え、私、今日一日みんなの担任に代わって引率しなきゃいけないし?」


 エメリが少し大きめのジャガイモを小さな口に含んだ。

 他のクラスメイト達はエメリとヒナに遠慮をする様に距離を空けている。

 男子は緊張から、女子はエメリとヒナが既知の仲なのを察しての遠慮、と言う具合だった。


「……私、もしかして悪い事しちゃったかな」

「多分、みんなどうしたら良いか解らないだけだと思いますよ。私は兎も角、他の皆は軍人さん達にあんまり良い印象、ありませんでしたから」

「あー……そっか、ヒナちゃん以外の子達って皆、上層居住区域の子達?」


 ヒナが頷く。

 上層居住区域に住んでいるとなれば、親が企業でそれなりの役職に立っている筈だ。

 ならば、親からは最近の軍と企業の間に摩擦が起きているのはある程度、日常的な会話の節々で耳に入ってくるのだろう。

 ――軋轢の中心部分、この駐屯地なんだよね。

 エメリが眉をしかめてしまうのを、別の意味で捉えてしまったのか、ヒナは慌てながらエメリに付け加える。


「皆、私に対して対等に接してくれます。それこそ、最初に警戒してた私が馬鹿に思えるくらいに」

「……そっか、大切な友達なんだね」

「はい」


 エメリがヒナのクラスメイトに視線を向け、何人かと目が会うと、食事を口に含んだまま、ペコリと頭を下げてくる。

 思わず笑みを浮かべたエメリは返事の為に手を振る。

 その様子をヒナは注意深く眺め、タイミングを見計らいながらエメリに個人的に重要な質問をする事にした。


「エメリさん、お兄ちゃんの何処を好きになったんですか?」


 エメリは意表を突かれた様に翠色の瞳を瞬かせると、左手の人差し指を顎に添える。


「えっとね、優しい所と頼りになる所、後は努力家な所、諦めない所、意外と人を見てる所、カッコイイ所、運動神経が良い所、逞しい所、真っ直ぐな所、私のお菓子を喜んで食べてくれる所、手が大きくて温かい所、割と子供っぽい所、寝るのが好きな所、後々――」


 エメリは思いつくままにコウタロウの好きな所を矢継ぎ早に上げていく。

 仲には本人の魅力としてはどうなのかと思う箇所もあるが、ヒナはエメリが自然体に笑うのを見てある事を痛感する。

 ――そっか、この人も――。


「けど、やっぱり一番好きな所は……私に愛してるって言ってくれた事かな」


 ――お兄ちゃんの事、大好きなんだな。

 はにかみながらも微笑むエメリを見て、自分の中の淡い想いを自覚した。




 学生達が昼食に舌鼓を打っている間、ヘンリー教授は兵舎の上階、本来は上官用に設けられた室内から抜け出そうとしていた。

 PCもある、テレビもある、十分な寝床と食料もある。憎い事に最近嵌り始めたボトルシップの道具と材料まで揃っている。

 ――だが、ダメだ。どうしても出たい。


「そもそも他のみんなが楽しく学生達と交流しているのに、何で私だけハブられなければいけないんだい!?」


 ちょっとエキサイティングかつ、浪漫満載な物を披露しようとしただけじゃないか。「あれ」が嫌いな男子はきっといない筈だ。

 ヘンリー教授は自分を閉じ込めている扉の電子パネルへと手を触れ、青白い光りが走ったと思うと体中に電流が流される。


「オパパパパーッ!?」


 感電の衝撃が体中を駆け巡りながらも気合と度胸でパネルから手を離し、床に伏す。少し焦げたが、7秒後には立ち上がる。


「くっ、ロックフェラーめ、老体相手に何て酷い仕掛けを作るんだ!! ちょっと予算で好き勝手しただけじゃないか!!」


 ヘンリー教授は割と真っ当な仕打ちに毒づきつつも、次はどうやってパネルを突破してやろうかと室内を物色し始める。

 すると、廊下から聞き慣れない若い声が3人分、扉越しに響いて来た。

 ――もしかして、学生かな?


「なあなあ、早く戻ろうぜ。流石にそろそろトイレに行ってます、って時間じゃないだろ?」

「うーん……兵舎じゃやっぱり面白いもの無いな。部屋に入れる訳でもないし」

「でも抜け出せるタイミングは昼食しかなっかたしなあ……午前中に本物の銃触らせて貰ったのをは楽しかったけど、やっぱり一度は実弾で撃って見たいよなあ」

「流石に実弾装填してんの俺らに触らせる訳にはいかんでしょ」

「ん、何かあの部屋だけ扉の作り違うんじゃないか?」


 ヘンリー教授の頭脳に電撃が走る。閃きの方で。

 急遽、廊下にいるであろう学生達に気づいて貰う為にノックをハイテンポで行う。


「誰か! 誰か出してくれ!!」

「うわっ!? な、何だ何だ?」


 ――よし、後は私の演技力の見せ場だな。

 ヘンリー教授の口端が凶悪に釣り上がる。


「そ、そこにいるのはもしかして今日来る予定だった学生かい!?」

「はい……そうですけど……」

「閉じ込められてしまったんだ、此処から出してくれ!」


 ――この前見たパニックホラーだとこんな調子の声色だったかな。


「え、え、閉じ込められたって、もしかして基地の人達にですか?」


 よしよし、流石は進学校。察しの良い子はお爺ちゃん大好きだよ。


「ああ、実は極秘兵器の研究開発をこの基地の司令官に強制されていてね……外部に洩れないように仕事が無い間はこうして監禁されているのさ……」

「それ、本当なんですか?」

「……そう言えば、親父が最近の軍が結構強気に軍拡してるって愚痴ってたな……」

「え、もしかして結構マジなやつ? ……あの、貴方の名前は……」


 ――ふふ、掛かったね。


「私の名前は、プロフェッサー・ヘンリーと言えば解ってくれるかな?」

「ええっ、あの奇人奇才で有名な!? どどどうしよう、これ絶対やばいヤツだよ!?」

「落ち着くんだ少年達よ、これから私の言う事に協力して欲しい。そうすれば、この駐屯地の邪悪を暴き、アーク内の正義を守る事が出来る」

「俺達が……船内の平和を守る」

「――そうだとも。若者達よ、私と一緒にこのアークの平和を守ってくれないか」

「は、はい!」

「え、本気かよ」

「馬鹿野郎、ヒーローになるチャンスだぞ! モテモテだぞ!!」

「うーん……でも、本当にプロフェッサーがここに監禁されてるとするなら、確かに可笑しいよな」


 育ちの良さから来る人を疑う事を知らない純真さにヘンリー教授は9mm程、良心を痛めたが、子供達が術中に見事に嵌った事に歓喜する。

 ――私もこれくらいの年頃は正義とか悪とかって言う単語に不思議な魅力を感じていたなあ。


「早速で悪いけど、そっちからはこ部屋のロックを解除出来そうかい?」

「よくあるパスワードの入力で開くやつですよ」

「ぬふふ、司令官殿は外側からのセキュリティーは甘くしてある様だね。読みが甘かったのか、それとも単にお金の節約か解らないけど好都合だ。ええと、ここは兵舎だから……君達、今から言う通りに入力をしてくれ」


 ヘンリー教授の指示通りの入力を学生が行っていくと、部屋を厳重にロックしていたセキュリティドアがいとも容易く解除される。

 仕組みとしては、ヘンリー教授が前もって用意していた非常時の脱出手段の一つだ。自分の権威を利用し、内緒で各施設ごとに解除用のパスを作っているのである。

 当然、一度使用すれば駐屯地内のセキュリティに記録が残ってしまうので何度も使える手段では無いが、その時はまた新しいパスをこっそり作ればいいだけだ。

 セキュリティドアが緩やかに開かれていくと、右手人差し指を頭上に掲げ、反対に左手は甲を見せつける様に下向きに握ってポーズを取っているヘンリー教授が現れた。

 光の反射具合で眼鏡が鈍く光る。


「私、復活!」

「本物だ……」


 有名人に会えた事で目を輝かせている学生達の視線を一身に浴びて、ヘンリー教授のテンションが上がっていく。

 そして廊下の警報装置が一斉に甲高いブザー音を響かせる。


『マリーから緊急事態発生のお知らせです。繰り返します。緊急事態が発生しました。緊急コードはヘンリーです。兵舎3階、隔離部屋のセキュリティが解除されました。直ぐに動ける係りの人は支給されている強化ゴム弾の装填、催涙弾、テーザー銃の確認を忘れずに対象を速やかに確保して下さい――手足一本くらいは許容範囲との事ですので遠慮せずにどうぞ』


 感情が薄そうな女性の声が廊下中に響き渡る。


「ぬうっ!? もうバレてしまったか!」

「あ、あの俺達どうすれば……」

「よし、諸君! それでは早速行こうじゃないか」

「でも、ここ突き当りですよ!? 直ぐに捕まっちゃうんじゃ」

「フハハハハハ、奇才とは常に一手二手からだいたい四十二手くらいまで保険を用意しておくものだよ! 屋上にまだ一度も使ってない逃走経路があるのさ!」

「意外と慣れてらっしゃる!?」


 年齢を感じさせない軽やかな挙動でヘンリー教授は廊下を疾走し、屋上に繋がる階段の踊り場へ我先にと向かうと、下の階へと続く階段から兵舎内にいた軍人達が駆け付けた。


「あ、居たぞ! ……って、学生達が人質に取らてるじゃないか! 催涙弾は使うな! う、撃て撃て!」

「とうっ!」

「おわあっ!?」


 軍人達が装備を抜き取るより先にヘンリー教授が前蹴りを放ち、先頭の軍人がバランスを崩して階段を転げ落ちて行く。


「こんのクソ爺があああぁぁぁ!」


 軍人達の罵倒が階下から響いていく。


「よし、今の内に屋上へ行こうか、君達」


 いい汗を薄くなって来た頭部に光らせながら振り向いて来る老人の笑顔を見て、学生達はある事に気づく。

 それは自分達が既にこの事態の渦中に入ってしまった事、先程の軍人の反応からして自分達が騙されてしまった可能性がある事。

 そしてなにより――


「よーし、楽しくなって来たぞ! やっぱり人生は刺激がなくちゃね!!」


 ――自分達が危険人物を野に放ってしまった事だ。


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