第14話 会えるといいわね

夏祭り当日。空は澄み渡っており、絶好の花火日和である。


 夏祭り会場に近い陽菜の家で浴衣に着替えてから、他の人たちと会場で待ち合わせる。と聞いていた春香は陽菜の家へと向かった。

「こんばんは。今日はよろしくお願いします」

「春香ちゃん、久しぶりね。さあ、入って」

 インターホンを鳴らすと、陽菜の母が春香を迎えてくれた。おじゃましますといって、あがらせてもらう。

「ちょうど陽菜の着付けが終わったところなのよ」

 そういいながら、陽菜の母は襖を開けた。

「春香、いらっしゃい」

 陽菜は紫地に白い水仙柄の浴衣を着ていた。大人っぽく、陽菜によく似合っている。

「陽菜、向こうに行ってテレビでも見ていなさい。ついでにお父さんに浴衣姿を見せてあげて。さぁ、春香ちゃん。着替えましょう」

 はーいと陽菜はリビングに向かった。お願いしますと言って、春香は持って来た浴衣を陽菜の母に渡した。自分で着付けができたらいいのにな。今度、お母さんに教えてもらって練習しよう。来年は自分でできるように。

「あら、可愛らしい柄ね。春香ちゃんによく似合っているわ」

「ありがとうございます」

 春香は無意識に右手で頭を触って、照れ笑いを浮かべた。あっ、お父さんのがうつっちゃったかな。陽菜の母は手際よく春香に浴衣を着付けてゆく。

「せっかくだから少しだけお化粧をして、髪も可愛くしちゃおうか」

 着付けを終えた後、陽菜の母が言った。

「えっ、いいんですか! でも、くくれるほど髪長くないですよ?」

「大丈夫よ。まかせて」

陽菜の母は楽しそうに春香の髪に触れた。


「陽菜―。春香ちゃん、準備できたわよ」

 春香の着付けをしはじめてから約20分後。母に呼ばれた陽菜が和室に入ってきた。

「浴衣、一昨年のと違うわね。似合っているわ」

 春香は白地に水色・紺色の矢絣やがすり、所々に小さな撫子が散りばめられた浴衣を着ていた。

「ありがとう。陽菜も新しい浴衣だよね。大人っぽい」

陽菜は涼しげに ありがと と言った。

「陽菜、春香ちゃん。そろそろ行かないといけないんじゃない?」

 会場まで徒歩で約15分。時計を見ると、待ち合わせ時間まであと25分となっていた。

「陽菜、行くわよ」

「うん。ありがとうございました」

「どういたしまして。気をつけて、いってらっしゃい。楽しんでくるのよ」

 いってきまーすと言って、二人は玄関を出る。

「あっ! 春香、ちょっとだけ待ってて」

 春香が分かったと言うと、陽菜は急いで戻った。リビングに向かい、母のもとへ。父には聞こえないように、耳元でひそひそと。

「お母さん、ありがとうね。会えるといいけど」

「きっと、会えるわよ。せっかく可愛くできたんだから」

 父は首を傾げて、妻と娘を見ている。

「ほら、急がないと。早く行ってきなさい」

 はーいと言って、陽菜は外に出た。

「おまたせ」

「じゃあ、行こっか」

 慣れない草履を履いているせいか、いつもよりゆっくりと歩を進める。陽菜は携帯を見る。あと20分あるし、大丈夫よね。

「楽しみだね。何食べようかな。たこ焼き、焼きそば、たません。たい焼きに、わたあめ。あっ、ソースで浴衣汚しちゃうかな……」

 春香はうーんと考えている。

「気をつけたら大丈夫よ。小さい子でもないんだから」

「そうだよね。陽菜は何食べるの?」

「そうねぇ……。すぐには決められないから向こうで考えるわ」

 迷っちゃうよねーと言いながら、春香はにこにこしている。

陽菜は春香の横顔を見ながら、会えるといいわねと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る