第7話
翌日、昼休みに春香と陽菜は「まろ」の話で盛りあがっていた。「まろ」は陽菜が一週間前に飼い始めた柴犬の名前だ。
「春香、まろの写真見たい?」
「見せて、見せて!」
陽菜の携帯画面には目が半開きの状態で眠っているまろが写っていた。
「ぷっ。ふふふふっ」
その写真を見た瞬間、春香は笑い出した。
「えー、可愛いでしょ? 他にもこんな写真とかあるのよ」
そう言って、陽菜は春香に写真をどんどん見せてくる。
「たしかに可愛いけど……。ふふふっ」
陽菜もすっかり親バカならぬ犬バカだな。まろを飼う前は「よくうちの子が一番可愛いっていうけど、そうかなー」なんて言っていたのに。と思いながら春香は笑っていた。
「春香、ちょっとお手洗いに行ってくるわ」
「はーい」
陽菜がお手洗いに行くために席を立つと、奏多も少し遅れてから同じく席を立った。廊下に出たところで、陽菜は奏多に話しかけられた。
「長谷川さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいけど……、後でいい? すぐ戻ってくるから、教室で待ってて」
「分かった」
3分ほど経ってから、陽菜は教室へと戻った。春香に一言ことわってから奏多の下へとと向かう。
「待たせたわね。聞きたいことって何かしら?」
「いきなりだけど、C組の田島優太って知ってる?」
ちなみに奏多たちはA組で、優太のクラスは2つ隣にある。
「知ってるけど。その子がどうかしたの?」
「知ってるなら良かった。そいつが長谷川の連絡先知りたいって言ってて。教えてくれないかな?」
なるほど、これはチャンスだわ。陽菜はいいことを思いついたと笑った。
「いいけど。倉科の連絡先も教えてくれない?」
「良かった。ありがとう。俺のは別にいいけど」
奏多は不思議そうな顔をしていた。もし言葉を続けていたなら「どうして?」と言っていたに違いない。自分の連絡先を聞かれるとは思っていなかったのだろう。
一方、陽菜はいい収穫をしたと満足そうな表情をしていた。
「それじゃあ、交換しましょ」
お互いに連絡先の交換を済ませた後、陽菜は春香のところに戻った。
「おかえりー。どんな用だったの?」
春香はそわそわしている。気になってるってことは、やっぱりそうなんだろうな。陽菜はつい春香に意地悪をしたくなった。ほらっ、可愛い子にはつい意地悪したくなるでしょ?
「ひ・み・つ」
「そ、そうだよね」
春香は下手な愛想笑いを浮かべている。
「嘘よー。たいしたこと話してないわよ。夜にメールするから待ってて」
とたんに春香はホッとしたような表情になる。本当に思っていることを隠すのが下手なんだから。そう思いながら陽菜は友人を見ていた。
「どうして夜なの?」
「いいじゃない。夜になってからのお楽しみに」
陽菜は、いきなり飛び出したら驚くだろうなと考えながら角に隠れて人が現れるのを今か今かと待っている子どものように笑いながら言った。
20時38分。春香がお風呂に入り終わり、部屋で小説を読んでいると着信音が聞こえた。携帯を見てみると、陽菜からメールが届いていた。
件名:こんばんは(#^^#)
春香、倉科の連絡先知りたい?
昼休みに何話したっかっていうと、
倉科の知り合いが私のアドレス知りたいっていうから、
ついでに倉科の教えてもらったのよ。
倉科の事気になっているんでしょ?
予想外の内容に春香は固まってしまった。倉科君のこと秘密にしているつもりだったのに、どうして分かったんだろう? と、とりあえず、返事をしよう。春香は指を動かした。
春香が、「教えてほしい」「どうして倉科君の事気になっていると分かったの?」というような内容で返信すると、陽菜からは「春香の様子を見ていたら分かるわよ。ちゃんとメールするのよ」と倉科のアドレスが送られてきた。陽菜には隠し事はできないなと思い、「ありがとう。頑張るよ」と送る。その後一時間、春香は携帯と格闘していた。
件名:島崎春香です
こんばんは。
長谷川さんに教えてもらいました。
よろしくお願いします。
何度も何度も打ち直して辿り着いた3行。たった3行だけなのになかなか送れない。えいっと勢いづけてから送信を押す。返事がこなかったら……と春香の心は安らかではなかった。
23:21。いつもならとっくに寝ている時間だが、春香は眠ることができなかった。ベッドでゴロゴロゴロゴロ……。そろそろ寝なくちゃと思っているとメールの着信音がなった。普段の春香を知っている人が見たら驚くであろう速さで動き、メールをひらく。
送信者:倉科奏多
件名:こんばんは
こちらこそよろしく。
また明日、学校で。
たった2行。それだけでこんなにも嬉しくなるなんて……。
緩んだ顔を隠すように布団をかぶった春香の胸は高鳴っていた。
再びゴロゴロゴロゴロ……。
春香にとって今夜は長くなりそうだ。
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