第3話
乙女の
春香が最も苦手とする時期である。
電車通学している春香は、いつも本を持ち歩いている。
電車通学とは言っても駅から高校までは歩かなければいけないわけで、雨が降っていれば多少は濡れてしまう。
春香は大切な本を傷つけることを最も嫌う。
本が濡れるくらいなら自分が濡れた方がましだと思っている。
もちろん、本はビニール袋で包んではいるが念には念をいれておくのが春香流である。
「春香はいつも鞄だけは濡らさないわね〜」
登校してきたばかりの春香に陽菜は言った。
「だって、本を濡らしたくないんだもん」
「本当に本が好きよね〜。
私は月に一冊ぐらいしか読まないけど。
春香は?」
「うーん……。だいたい10冊ぐらいかな?」
「10冊ってことは、一年で120冊!
文芸部で小説も書いてるんでしょう?
おまけに図書委員だし。
本づくしの生活を送ってるのね」
「えへへ〜。幸せだよ〜」
「私には理解出来ないわ。
まあ、考え方はひとそれぞれか」
陽菜はファイルから出した楽譜に小節番号を書き込み始めた。
「陽菜、大変そうだね。
毎日、朝も放課後も練習でしょ?
それは何で演奏する曲なの?」
陽菜は吹奏楽部に所属しており、ホルンをこよなく愛している。丸いフォームと音色がたまらないらしい。
「もちろん練習は大変よ?
今年からは一番下じゃなくなったし。
これはうちの高校の大先輩の同窓会でする曲よ。古い曲だけど、なんでも思い出の曲でリクエストがあったらしいわ」
「思い出の曲か〜。素敵な同窓会になるといいね!
それにしても、楽器を演奏できるって、すごいよ。
私なんて、部活見学でフルートを吹いてみたら、音がでなかったよ〜」
「ふふっ、ありがとう。
でも、春香も練習したらできるようになるわよ。
最初から上手くできる人なんて、めったにいないんだから。
私からしたら、小説を書いている春香のほうがすごいと思うけどね」
「すごいかな〜?
ありがとう。なんだか照れるな」
梅雨の時期にいだく気持ちとは異なり、陽菜と話している春香の気分は晴れやかであった。
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