■ 5 サービスシーンは突然に
「ぼくはちょっと買い物に出かけてきます」
食事を終えてコタツの上がキレイになるとあるじ様がそんなことを言い出した。
「お買い物でしたらあたしが」
「この付近の様子も分からずにどうやって買い物するつもりですか」
確かにそうだけど、仮にもあたしは召し使い同然なんだし。
「買う物とかお店を教えて頂ければ」
「その手間が面倒なのです。そろそろお店も閉まりますし今後頼める状態までになったらシャランラさんにお願いするとします」
「うー」
「ああ、それとお風呂が用意してありますので出かけている間に入ってください」
「あるじ様より先になんて入れませんよ」
「ぼくは昼間、シャワーを浴びていますので気にならないのです。では出かけてきますので戸締まりに注意して下さい」
またもやあたしの意見を軽くスルーしてあるじ様は出て行った。
仕方ないのでお風呂に入る前にあるじ様の家を探索してみた。
どうやらワンルームと呼ぶ形態らしく八畳の居間に台所とお風呂場、トイレが別にあって一人住まいに適しているみたい。カンデーラのあたしの部屋よりいくぶん狭い。
でも部屋にある家具とか機械が極端に少ないからむしろあたしの部屋より空間が広く感じる。何よりものすっごく片づいている。
台所には調理器具が一式あってオーブンだと思う機械が一つ、あと戸棚も一つでその中にお皿とかコップがきちんと並んでいた。
トイレは腰掛ける形式でここもキレイ、洗濯機械があってお風呂場もピカピカだった。
これ、あるじ様が全部一人できちんとしているのかな。あたしお婿さんに欲しいくらいだわ。
ただ、部屋の中を見て思ったんだけど無駄なものが何一つ無い。生活に必要なものしか存在しないって感じ。
唯一台所の戸棚の中に小さなぬいぐるみがあったけど、何かのおまけなのかなあんまり高級そうなものでなかった。
ホントはお風呂なんて魔法でちょいちょいなんだけど、ここであるじ様に逆らうのが少し怖い。仕方がないので衣装を脱ぐとさっそくお風呂場に入った。
日本のお風呂はどどーんと湯船があってそこに浸かるらしい。フタを取ってみると湯気が沸いてむしっとする。手で温度を測ってみるとあたしには少し熱かった。
これに入るとやけどしそう。シャワーだけ浴びることにする。使い方はあたしの世界とほとんど変わりない。
さっき購入した日本の基礎知識に照らし合わせてさっと汗を流した。
それから液体の石けんを泡立てて身体を洗う。あたしっていつまでここに居るのだろう。
もしかしてあるじ様、あたしがずっとここに居て欲しいのかな。
それにしてはアンテナ反応しないし。意図がよく判らない。
出張扱いは出張費が上乗せされるからうれしいけど、あの無表情のメガネの奥に何を考えているのか判らないのが怖い。何かあっても魔法で何とかなるけど気分的なことは治らないもんね。
あたしは洗い場のイスに腰かけて身体をごしごし洗う。目の前の鏡に映った貧相な身体にため息ついた。
せめてもう一カップ大きければなあ。
「シャランラさん」
いきなりお風呂場の扉がフルオープン。あたしの全身もフルオープン状態。
たぶん限界まで見開いたあたしの目とあるじ様の無表情の黒い瞳がバッチリと合った。
まさかまさか、こうやって無防備な状態のあたしを狙っていたなんて、それともこれから湯船を使って何か拷問するの?
さっき湯船を見たときは怪しい生物は入っていなかったけど、もしかして毒入り?
そうよ魔女狩り。営業部の記録にも残っているけどこっちの世界で五〇〇年前、あたしたちランプの魔人を魔女だって拷問しようとしたって言うわ。
もしかしてあるじ様、そのご子孫?
「あわあわあわ、その」
「シャランラさんのスリーサイズはバスト七五、ウエスト五七、ヒップ八五ですよね。ブラジャーのサイズは七〇Bで問題無いですか」
「ど、どうしてそれを」
「ちなみに足のサイズは二四センチ、股下七〇センチ、頭のサイズは五四センチ、体脂肪率は二七パーセント、BMIは二四、少々太め……」
「や、やめてー!」
あたしは胸が丸出しになるのも忘れ両手で耳を塞いだ。なにこの精神攻撃。
「一応着替えの下着と寝間着、あと外出用の洋服一式と靴下に靴を買ってきましたのでサイズを見て下さい。もし合わなかったら明日また買ってきますので」
「そ、そのための買い物ですか!」
「それと少々熱くてもきちんと湯船に漬かった方が良いですよ。シャワーだけでは湯冷めしますからね」
「見てたのね、どこからか見てたのね! それお記録して美少女ランプの魔人の入浴シーンとか言ってどこかに売るのね!」
あたしは中腰になって講義した。それに対してどこかを無表情に見ているあるじ様。
「興奮するのは止めませんが大股開きはよろしくないと思います」
あたしは慌てて太ももをこすり合わせてタオルで隠す。すると今度は胸がむき出しになった。
そんなことをしているとあるじ様は興味が無いとばかりに扉を閉めて居なくなっていた。
胸か、どうしてもこの胸には興味が持てないってことか!
それよりなにより、あたしの大事な大事なみーんなを見ておきながらアンテナはぴくりとも動かない。
あたしは大きなため息をついて洗い場にぺたんとお尻をつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます