女子小学生のメモ帳
「……あれ? 画像が保存できない」
小学五年生の少女、
スマホのメモリが一杯になったらしく、写真が1枚も保存できない。要らない写真を消そうとカメラロールを開くが、削除できるものが意外と少ない。
「……そういえば、使ってないアプリが多かったっけ」
すぐにホームボタンを押し、カメラロールからホーム画面へと戻る。
「おっ、あったあった」
画面上には叶子の記憶通り最近使ってないアプリが山ほどあった。こいつらを削除すれば、容量にも空きが出来るだろう。早速端から順番に削除していく。
すぐ飽きた無料のゲーム、使用頻度の低いQRコード読み取りアプリ、もう読まなくなった漫画アプリなど適当に次々と消していく。
しかし、しばらくアプリを消した後、とあるアプリに差し掛かったところで叶子の手が止まった。ピンクのハートマークのアイコンの下に『簡単メモ』の文字。そのアプリは確か......
「簡単メモ? そういえば、こんなアプリ昔ダウンロードしたっけ」
思い出した。確かこれは、スマホ内臓のメモよりアイコンが可愛いという理由で一時期使っていたメモ帳アプリだ。
「……そういや私、どんなメモ書いてたっけなぁ」
自分の書いたメモに自分が興味を持つというのもおかしな話だが、最低でも1年以上開いていないので、自分でも何を書いたかさっぱり覚えていない。叶子は好奇心を胸に、細い指先でアプリをタッチした。
画面には「閲覧モード」「記録モード」の二つの文字が現れる。閲覧モードをタッチすると、おそらく一番古いであろうメモがすぐに表示された。
◆
2016年 10月 19日
買い物メモ
ハンドクリーム
リップ
消しゴム
◆
「買い物メモか。覚えてないけどこんなの書いたっけ」
10月といえば肌寒さを感じ始める頃。ハンドクリームもリップクリームも必要になって来るだろう。なるほど、意外としっかり利用してたんだな。叶子はふむふむと納得し、右下の『次へ』の文字をタップした。すると、次のメモへとページが移動する。
◆
2016年 11月 12日
ブルー・スリーとジャッキー・チェン
どっちがどっち?
◆
「へー」
先ほどのメモから一転、随分どうでも良いメモが現れた。そもそもブルースリーはブルー・スリーじゃなくてブルース・リーだし。なんて指摘が出来る時点で、どうやら1年前よりブルースリーに詳しくなったらしい。
「こんな事メモしたっけ?」
叶子は1年前の自分を思い出そうと、メモを眺めながら必死に考えを巡らせる。そのまま「むー」とオカルト雑誌みたいなうなり声をあげて考え込むが、どうしても思い出せなかった。
こんな取り留めもない内容なら、1年以上経った今全く思い出せないのも無理はないのかな?
ある意味メモに対して新鮮な興味が持てて楽しいかも。そんなプラス思考に切り替え、叶子は『次へ』をタップした。
◆
2016年 12月 9日
どうせ勉強して良い学校に入っても、隕石が落ちてきたらみんな死ぬから無意味では?
◆
「あちゃー」
随分と雑な現実逃避だ。きっとこの頃、テストで悪い点数でも取ったのだろうか。そんなに悪い点数を取った覚えはないけど……。
次見よう。
◆
2016年 12月 13日
今日、先生に怒られた。でも叱られるような事をした私が悪いんだ。先生、注意してくれてありがとう。
◆
「おお~、いい子じゃん」
きちんと反省して次に活かす。我ながら良い態度だと思う。さすが私だ。次。
◆
2016年 12月 13日
買い物メモ
ペットボトル
ドライアイス
釘
◆
「復讐しようとすんな!」
これ爆発するやつじゃん。やめてよ。次!
◆
2016年 12月 19日
私、面白いことを思い付く人になりたい!
◆
「へえ、こんなこと思ってたっけ」
どれどれ、その「面白いこと」とやらは思いついたのだろうか。
◆
2016年 12月 19日
京都のチンギス・ハン
→チンギスはん
◆
「……そんなに面白くないな」
次。
◆
2016年 12月 10日
裂いた〜裂いた〜チューリップの花を〜♫
チューリップ「やめて!」
◆
「そんなに面白くない」
次。
◆
2016年 12月 10日
羅生門 in お花屋さん
「この花を抜いてな、この花を抜いてな、花束にしようと思うんじゃ」
◆
「そんなに」
次。
◆
2016年 12月 10日
とにかく苦しい安村「助けてください! 生き地獄ですよ!」
◆
「そんな」
次。
◆
2016年 12月 10日
私、めっちゃおもしろ〜
◆
「自分に甘いぞこいつ!?」
なんというか、反省して欲しい。次!
◆
2017年 1月 8日
『
◆
「懐かしいなぁ」
いつ読んだかは覚えてないが、確か朝の読書の時間に読んだっけこの本。結構感動した覚えがある。ちなみに『がばい』はすごいという意味だ
「書いた日にちも表示されるし、日記として使ってたんだな」
そんな過去の懐かしき思い出に浸りながら、叶子は次へをタップする。
◆
2017年 1月 9日
佐賀のがばいばあちゃん
VS
サドのヤバいばあちゃん
◆
「なにが?」
サドのやばいばあちゃんって何? SM嬢の老婆?
次!
◆
2017年 1月 9日
佐賀のがばいばあちゃん
VS
◆
「粉々になるわ」
がばいばあちゃんをいじめるな。高齢者をなんだと思ってるんだ。
次!
◆
2017年 1月 9日
佐賀のがばいばあちゃん
VS
死
◆
「致命傷負ってる!」
やっぱり地雷と戦うなんて無茶だった……死なないでばあちゃん……
次……
◆
2017年 1月 9日
劇場版 サーガのがばいばあちゃん
〜笑顔で生きんしゃい〜
へ続く
◆
「なんだそれ」
中途半端なところで終わんな。自分が書いたメモなのにムカつく。
「なんだよ、下らないメモしか残ってないじゃん」
これじゃあ私がバカなヤツみたいじゃないか。
◆
2017年 1月 19日
食べ物を捨てていいねを稼ぐのがインスタグラムなら
人間性を捨てていいねを稼ぐのがツイッターだなぁ
みつを
◆
「急に真面目かよ」
あと絶対みつをじゃないだろこれ。すぐバレる嘘をつくな。次!
◆
2017年 2月 1日
買い物しようと街まで出かけたが
名前を忘れて
愉快な......誰?
◆
「これも別に面白くないし」
メモるのは良いんだけど、当時の私はこれを何に使おうと思ってたんだろう。それが本当に謎すぎる。
◆
2017年 2月 5日
繰り返される悲劇によって心は荒み、生きる意味さえ見失っていたある日、私は彼と出会いました。彼は私の心にそっと寄り添い、忘れていた幸せを思い出させてくれました。彼のおかげで、みんな笑ってる。子犬も笑ってる。お
……誰?
◆
「結局サザエさんかよ」
名前くらいそろそろ思い出して欲しい。次!
◆
2017年 2月 19日
磯野〜、野球やろうぜ〜
かつを
◆
「みつをみたいに言うな」
あとそのセリフは中島だろ。次、次!
◆
2017年 2月 9日
ソロモン13死徒の一人にして、
◇
「は......恥ずかしいぞコレ......」
確かに昔にオリキャラを考えてた時があった気もするけど、いざ内容を忘れた今客観的に見せられるともう、見るに堪えない。
「......」
……なんか怖いけど、一応続きの設定も見てみるか。
◇
【長所】
質実剛健、器量もよく、非常に紳士的だが抜けたところもある。正義のためなら自らの身を粉にして全力で努力することも厭わない。
【短所】
一度キレると手がつけられず、卑猥な言葉を
◆
「やばい奴じゃねーか」
なんでこんなに致命的な短所を設定したのだろう。やはり、全く思い出せない。
「……自分の書いたメモの内容、こんなに思い出せないか?」
1年前とはいえ、ここまでインパクトのある内容を全部まるっきり忘れるほど、私は記憶力が弱かっただろうか。
「ていうか、私がこんなに恥ずかしくて痛くてセンスのない設定を考えてメモ帳に残していたとは到底思えないんだけど……」
叶子の胸に中に、大きな違和感が湧き上がる。と、その時。スマホ画面右端にある「グローバルモード」という小さな文字が目に入った。
「……あっ!」
思い出した。このアプリの正式名称は「簡単グローバルメモ帳」だ。そう、メモの閲覧には2種類のモードがあったのだ。グローバルモードとローカルモードがあり、ローカルモードは自分のメモ帳の閲覧だが、グローバルモードは「このアプリを使っている全国すべての人」のメモの中からランダムに表示がなされる。
つまり……
「これ、私が書いたメモじゃない!」
道理でなにも覚えていないはずだ。だって、他人が書いたメモなんだから。覚えがなくて当然だ。
叶子はすっかり腑に落ちた表情で画面端をタップした。すぐに表示がグローバルモードからローカルモードに変化する。これでやっと、本当に自分が書いたメモが見られるという訳だ。
「さてさて、いったいどんなメモが残ってるかな〜」
◆
2017年 2月 9日
ソロモン13死徒の一人にして、
「こっ、これは私なのかよ!」
顔を真っ赤にしながら、恥ずかしくて痛くてセンスのない叶子は逃げるようにアプリを削除した。
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