女子小学生が食べ物を食べるだけの話
小学五年生の少女、
そう、一人で洒落た飲食店に入りたいという目的があった。
先日偶然テレビで見たドラマ『孤高のグルメ』の影響だ。中年男性が一人で食事をするだけのドラマだが、叶子の目にはそれが格好良く映ったのだ。ちなみに叶子の母はその中年男性を見て「友達居ないのかしら」とだけ感想を述べた。
そんな経緯で繁華街を歩く叶子だったが、ある料理屋を見てその足を止めた。
叶子の目線の先には『多国籍料理店インディエゴ』という看板が掲げられた小さな店があった。看板の横にはどこの国のかも良く分からない国旗が3つほど並んでいる。多分ブラジルの近くな気がする。
そして入り口の側の、黒板で出来た立て看板には『マジか! 肉が二百円!』という全てが怪しい宣伝文句が掲げられていた。
大人なら
ただ、叶子はマジか! という言葉を見たせいか、昔メールを返信する際「マジか!」と送ろうとして「マギカ!」と間違えて送ってしまった過去を思い出した。その時は1ヶ月ほどあだ名が「魔法少女」になった。
今思うと図らずも『返信』と『変身』をかけた高度なギャグになってしまっていたのも運の尽きだった。あと、そういえば影で『返信で変身する変態』と呼ばれていた。
思い出しただけでも恥ずかしいので叶子は考えるのを止め、木製の扉をグッと押して店内に入った。店内は割と明るく、狭さを感じない程度の店だった。木でできたテーブルがいくつか並んでいる。意外にもお客さんは何人か既に座っていた。見た目
「イラッシャイマセェェ」
するとすぐに、店員の片言な接客が耳に届く。リオデジャネイロっぽい顔だなぁと何故か感じた。
「ナンメェェサマデスカァァ」
「一人です……」
無駄に勢いのある接客に押される叶子。正直もはや帰りたい。
「オセキハコチラァデェス」
案内された席に座る叶子。なんか椅子が硬かった。形がおかしい。骨が刺激されて痛い。お尻の骨が痛い。
「あの……これ痛い……」
「ソチラハ
「な、なるほど……」
「ゴユックリー」
普通の椅子が良かった。
しかし、もう座ったからには何か頼むしかない。叶子は机に置かれていたメニューを開く。しばらく考えた後、店員さんを呼んだ。
「ハァイ」
「あの……。この『肉のソテーのムニエル』と……」
「ハァイ」
「……『ライス』で」
「ハァイ」
店員は奥へと引っ込んで行った。ヘーベルハウスかよ。叶子は思った。
しばらく待っていると店員さんが「ハァイ」と言いながら料理を運んできた。米とトロトロした何かがテーブルに並ぶ。
「ユックリドウゾ」
言って店員は奥へと引っ込んで行った。
「……」
トロトロした何かは湯気を上げてプルプルしている。付いてきたナイフで割ると赤い液体がこぼれてきた。叶子は地獄みたいな光景だなぁと思った。
でも折角だから、なにかドラマみたいに、気の利いた感想を思い浮かべながら食べよう。そう決心し、トロトロした何かを口に運ぶ叶子。
「わあ、トロトロしてる!」
口をついて出てきたのはそんな言葉だった。叶子は自分の無力を思い知った。さらに厨房から店員の「ショクジチュウハ! シャベルナ!」という声が聞こえてきたのでテンションがもっと下がった。
料理自体は、どうやら卵と唐辛子を使ったモノらしい。普通に美味しかった。ただ肉が入っていなかった。『肉のソテーのムニエル』とは何だったのか。
「……ん?」
一応食べ終わった叶子は、皿の下に手紙みたいな紙が折られて置かれているのに気づく。それを見てみると『多国籍占い』と書かれていた。どうやら料理のおまけに占いが付いてくるらしい。叶子のテンションが少しだけ上がった。少しドキドキしながら、その占いを開く。
◆◇
先祖占い 多国籍編
【あなたの先祖はむかし何かを殺しました。残念。あなたには祟りが降り注ぐ】
◆◇
正直「は?」以外の感想が出て来なかった。なんか多国籍って付ければ責任が分散するとでも思っているのだろうか。「罪は全ての国に平等に背負ってもらうぞ」
叶子は思った。
会計はなんだか安かった。合計400円らしい。ありがたいなぁ。それとおまけで「☥」←こんな感じのキーホルダーをもらった。死者蘇生みたいだなぁと思った。
店を出ると辺りは少し暗くなっていた。
「……」
総合的に判断した結果、もうこの店には来ない事に決めた叶子。日が暮れる前にと、静かに家路を急いだ。
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