女子小学生四人が王様ゲームをする話 後編

【前回までのあらまし】


 神崎黒音の突然の提案により急遽として開催されることになった合コンという名の女子会。そこに集まったのは神崎黒音、藍原のどか、梁凛麗、桜凱旋の四人の少女たちだった。黒音があらかじめ用意していた道具によって始められたのは「王様ゲーム」。合コンの定番のゲームであった。はたして、四人は無事生き残ることが出来るのだろうか……?

  女子小学生が繰り広げるキャッキャウフフ的デスゲーム、今開幕!


【ここからは申し訳程度の心理戦が始まるので3人称視点でお楽しみ下さい】


「じゃ、この4本の割り箸を一人一本引いてもらえるかしら」


 言って、黒音がはしを隠しながら4本の箸を4人に突き出した。黒音は最後に残ったものを受け持つらしい。


 桜、凛、藍の順で割り箸を引いていく。そしてせーので全員が自分の箸に目を向けた。


「……あっ」


 桜が嬉しいような戸惑ったような声を上げる。どうやら一発目の王様は桜らしい。比較的まともな命令をしてくれそうな人に当たった。


「へー。私が王様かぁ……。困ったなぁ……何にも命令とか考えてなかったぜ……」


 あまり真剣にこのゲームに参戦していなかっただけあり、どうやら自分が王様になったときのことを考えていなかったようだ。物欲センサーなんて言葉があるが、やっぱり無欲な方が引きが良いのかも知れない。本当に何も考えていなかったらしく、桜はうーんとうなりながら困った顔で逡巡しゅんじゅんし続ける。そんな様子を心配してか、隣の凛が桜に話しかけた。


「なんでも良いんですよセンちゃん。例えば、1番が3番に刺青いれずみるとかどうです?」


「そんな一生残る命令いやなんだけど……」


「そう言えば、たしか小屋にはんだごて・・・・・があったわね」


「控えめに言って拷問だぜそれ?」


「あら、でも私『キミは刺青をるのが上手いね』ってこの前言われたわよ?」


「すぐバレる適当なウソつくのやめようね?」


 比較的悪ノリが過ぎる凛と黒音を、比較的平静な藍と桜が止める。まあ本気で言ってはいないとは思うが。


「な、なら……例えばですけど、2番と王様がキスとか、1番と3番が退場とかどうです?」


 凛が顔を赤らめながらキモい事を言い始める。さっきの提案とは明らかにベクトルが違った。


「オーケー……。誰がどの番号が分かっちゃったぜ……」


 桜はほんの少しだけ迷った後『丁度良い命令を見つけたぜ!』的な表情で口を開いた。


「2番がなにか『恥ずかしかった話』を話すとかどうかな?」


 ごきげんようのサイコロに書かれてそうなお題を言う桜。全員が思った通りやっぱり、桜の命令は控え目で良識のある命令だった。狙い撃ちされた凛はと言うと、意外にも凛とした落ち着いた表情をしている。


「……あら。いきなり私が呼ばれるなんてね」


 すると、凛ではなく黒音が口を開いた。


「……黒音ちゃん?」


 藍が黒音の箸を覗き込む。そこに拙い文字で『2』と書かれていた。


「!」


「あっ、凛騙したな!」


 桜が凛に『してやられた!』という感じの表情を向ける。凛はやけに楽しそうに笑っていた。


「うーむ……凛がゲームに対してだけは異常なレベルでめっちゃシビアなの忘れてたぜ」


 ぐぬぬ、と悔しそうにする桜。


「父がゲーム会社に勤めていますからね。私にとっては、遊戯ゲームと書いて決闘と読むんですよ」


 カードゲームのCMみたいな事をドヤ顔で言う凛。桜は今度の節分で凛には豆の代わりに黄砂を投げてやろうと心に誓った。多分数分後には忘れる誓いだった。


「……命令なら仕方がないわね。私が恥ずかしい話しとやらをしてあげましょう。あまりすぐには思いつかないけれどね」


「黒音ちゃん……」


 藍は『黒音ちゃんは普段の私生活を話すだけで十分恥ずかしいのになぁ』と思った。けど口には出さないでおいた。


「そうねぇ。この前本屋で『ブックカバーお願いします』っていうのを間違えて『ブックマークお願いします』って言っちゃったのが恥ずかしかったかしら。意識が高い人だと思われたかしらね?」


「多分スマホのやり過ぎくらいにしか思われてないと思うぜ」


「……なんだか思い出したら恥ずかしくなってきたわ……」


 言いながら、黒音が顔を赤らめる。藍は『黒音ちゃんは普段の生活が一番恥ずかしいから大丈夫だよ!』と言おうとしたけどやめた。

 可も不可もないまろやかな空気が全員の周りに流れ始めたところで、二回戦が始まる。全員が箸を引いていく。そしてせーので自分の箸に目を落とす。


「……ってまた私かい!」


 桜が半ば呆れた様子で割り箸にツッコミを入れた。凛がそれをちょっとだけ羨ましそうな目で眺める。


「もう変な揺さぶりとか心理戦が苦手だからさっさと命令するぜ! 3番が『悲しかった話』をする!」


 またもごきげんようのサイコロに書かれてそうな命令をする桜。


「…………あら」


 そしてまたも当たる黒音。言い出しっぺが弱いのはどうやら全国、全年齢共通らしかった。


「悲しかった出来事ね……うーん」


 黒音が少し考えあぐねる。黒音ちゃんはアホだからあんまり悲しい経験とか無さそうだなぁ、藍は思った。口には出さなかった。


「実家が区画整理で潰されたとかどうです?」


「なんだぜその妙にリアルに嫌な話……?」


 言っているうち、黒音は話を思いついたらしく、おもむろに口を開いた。


「……そうね。この前私がシルバーアクセサリーが付いた黒い服を着てたら、藍ちゃんに『それって、ハエのコスプレ?』って言われたのが悲しかったわね……」


「そ、そんなこと言ってないでしょ!」


 急にエピソードに盛り込まれた藍が慌てた様子で否定する。


「少し前の事だから詳しく覚えてないけれど、藍ちゃん確かそんなこと言ってたわよ!」


「わ、わたしは『なんかその服ハエみたいな模様だね』としかいってないよ!」


「むしろそっちの方が残酷な気がするぜ……」


「ともかく、あれ以来あの服着られなくなったのよ! なんか気になるから!」


「い、いい意味で『ハエみたいな模様』っていったんだよ!」


「良い意味……?」


「そ、そう。ベルゼブブみたいって意味だよ」


「ベルゼブブ……なにかしらそれは?」


「蠅の王。いだいな悪魔だよ。つまり『ハエみたいな模様』っていうのは、悪魔的なかっこよさだって意味なんだよ」


 それを聞いて納得したのか、黒音はとても満足そうな顔になった。凛と桜は『黒音ちゃんって見た目と喋り方の割に意外と簡単な性格なんだなぁ』と思った。


 話も終わったところで、改めて仕切り直しだ。割り箸を引いて、せーので全員が自分の箸を見る。


「……わたしだ」


 今度、王様を引いたのは藍だった。そして、藍は何を命令するかあらかじめすでに決めてあった。まるで国民の前で勅令を述べる王様みたいな雰囲気で、のどかは口を開いた。


「王様ゲームを終了します!」


 その後は4人でテレビゲームをして遊んだ。普通に楽しかったという。『ペッキーゲームをやろう』と凛が提案し始めたが、速攻で棄却されたのはまた別の話。

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