女子小学生四人が王様ゲームをする話 前編

 

「ねぇ藍ちゃん。合コンしてみたいと思わない?」


 大人びた雰囲気の女の子私の友達神崎黒音かんざきくろねちゃんがファッション雑誌を読みながら、落ち着いた声でそんな事を言ってきました。

 ちなみに、小学生とは思えないスタイルの良さ。品のある喋り方。端麗な容姿。そしてその全てを台無しにするアホさ加減。それが黒音ちゃんを構成する成分です。

 私たちは今、黒音ちゃんの部屋に居ます。放課後私が遊びに来ました。


「えー? どうして?」


 何でこんな事を合コンがしたいなんて言い出したのでしょうか。多分なにかロクでもないモノの影響だろうなぁと言う予感がします。なので私は少しだけ嫌そうな雰囲気で応えました。多分黒音ちゃんは鈍感なのでその雰囲気は汲み取ってはくれないと思いますが。

 そしてやっぱり気づがなかったようで、黒音ちゃんは圧倒的なドヤ顔で事のあらましを説明し始めました。


「私最近『大ウケ間違いなし! 圧倒的合コン術! お持ち帰り編!』という本を読んだのだけれどね」


「なんでそんなのよんだの……?」


『お持ち帰り』なんて露骨な言葉が書かれた本を読む機会、いつあったのでしょうか。


「ええ、兄の部屋にあったから、少し拝借したのよ」


 黒音ちゃんのお兄さんって……。もっとも、黒音ちゃんは『お持ち帰り』の意味はよく理解していないとは思います。私はこの前漫画で知りました。最近の少女漫画って過激です……。


「折角読んだ本なのだから、実践したくて仕方がないという訳なのよ」


 黒音ちゃんはものすごくウズウズした顔をしています。お持ち帰りに使うテクニックなんてものを実践してしまったら、それはとってもいやらしい展開になりそうで怖いです。


「ほら、この日のためにペッキーを沢山買っておいたのよ」


 ペッキー。細長い棒状のお菓子です。ペキペキ折れるくらい細いという理由からこの名前になったらしいです。


「これ、なににつかうの?」


 ペッキーゲームだろうなぁとは思いながら一応聞いてみました。


「ペッキーゲームに使うのよ」


 案の定でした。ちなみに、ペッキーゲームとは、二人がペッキーの両端を口に入れ、同時に食べ進めて行くというゲームです。先に放した方が負け。早い話、軽い気持ちでキスするためのゲームです。ウェーイウェーイチュッチュッです(少女漫画調べ)

 でも多分、黒音ちゃんはそこまで気づいていないか、単純なチキンレースの一環だと勘違いしていると思います。良くも悪くも無邪気です。


「うーん、でもふたりじゃ合コンなんてできないよ……?」


 私はやんわりやらない方向に持って行こうとします。


「大丈夫! 人を増やそう! 電話でね」


 黒音ちゃんは強引にやる方向に持って行きます。無駄に行動力が高いです。止める間もなくどこかへ電話をかけはじめました。


「誰も出なかったら、せめて2人でペッキーゲームだけでもやりましょうね」


 コール音の最中さなか、黒音ちゃんが屈託のない表情でそんな事を言ってきます。


「やらないよ……?」


 ペッキーゲームなんてやったら最後には……


「あれ、藍ちゃん顔赤いわよ」


 なにも想像してません。別になんにも変な光景なんて想像してません。


「……このへやあついね」


 この部屋が暑いと思ったのでそのまま思った事を口に出しました。地球温暖化って怖いです。


「そう? 私は、まだ春は遠い気がするわよ」


 ──もしもしー?──


 誰かに繋がったようです。


『もしもし、桜ちゃん? 今時間あるかしら? え? 凛ちゃんも一緒に居るって? それは都合が良いわね。ええ、うん。そういうことで」


 スマホをタップして通話を終了させる黒音ちゃん。


「二人増えるわよ」


「……へー」


 こんな顔→(ㆁᴗㆁ)


 でワクワクと勇みたつ黒音ちゃんとは対照


 わたしはものすごく心配そうな顔→(´・_・`)


 をしていました。




 1分後


(´・_・`) (ㆁᴗㆁ)









 3分後


(´・_・`) (*゜▽゜*)








 5分後


(´・_・`) (*゜▽゜*)




 




 ちなみに、女子だけで集うとなると、これから行うのは合コンというよりは女子会だなと思いました。



 ◆◇



「よう。到着したぜ!」


「お邪魔します」


 黒音ちゃんの部屋に同級生の女子二人が参戦しました。背の低い、元気のみなぎる女の子が桜凱旋さくらがいせんちゃん、背の高い、どこかオロオロとした雰囲気の女の子が梁凛麗リャンリンリーという名前です。二人ともクラスメイトで、結構一緒に遊んだりします。二人とも黒音ちゃんには敵いませんが優しくて落ち着いた雰囲気なので好きです。


「あれ、はやかったね」


 そういえば、黒音ちゃんが電話してからまだ5分くらいしか経っていません。二人とも家は確かもっと遠くだった気がします。


「おう。偶然にも、凛と一緒に出かけた帰りだったんだぜ」


 まるで決めゼリフみたいに、メガネをくいっと上げながら言う桜ちゃん。


「はい。丁度暇している所でした」


 楽しそうに笑いながら言う桜ちゃんの隣で、凛ちゃんも小さく大人しい笑顔を浮かべます。


「ふふふ。二人とも仲が良くて良いわね」


 なんて相づちを打ちながら、黒音ちゃんはガサゴソと机の中から何かを取り出してきました。


 割り箸でした。


「ん? なんだぜコレ?」


筷子はし、のようですね」


「そう、割り箸よ。そして、電話で少し触れた『合コン』名物、王様ゲームには必需のアイテムよ」


 黒音ちゃんがドヤ顏で割り箸を見せつけます。桜ちゃんと凛ちゃんはそれに釘付けです。


「このはしはしには1から3の番号と『王様』という文字がそれぞれどれか書いてあるわ。ランダムに全員で引いて、王様と書かれた箸を引いた人が他の人になんでも命令出来るのよ」


 その後も、番号を使って命令するから自分の引いた番号は他の人に言わない方が良いよ、などと細かいルール説明が行われました。黒音ちゃん、こういう手際だけはなぜか良いんです。不思議です。

 一通りの説明を終えた時、桜ちゃんはワクワクとした表情をしていました。


「なるほど……。なかなか面白そうだぜ」


「……命令」


 ネイティブにつぶやく凛ちゃん。


「あら、どうしたの? 何か気になることがあるのかしら?」


 難しい顔をしている凛ちゃんに、黒音ちゃんが話しかけます。


「……皆さん。死ねと言われたら死ぬ覚悟はありますか?」


 重いです。 凛ちゃんはどんな命令する気なのでしょうか。


「王様ゲームは絶対……分かったわ。命をして戦いましょう!」


 黒音ちゃん乗っちゃった! なにこれ。デスゲーム?


「……分かりました、では水銀とガスコンロを用意してください!」


 何に使うの!? 凛ちゃんなんか目が怖いよ!


「水銀? は家にないわ! 代わりと言ってはなんだけど、水筒すいとうじゃダメかしら!?」


 全く代わりにならないよ! さては黒音ちゃん水銀を知らないな!



「凛は意外と、ゲームや勝負事に真剣なんだよな。あの目、私が将棋で『待った』をかけた時と同じ目をしてるぜ」


 こうして、


 無駄に真剣モードになった凛ちゃん


 はなからやる気満々の黒音ちゃん


 妙に傍観者感を醸し出す桜ちゃん


 私


 この四人での王様ゲームが幕を開けました。




 続きます


(当たり前ですがもちろん水銀は用意されませんでした)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る