第29話 自宅―上段澄海【宇宙人】
料理も作ってご飯も食べて、さてどうやってこの眠ったフユルギを部室まで連れていくかと悩んでいると
「んー………おぁよう」
「あ、起きた。よく寝た?」
奇跡のようなタイミングで起きてくれた。助かる。
起き抜け特有のガラガラ声でフユルギが起き上がったよ。
なんで起き抜けって声が出しにくいんだろうね
「………俺の飯は………?」
「智香ちゃんが飲み干したよ」
「はあ!?」
ガンッ! とテーブルを叩いて立ち上がる
おおっと、迫力があるからすごまないでほしい。
でも起き抜けのこの一言で完全に目が覚めたみたいだね。
「半分本当だよ。一人前だけは確保してあるから、部室で食べようか」
「ああ………」
腕を枕にして寝た影響で乱れたオレンジ色のソフトモヒカンを軽く整え、家庭科室を出た。
☆
☆ side 坂本 ☆
「おっちゃん、簡易結界はあとどんだけもつ?」
「けっこう霊力込めたから、明日の朝までは余裕やんな」
「了解。夜中に解除していいぞ」
「え、ほんま?」
「校舎内が安全だと思い始めた輩が居る。一般生徒に武器を持たせた生徒に経験を積ませるチャンスだし、夜戦を舐めてるやつは殺してもいいからな」
「丑三つ時はおっちゃんの時間やで」
部室に戻ったセンンパイたちは、当然のように物騒な話をしながら布団を取り出し、和室に布団を敷く。
金髪の女の子、みくるちゃんという女の子が上機嫌にふんふんと鼻歌を歌いながら毛布を取り出し、布団の上にしわなく広げる。
彼女はいったい何者なんだろうか。
私が最初に部室に入ったときに、彼女は奥の部屋で寝ていた。
体調が悪いらしく、ボランティア部に戻ってからも机の上に突っ伏して寝ていた。
どう見ても、この学校の生徒ではない。
だけど、センパイと仲がよさげに話しているところをみると、交流があるのだということがわかる。
そういえば、あの時の大きなドラゴン………あれがあの金髪の子のペットだと言っていたよね………
このセンパイたちは、この世界のことを知っている。
生き方を知っている。
男の人は怖いけれど、この人たちは、私を助けてくれた。
こわい、けれど、信じたい。
生きたいと、強く思った。
ドラム先輩の話を聞けば、あのみくるちゃんという金髪の少女は、センパイたちと同じ学年の生徒らしい。
なんでも、現時点でこの世界と日本を行き来できる力を持っている、唯一の人間。
その身体は仮初のもので、つまり、日本に戻ったらそれだけ仲のいい女の子が、センパイには居るってことで………
うぅー………このもやもやはいったいなんなの………
「お布団は二組あるから、女の子たちで好きに使ってね。」
「おっちゃん校長椅子で寝るわ」
「オレは人間がダメになるクッション」
「僕は自宅~♪」
と、各々好きなように部室での寝る場所を決める。
金髪の子は当然元の世界に戻って自宅で寝るし、修センパイは校長椅子にどっかりと座りこんだ。
フユルギ先輩は人間がダメになるクッションを椅子みたいな形にしてみくるちゃんさんのスマホから取り出したカレーを食べる。
実にフリーダムな人たちですね………。
「というか、智香はともかく、なんでほかの女子まで一緒の部室にいるんだよ。女のたまり場にした覚えはねえっての」
「おっちゃんもなんとなく拒否りたいんやけど」
カレーを嚥下すると、フユルギ先輩が不満そうにドラム先輩と私をスプーンで指す
なんというか、フユルギ先輩は女性が嫌いというわけではなさそうですが、なんとなく面倒くさそうにしているように感じます。
「その話長くなる? なら僕帰るね。僕には関係ないし、いそいで蘭丸にミルクあげなきゃ。じゃねー。」
「おう。また来たときは情報ヨロ」
「はーい」
みくるちゃんさんの話では、バイセクシャルで、筋肉や顎鬚の方が好きだと窺っています
強面ではありますが、私から見ても聖勇気会長に負けないイケメンであるというのに、なんだか性癖が残念ですね。
修センパイは女性と話をするとき、一歩下がる癖があるように見えます。
私が話しかけても、ドラム先輩が話しかけても同様に距離をとっていました。
よくわかりませんが、私は嫌われているのでしょうか。
でも、助けてくれましたし、恩は感じています。私も………やっぱり男の人と話そうとすると震えてしまいますが、それには触れずに距離を取っているのかもしれません。
みくるちゃんさんの方は、そうそうに切り上げてスマホをいじって、元の世界へと帰ってしまいました。
ズルイですね、なんか一人だけ元の世界に戻れるって………。
はぁ。お母さん、心配してるだろうな………
「みんな武器持ってんのよ、男女でクラス分けてても雑魚寝なんてできるわけないじゃない。それに私は、女子からは少し嫌われてるし………」
「テレビ関係者の苦労は絶えんな………。しゃーないか。」
「でも、お布団は二つだけですね………」
この部室はこのセンパイたちの部屋だから、当然私たちへの配慮はない。
レディファーストという言葉が似合わない男性しかいないのだ。
ある程度助けてくれるけれど、この人たちは自分が犠牲になろうなどとは決して考えてはいない。
それでも、布団は女性陣に譲っている点はある程度の妥協をしていることはわかる。
私たちがここにいるのは私たちのわがままなのだから
「………ん。女の子が二人余る………?」
「私はゴゴッサ山に自宅があるので、そっちで寝ますです。日が落ちたら飛べませんし、私もそろそろ帰らないとです」
「………じゃあ一人余るわね。んー………」
お布団は二つ。
女子は4人。内、葵ちゃんはこの世界の住人ということで自分の家で寝ることに。
お布団が二つで女子が3人。これじゃあ確かに一人があぶれる。他にベッド代わりになりそうなものもない。枕になりそうなクッションがいくつかあるくらいだ。
「だ、だったら、わたしが床で寝ます!」
中学生の女の子を床に寝かせるわけにもいかないし、ここは私が床で寝よう。
床と言っても、畳ですし、和室って嫌いじゃありませんからね。
そう思って提案したら
「………あなたは男子生徒に襲われそうになったのでしょう。精神的に一番疲れているのだから、貴女は布団でしっかり寝るべきよ」
一見小学生くらいの中学生の女の子にそう諭されてしまいました
私とドラム先輩と中学生で小柄な智香ちゃんが3人で詰めればなんとか寝れないこともないと思うけど………
それを口に出そうとしたところで、智香ちゃんは私とドラム先輩を見つめて唇の端を歪めました。
智香ちゃんはあまり目で感情を出さない子のため、その変化が顕著に表れるのが唇の端。
そして、それを行うとき、高確率で人をおちょくるのだと、短い間に私は学んだ。
「………ならわたしはオサムと同じ校長椅子で寝るわ」
「な!?」
「えっ」
「はあああ!!?」
爆弾を投下。
あんな、狭い………校長椅子で、修センパイと、二人で!?
「智香ちゃん、マジで言ってんの?」
「………マジよ」
「おっちゃんロリコンやで」
「………知ってるわ」
「もしかしておっちゃんのこと………好」
「………それはないわね」
「せやろな。わかってた。ほな校長椅子のこっちに隙間作ったるから、こっちに来ぃやん」
「………好きではないけれど、嫌いではないし、信用もしている。だからお邪魔します」
ひょいと校長椅子に乗り込む智香ちゃん。
校長椅子に詰めて座るその姿は、まるで兄妹のようだった。
身長差がありすぎて恋人には見えないが、それでも、なんだかすごくもやもやすることにはかわりない
「………寝る時には、もう一回アレをしたい」
「アレな。了解ちゃん。ちゃんとおっちゃんがリードしたるから」
「………ん。でも痛いのは嫌。やさしくしてほしい」
「なんや言い方がわざとらしいうえにやらしい感じに捉えさせようとしている気がするけどおっちゃんにまかしとき。智香ちゃんは初めてなんやし、悪いようにはせぇへん」
な、なんの話!?
センパイがリード?
智香ちゃんが初めて!!?
なんだか私の頭の中でモザイクがかかったいやらしい映像が流れる
ぼっと顔が熱くなる
「だ、ダメ!」
「そうよ! そんな変態に智香ちゃんと一緒に寝たら大変なことになるわ!」
「………なにがダメなのかしら。恋人でも何でもないあなたたちには関係ないことでしょ?」
にやりと口を歪ませる智香ちゃん。
うっと言葉に詰まるドラム先輩と私。
ち、中学生に言い負かされている!
私と同じような想像をしていたのか、ドラム先輩まで必死で声を荒げていた
「………そもそも、オサムはヘタレだから、わたしに手を出さないわ。確信してる」
「その通り。おっちゃんほど人畜無害な高校生はおらんよ。智香ちゃんと肩を並べて寝るのに若干うれしくて興奮するけど、持ち前のヘタレ力が邪魔をして何もできないにゃ」
「………興奮するとか自分で言わないでくれる。少し離れたくなるわ」
「ごめん」
「………というわけで、実害があるわけでもないし、ドラムとナナは遠慮なく布団を使って頂戴」
勝ち誇ったような顔で修の隣をゲットした智香。
―――パシャリ
―――カシャ
「ぬ?」
「………(ピース)」
ふと、シャッター音が響き渡ったかと思うと、フユルギ先輩と葵ちゃんがカメラ機能で智香ちゃんと修センパイの仲睦まじい様子を写真に抑えていた。
智香ちゃんは素早く修センパイの手を搦めてポーズを取り、修センパイは何がなんだかわからないままカメラに写されていました
「後でお前の端末に送るわ」
「………ん。てつひとくんに転送するわ」
「鬼か」
てつひとって、あ! あの時智香ちゃんを迎えに来た中等部の男子生徒だったっけ。
たしか、智香ちゃんのことが好きだっていう………
この子は、容赦や自重というものをどこかに置いてきてしまったのかもしれない
「さて、ラブコメもその辺にして、明日に備えて寝るぞ。お前が欲しいのはコレだろ。ほら」
「………ありがと。ラブコメは物語のスパイスに重要よ。」
ら、ラブコメって………私は、そんなんじゃ………
フユルギ先輩が智香ちゃんと修センパイに何かを投げ渡す。
なに、あれ。クッキー?
「しかしおっちゃんは主人公じゃないぞ。主役の一人ではあるが、ポジションで言えばスネ夫だ。そんでオレはせいぜい出木杉くんとジャイアンとドラえもんを足して3で掛けたようなもん。」
「………それでなぜフユルギが主人公じゃないのよ。むぅ………じゃあいったい誰が主人公………はっ!」
「そりゃあ世界を行き来できる奴だろ。まるで空気のようにぬるっと消えたし、現実世界では寝込んでるけど」
フユルギ先輩は毛布を取り出すと、修センパイと智香ちゃんに掛けてあげた。
眠るには早い時間。
他の生徒よりも一足先に床に就く私たち。
しとしとと降る雨の中。
家庭科室から料理をする消防隊や生徒たちの声が聞こえる
夜のとばりが下りてくる。
魔物の進撃、第二波が来ることもつゆ知らず。
☆
★みくるSIDE★
夢のような感覚から徐々に意識が覚醒していく。
普段見る夢と同じように、先ほどまでの記憶と感覚があいまいになり、現実とリンクする。
本体が寝ているからか、やはり瞼を開けるのが億劫だなぁ。
ここら辺は向こうもこっちも変わらないか。
「くあぁ………あたたた………寝たきりってのも肩が凝るね………」
薬のおかげで熱は引いてるかな………でも、ずっと寝たままだったから、筋肉と関節が固まって、少し動いただけでパきパキと音が鳴っちゃう。
うぅ………この音嫌い
「蘭丸、ミルクあげるからね。ブチ丸とアリスにもご飯を………って、あれ?」
ぐいーっと体を伸ばしていると、部屋の異変に気付く。
鼻水であまり鼻は利かないはずなんだけど、いい匂いがする気がする。
五感が狂って音が普段より半音低く聞こえるし、眼もグラングラン。口の中も鼻水の影響かどこか塩っぽい。
肌も敏感だ。
この状態で何ができるというのか。何もできない。
なのに、なぜいい匂いが?
「ありゃ、おきちゃったー?」
「………だから言ったろ。余計な事する前に帰ろうって」
ああ、そういうことか。
僕のぼやける視界の先に居たのは、おかゆを作るタマと、床をコロコロして埃を取る澄海くん。
「………勝手に、ゴホッ!! 勝手に入って、何してんのさ………」
知っている顔とはいえ、不法侵入には違いない。
咎めるように二人を非難するが、喉に痰が絡んで咳き込む。
起き上がるにも風邪の影響で筋肉が痛んでいるせいか、上半身を起こすだけで全身に痛みが走る
ベッドから降りようとしたら、肘に力が入らず、折れた。
安定しない腕で体重を支えられるはずもなく、ズベシャ!! と、盛大にベッドから転げ落ちてしまった
顔から落ちた………痛い………
「ああっ! ダメだよみくるちゃんはねてなくちゃー!」
タマが慌てて火を止めてこちらに走り寄る
「お薬の効果が切れて熱がぶり返してきたんでしょー? だったら寝てなきゃダメだよー」
「いたい………ちから、入んない………つらい………」
「そんなだからわたしたちが来たのにー………お薬飲むなら食べなきゃでしょ。蘭丸ちゃんにはミルクあげたし、アリスおねーちゃんとブチ丸ちゃんもご飯はあげたよ。おかゆなら食べられる?」
「うん………」
よく見れば、僕が寝る前と服が変わっている。
介護してくれていたんだ………勝手に入ったとはいえ、ここまで世話されてたら、怒るに怒れないな………
タマが僕をベッドに座らせたあと、ミトンを嵌めて土鍋を持ってきた。
「はい、タマゴの入った七草粥だよー。はい、あーん」
「七草? この時期に?」
疑問に思いつつも、タマが差し出したスプーンを口に入れる
「ううん。その辺の雑草で取れた七種類の葉っぱだよー」
「ぶふぅー!!」
病人に対してその不衛生な仕打ち………!
思わず噴き出してしまったじゃないか!
「………。」
しかもその唾液と熱々の被害を受けたのは、まったく関係ない澄海くん!
僕が噴き出すことを予見して先に身代わりとして澄海くんを引き寄せやがった!
「鬼かよ………」
「猫でーす!」
僕のつぶやきに、タマは顔の前で手首を曲げて猫っぽいポーズをとる。
ああもう、体調が悪いのに、こちらを引っ掻き回してくれる………
この猫ちゃんはまったくもう………かわいいやつめ
「ごめんね、澄海くん」
「………いい。悪いのはタマ。お前も病人に負担をかけるな」
引き出しのタオルを澄海くんに渡してあげると、顔を拭いながらタマの頭にチョップを繰り出す。
なかよしかな?
「いやー、やあっとボケ担当に帰ってこれたーって感じがしてうれしいよー」
「何の話?」
「こっちのはなしー。安心してー、雑草は冗談だから。入れてる野菜もほうれん草だけだよー。いろんな具を入れて試せるほど私のお料理スキルも高くないからねー」
はにかみながら、再びスプーンを僕に向けた。
冗談ならいいや………リアクションは疲れる。
タマが息で軽く冷ましてくれたそのおかゆを食べる
じんわりと芯から暖かくなる感覚。
食欲は無かったけれど、おなかはすいていたようだ。次も食べたいと思えるのだ。
「ああ………おいしい………タマちゃん、僕のお嫁さんにならない?」
「ざんねーん。私はおっちゃん一筋なのー」
「ちぇー」
「それにみくるちゃんは私の猫姿が好きなだけでしょー」
「それもある」
タマの元の姿は、白くてもこもこふわふわの毛玉だ。
しかも、妖怪になってから成長が遅くなったのか、まだ生後4か月程度の子猫のまま。
本当ならブチ丸よりもお姉さんなのに、猫型の時はブチ丸よりも幼いんだよね
土鍋のなかをすべて食べ終わった。
もともと一人分しか用意していなかったのか、すぐに食べ終わってしまった。
とはいっても、元々小食で胃が縮んでいる僕には十分な量だったけどね。
「ごちそうさまでした。」
食後のお薬って10分くらい時間空けた方がいいんだっけ?
まあ、いいや。飲み忘れる前に飲んじゃえ。
抗生物質と痛み止め、熱冷まし、栄養剤を胃の中に流し込む
澄海くんとタマは二人で僕が食べた後の土鍋を洗ってくれている。
何から何までありがとう。
食べた後で申し訳ないけれど、吐き気を押さえつけながらトイレへとフラフラと寄って用を済ませてからまた布団に座ると、タマと澄海くんは洗い物を終えてベッドの傍で座っていた
「本当に辛そうだね」
「辛いよ………できることなら健康な肉体が欲しい………もともと体が強いわけじゃないし」
「………僕、風邪引いたことない」
「宇宙人と貧弱地球人を一緒にしないでよ」
さて、この子たちがここにいるってことは何かわけがあるんだよね。
不法侵入はこの際どうでもいい。
この緊急事態だ。なにか意味があってのことだと思うし。
「タマちゃん。この転移事件について、なにかわかったことがあるの?」
「んーっとねー、学校跡地に行ってみたら、ローブの男がいたよー」
「ローブの男?」
「そーそー。明らかに怪しい奴だったんだけどー………空中に魔法陣を描いて、そしたら空間が割れて、たぶんだけど、みくるちゃんが言ってたその異世界に逃げられちゃたんだよねー」
テレビで模様キャスターが言ってた。
仮装したテロリストが、そのローブの男に該当するのかな。
「異世界に逃げられたってのはどういうこと? その人、直接異世界に飛び込んでいったの?」
「そうだけどー?」
何がおかしいんだろうと首を捻るタマ。
いや、学校そのものが異世界に転移しているのだから、おかしくはないのだろう。
ただ、僕からすれば、クッキーを食べて魂が転移する。人がDCQの世界に行くのはそういうことだと思っていたから。
「あー、あとね、転移した校舎の断面に魔法陣が確認できたから、LINEで送っておいたから。確認してね」
「ん。わかった。礼子さんはなんて?」
「んー? 礼子さんは魔法陣の解析中。後はすることないから修行でもしてろってー」
そりゃあ猫たちの専攻はゴーストバスターだ。
そういう特別なものの知識には疎い。
僕だって超能力を持っているくせに、ルーツを知らないし、そういう不思議現象の知識量で言えばおっちゃんや猫たちの方がまるっきり上だ。
僕はオカルトマニアじゃないし、そういう不思議に特に興味はないからね。
趣味のために有効活用するけどさ。
「ふーむ………ケホッ、コホン、他に僕たちにできることってなんかあったっけ?」
聞いた限りじゃ、これ以上の動きようがない。
学校付近で見かけたローブの男は逃走。
魔法陣は専門家に解析を依頼中
「みくるちゃんから見てあっちの世界がどうだったのかを教えてよー。おっちゃんとは合流したのー?」
「ああ、うん。ちゃんと合流できたよ。生徒の大半は無事だった。ただ、どうしても死人は出てしまったね。向こうの世界にはモンスターがいるから」
「それはしょーがないねー」
「あと、武器もなし、金もなし、食料もなしで大変だから、僕が代わりに武器や食料を売ることになったんだ」
僕は校内での出来事をなるべく簡潔にまとめてタマと澄海くんに伝える
「愚か者ってのはどこにでもいるからさ、僕が転移事件の犯人じゃないかって疑われて、腹が立って店じまい。今頃家庭科室に置いていった少ない食料の取り合いをしてるんじゃないかな。せいぜい50人分くらいしか用意してないし」
「………サバイバルってのも大変だね」
しかも集団生活の漂流教室。
気が滅入るよ。それだけの人数の食料を入手できるわけがない。
しかも、武器を買ったはいいけれども、おっちゃんの簡易結界のおかげで使用する機会を完全に失っている有様。
さらに、お金を武器に使ったおかげで食料を買うこともできない。
魔物の素材なんかも回収するって言ってたのに、売店を開いているという噂が広がったおかげで、魔物の素材の買取は眼中になし。
もっとRPGっぽく考えてもよかったのにね。
「あとは………そうだね、今、おっちゃんが簡易結界を張っているおかげで学校は無事だけど、夜は結界を外すし夜中はゴースト系とゾンビに学校は大騒ぎかな」
「おっちゃんがみんなを救ってるのになんでー? そのままおっちゃんがヒーローがいいのにー」
タマが残念そうに声を上げた。
とことん、おっちゃんが大好きなんだね。うらやましい。
「おっちゃんはヒーローじゃないし、ただの偽善者だからね。それに、誰もおっちゃんのおかげで学校が助かっているなんて思ってないし、知らない。そもそもフユルギの指示だから、おっちゃんは逆らえないよ」
「………ずっと結界を張るのも疲れるし、しょうがないか。」
澄海は霊媒師として、結界をこよなく使う子だ。
おっちゃんの負担も考えてくれている。
「フユルギさんの指示かぁ………ならおっちゃんは逆らえるはずもないかー。イスルギさんもフユルギさんも強すぎだもん。澄海くんにも礼子さんにも喧嘩で勝てる気がしないしー。ほんと大山の家は化け物しかいないなー」
タマは妖怪とはいえ、通常の人間とは一線を画する大山の人間に辟易している。
おっちゃんや猫たちに霊媒道具を渡したのは
礼子さんの兄。27歳で、おっちゃんの住むボロアパートの管理人だ。
おっちゃんたちは基本的に石動さんの依頼で妖怪退治をして、その報酬で家賃を安くしてもらっているらしい。バイト代も出るとか。
そんな豆情報はどうでもいい。
ま、夜間に結界を解除するのはフユルギ的には使えない人間を間引きしている感覚なのかもね。
簡易結界を維持するのはおっちゃんには余裕だろうし。
僕たちは【全員を救う】なんてキレイな考えは持ち合わせていないもん。
人間、死ぬときは死ぬんだ。
「他、なんか伝えておきたいこととか、こっちから知りたいこととかある?」
他に何かあったっけ。何か話してないこと………風邪で頭は回らないけれど、今日あったこと、僕は全部話したけど………
「………さっき、冷蔵庫の中に合ったクッキーを食べた」
「うえ!!? 食べたの? あれを!?」
と、今までずっと黙って聞きに徹していた澄海くんの口から衝撃の言葉を頂いた
「………食べた。うまかったよ」
「ああ、ありがとう。でも、よく戻ってこれたね。僕は戻り方わからなくて2年は向こうの世界にいたよ」
「向こうについた途端に親切な人に出会ってねー。戻り方を教えてもらったのー」
「そう都合よく戻り方を知っている人があの草原にいるものなんだろうか………。そもそも、自力でそんな戻る条件を見つけられる人間が居るとは思えないんだけど………」
「わたしもそう思うけどー、実際いるんだよー」
自分でも怪しいとは思いつつ、他に頼るものがなかったから言う通りにしたらしい。
それで実害がなかったからひとまず信じてみることにしたそうだ。
「ちなみに戻り方は?」
「ミミックオクトパスとキートレントでうんちゃらかんちゃらー」
「同じか………」
自分の知らない異世界への渡り方があるのかと少し期待していたけれど、やっぱりそんなことないか。
「その人はどんな人?」
一応、それでも情報だけは集めておいた方がいいからね。
どんな人物と接触し、どのように教えてもらったのかを知らないと、報告もできない
「190cmくらいですごくガタイがよかったよー。なんだかんだで、面倒見はよかったかなー」
「………背中に大きな剣を背負ってて、まったく使わなかった」
「ほっぺに傷があったねー」
「………あと、銀髪」
「あ、そーだ。意外にもボケ担当って感じだったよー。普段は両刀つかいっぽいけどー、どちらかと言えばボケ寄りな感じー?」
次々とでてくるその人の特徴。
「うーん、んー? どこかで聞いたことあるような………ちなみに、名前はなんていうの?」
「葡萄さんってひとー」
葡萄? それもどこかで………ブドウ………ぶどう………果物?
葡萄って………あ! そっか。そういうことか
僕の表情を細かく見ていた澄海くんが、僕が何かに思い至ったことに気が付いたようだ。
「………なんかわかったの?」
「ああ、うん………その人、フユルギたんだよ………」
葡萄⇒ぶどう⇒ふどう⇒不動
葡萄は、DCQでのフユルギの名前だ。
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