第24話 購買部―真田煌輝【不良生徒】

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「あ? なんだこれ」



 最初に気付いたのは、不良生徒、真田煌輝さなだキラメキだった。



「いらっしゃい。なんか買う? それとも売る?」



 目の前にいるのは、12歳くらいの少女。

 彼の恋するドラムとも引けを取らない顔立ち。

 そんな彼女を見て、思わず立ち止まった。


 煌輝はドラムを追って階下まで降りたものの、どこにいるのか全く見当がつかず、魔物が駆逐された校舎を徘徊していた。


 そんなときに、購買部に頭の上に子猫を乗せた、見知らぬ金髪の少女が居たのだ。

 そのおかしな状況に


「なんだおまえ」


 そう問わずにはいられなかった。



「いらっしゃい、なんか買う? なんか売る?」

「いや、だから」

「いらっしゃい、なんか買う? なんか売る?」

「にゃー」

「あ、こら、静かにしてって言ったでしょ。NPC風のキャラが崩れちゃう!」



 機械的に返事をしていた少女が慌てて頭の上の猫を手で押さえつけた


「はー、もう………ここは購買部。武器や防具や食料なんかを売ってるよ。魔物の素材の買取なんかも、専門じゃないけどやってあげなくもない。なんか貴重品とか持ってたら僕に売ってみない? なかなかいい値段で買い取ってあげなくもないよ」


「は? 何言ってやがる」

「言った通りの意味だよ。キミ、結構ゲームとか好きでしょ。ゲームのショップ店員とでも思っておけばいいよ。簡単にこの世界についてのレクチャーもしてあげるよ」



 その言葉に妙な違和感を覚えつつ、購買部のカウンターの前に立った



「何を売っているんだ?」

「武器とか防具とか。食料。この購買部の一番の目玉はコレ! 【量産型・聖剣エクスカリバー!】なんとお値段80万ギル! なんとおやすい!!」

「貨幣価値がわからん。てか聖剣を量産してんのかよ」

「魔属性特攻を持ってるから、主に上級騎士に大人気の一品となっております」

「聞けよ」


 あまりにもマイペースな金髪の少女に眉を寄せながら問い詰める煌輝


「うーんと、そうだねー………例えば………僕が来ているこのおしゃれ服。だいたい6800ギルくらいかな」


 すると金髪の少女も頬を描きながら自分が着ている服の値段を言った。


「こっちのお鍋の蓋はだいたい1000ギルくらい。この購買部に置いてあったノートや文房具はだいたい100ギルってところかな」

「そっちの竹槍は?」

「これは竹を削っただけだからね。材料費と手間賃込みで1500ギルってところかな」

「この100円玉はいくらで買い取ってくれる?」

「正直ただの白銅だからね。10ギルくらいじゃないかな。でもかわいそうだから100ギルで買い取ってあげてもいいよ」

「この一万円札は?」

「ただのゴミ。この世界はそのぺらぺらに何の価値も見いだせない。見いだせないけど、しょうがないから10,000ギルで買い取ってあげる。僕以外の人間にそんなものは売れないだろうね。僕だから一万ギルの赤字覚悟で買い取ってあげるけど、この世界の人間にとって、その紙幣には価値がない。」




 次々とくる質問に、崩さぬ笑顔で対応する金髪の少女


「なるほど、じゃあ俺の財布を全部くれてやる。いくらになる?」

「はいはい、ちょっと数えるね。ひぃふぅみぃ………全部で2万と52ギルになるよ。カードなんかは価値0だから、返すね。それで、なんか買ってくれるの?」


 500円玉くらいの大きさの銀貨と一円玉くらいの大きさですこし錆が付いている鉄の硬貨、を5枚、それをさらに薄く小さくした鉄の硬貨を2枚渡された

 それで大体の紙幣価値を把握したキラメキは


「そうだな………これで買える最高の武器をくれ」

「2万ギルで、となると………弓だね。しかも和弓。大きいし重いし、扱いがむつかしいよ? おまけで矢をつけてもいいけど、消耗品だし、回収が面倒だし、どう見てもキミは前に出て殴るのが趣味って感じだから、やめた方がいいんじゃない? こういう武器を使いたい、とかないの?」


 2万ギルという制限の中での高額商品は弓であるが、キラメキの肉付きと性格からして弓を引くタイプではないと判断した金髪の少女は別の案を提示する


「ん………そういうもんか………確かに弓なんて使ったことないしな………刃物か鈍器でいいのはないか?」

「刃物でってなると………鉈だね。すこし性能の高い匕首もあるけど、さすがにリーチが短すぎるから、初心者にはおすすめしない」

「そうか………鉈か………」

「でも鉈だったらわざわざ買わなくてもこの学校の用務員室にでも落ちてそうだね」

「あ………そうか。別に焦って買う必要もないのか」

「そうなんだけど、たぶん買った鉈の方が性能は高いよ?」

「ああ? じゃあどうすんだよ。買わせたいのか、買わせたくないのかはっきりしやがれ」


「うーん。ここでお金を溜めて、もう少し上のランクの武器を買ってもいいと思うよ。僕はどっちかというとそういう貯蓄してから散財するタイプなだけ。好みは人それぞれあると思うよ。」



 それもそうかと思い直したキラメキであったが、それでも今は今すぐにでも武器が欲しい。自分だけ取り残されるわけにもいかないと判断した。


「お前の言い分もわかった。だが、今回はその鉈を買う。いくらだ」

「1万ギルだね。お客さん第一号として、この指輪を特典として付けちゃおう。僕が作った、攻撃力UPのパワーリング。国宝級の力が付与されているよ。なくさないでね」

「ん、ああ………さんきゅ」

「ちょうど1万ギル。ありがと、あとこれ、この紙あげる」


「なんだこれ? 【異世界のしおり?】」

「上手に生きてね。応援するよ」



 不思議な少女は手を振って再び購買部の椅子にもたれかかる。

 話は終わったということなのだろう。


 キラメキはその紙を眺めると、ざっくりとこの世界の生き方が書いてあった



『STEP.1 魔物を倒してこの世界に馴染もう!』

『STEP.2 スマホを操作して天職と武器を手に入れよう!』

『STEP.3 これであなたもこの世界の仲間入り!』

『STEP.4 死なないようにサバイバルを生き残ろう! まずは食材探しから!』



「………ざっくりしすぎだろ………」


 この紙の通りにするならば、やはり………


「俺も、早く魔物を倒さなきゃいけないのか………」




 だが、彼は知らない。

 中等部の生徒と聖勇気の活躍で、もう校内に敵が残っていないということを。



「それにしても、異世界から来た前提で書いてあるこの説明はいったい………何者なんだ、あの金髪………」



                    ☆



「井上さん!!」

「智香ちゃん!! 無事でよかった!」


 高等部の屋上に到着した智香と鉄人。


 それを出迎えてくれたのは智香のクラスメイト達


「どこに行ってたの? みんな、すごく心配したんだよ!?」


 智香に一番い駆け寄ってきたのは、朝比奈光。

 大きな竹の和弓を抱えている。


 智香の記憶にある光の弓はワインレッドで弓の下にはお花のシールが貼ってあったはずだ。

 それがないということは



(………オサムが言っていた、初期武器)


 すぐに智香はあたりをつける


「本当に無事でよかった………ところで、なんでびしょびしょになってるの? 服の汚れもすごいし………」



 次に話しかけてきたのは委員長。月野守


 智香がずぶぬれなのは、中等部屋上の貯水槽を破壊したせいで、服が汚れているのは、水分を含んだ制服に、自分でまき上げた砂埃を盛大に浴びせいなのだが、余計なことは言わずに口を閉ざしておく。


 智香は彼のベルト差し込まれている鞘に注目した。


(………日本刀、か。まもるくんはたしか剣道部。ジョブはおそらく剣士。服に相当な返り血が付いていることから、修羅場を潜り抜けてきたことは察せられるわね)



 普通の人間が、豚の化け物やゴブリンなんかに太刀打ちするのは難しい。

 それを成し遂げた守たちに賞賛をおくりたい。



「………わたしは学校の裏にある山の調査に行ってた。そこで出会ったのが、この子」

「風丸葵! 15歳です! 突然ですが取材させてください! 何があったのですか? あなたたちはどこから来たのですか? 智香さんとはお友達ですか!?」


 智香が葵を紹介すると同時に飛び出して、タブレットカメラを構えてパシャパシャと撮影を開始する


「ええっと、智香ちゃんの友達、です。あなたはこの世界の人間、ですよね?」

「はい! 正確には鴉天狗です! いやあ、智香さんや修さんに聞きましたが、よもや本当に異世界から人間がやってくるとは………びっくり仰天ですよ!私も修さんにゃフユルギさん、智香さんのような規格外と違って普通の人の話を聞きたかったのですから!」


「き、規格外?」

「それはそうと、異世界から来たわりにはわたしとそんなに姿は変わりませんね………名前まで似た雰囲気ですし」


「え、ええ………そうですね………」

「ほほぉ、それが武器ですか、カタナですね、なかなか珍しい武器を引き当てましたねぇ」

「そ、そうですか………」



 取材スイッチの入った葵は、相手の話を聞かず、自分の興味のある質問だけを繰り返す


 その勢いについていけず、周囲の人間も引いている


「………葵。シャラップ。」

「はいです!」


 ビシッ!! と気を付けする葵。

 鴉天狗は完全なる縦社会。


 上位の者の命令には絶対服従なのである。


 すでに葵は完全に智香の手の内にある。



「………葵はこの世界の住人、情報を集めるなら彼女の協力は不可欠」

「そ、そうみたいだね………」

「………幸い、今はゴブリンたちも駆逐されて校内には魔物はもういない。下の階に戻ったほうがいい」

「駆逐………? いや、まだ危険が残っているかもしれないよ?」

「………みんなが倒してくれたおかげで校内にはもう危険はない。ドラゴンが来たおかげで、他の魔物も逃げた。それにあなたたちなら、自分の身は自分で守れるでしょう?」

「そ、そうかもしれないけど………」



 そもそも智香は、修が結界を張って中に魔物が入れないようにしていることを知っているし

 フユルギが校内の見取り図で敵の有無を確認したためもう危険がないことを把握しているのだ。

 これ以上屋上に居座るのは、無意味なのだ。


「井上、終業式をバックレていた挙句に勝手にどっかに言ってたお前には言いたいことはたくさんあるが………無事でよかった………」

「………しのぶ先生」


 そんな智香の前に現れたのは、智香の担任の先生である、寿しのぶ。


「だが、まだ校内も安全とは言い難い。お前ならどこでも生きていけそうな気はするが、素手では心もとないし、今は武器を持っている奴や高等部の生徒会長なんかに任せた方がいいだろう。だから、しばらくは屋上に残れ」



 異常者である智香を心配して、そんな声をかけてくれるしのぶに感謝をしながら、智香は首を横に振る


「………屋上も安全じゃない。空を飛ぶ生き物だっている。そいつらにとって、屋上にいる人間はただの餌」

「………。」


 しのぶはチラリと葵に目を向ける。

 わけのわからない世界に飛ばされた挙句、背中に翼の生やした原生生物が目の前にいるのだ。

 智香の言葉にも確かな説得力が存在した。


「………しのぶ先生は校内に侵入したゴブリンたちから遠ざけるために屋上にみんなを誘導したみたいだけど、校内はもう安全。確認した。むしろ屋上の方が危険かもしれないなら、やっぱり校内に人を戻した方が賢明」

「たしかに、な。………よしわかった。じゃあ校内に戻ろう。ただし、先頭はあたしたちだ。生徒ばかりに危険な役目を任せるわけにはいかないからな」


 と、そこで智香のポケットに入れている端末がヴヴッと震えた。

 確認してみると


「………追加情報。購買部で金髪の女の子がなにか売っているらしい。」



 それはみくるちゃんからのメールだった。

 購買部の準備が整ったから、客を連れてきてくれという要請だ。


「なんだと?」

「何かを売っている? 何を売っているっていうんだ」


 眉を寄せるしのぶ先生と、疑問を口に出す守。


「………武器防具。それに食料。知識」


 端的に答えた智香に、目を剥く


「すぐに購買部に向かうぞ!!」

「「「 応!! 」」」



 なんと統率の取れたクラスなのだろう。

 しのぶを先頭とした布陣で大移動を始めた。


 その様子を見て


(………みくる。がんばって)



 智香は心の中で手を合わせた。




                  ☆




「おい、聞いたか? 購買部に金髪の女の子がいるってよ」

「なんか武器とか売ってるらしいな」

「なんか下の階で武器を持ってる中等部の子たちが居たけど、そういうことなのかしら」

「もしかしたら、生き残れるかもしれないぞ」

「俺たちも行ってみようぜ」




                  ☆



『ふわらんら♪ ふわらんら♪ ふわふわれいひ~♪ お客さんが来なくてさみしいにゃ~♪』

『にゃーん♪』


 レジ台に顎を置いて、指先で子猫と戯れる少女の姿。



「あれか?」

「………(コクリ)」



 物陰から購買部を窺うしのぶ

 そのしたからにょきりと顔をだす智香。


 無言のまま頷いた。


「葵といったな。キミは彼女と知り合いかい?」


 守にとっては金髪の少女も鴉天狗の葵も、同じ異世界人だ。

 異世界人同士、なにか繋がりがあるのかという疑問を持っての質問だった


「それは………」


 守の言葉に応えたのは、意外なことに、鉄人だった。



「ん? あれって、井上さんがいた部屋の中にいた女の子、だよな?」

「………見てたの」

「あの時は机に突っ伏してて顔は見てないけど、おれの知ってる金髪って、それしかないから」

「………そう」


 能天気でいじられキャラの割に、意外なところで鋭かった鉄人。

 それを聞いた守が目を細める


「智香ちゃん。どういうことだ?」


 その問いかけに、智香唸る。

 懐疑の視線を向けられた。


 終業式はバックレて姿を見せず

 異世界転移してからもしばらくは姿を見せず

 異世界人である葵とともに登場し、

 そしてみくるとも知り合いとなれば、この異世界転移を起こした犯人か、それに近い存在。

 もしくはある程度世界の知識を持つ者として認識されてしまいそうだった。

 なんと言い訳をすればいいのかを考え


「………たまたま、今日知り合った。彼女はここの学校を救うためにここにいる。それは信じてほしい」

「そうですそうです。みくる様は『慈愛のみくる』と呼ばれる最高に慈悲深い伝説をお持ちのお方なのです。みくる様を疑うのはよしてくださいよう」



 包み隠さずホントのことを伝えた。

 これ以外に説明のしようもない。

 葵も便乗してみくるのことを説明するが、智香には何のことかよくわかんない



「あ、ちなみに私もみくるさまとは先ほど初めてお話ししました! すこし体調がすぐれないようでしたが、とても愛らしくて、とてもキュートな方ですよ!」


 補足説明ついでに守の質問にも答えた葵。


「ところで、いつまでこうして彼女を見ているつもりです? 行動を起こさないのですか?」

「いや、なんていうか、なんて話しかけたらいいのか………」



 ふむ、と智香は顎に手を当てる。

 智香は口数が少ないながら行動は大胆だ。


 ちっちゃくておとなしそうに見えるくせに、終業式を盛大にサボタージュしたり、異常な筋力を使って屋上へエスケープしたりと

 普通ならためらうようなことを平然と行える。


「………普通に行けばいいだけなのに」



 嘆息しつつ、智香はみくるちゃんの前に姿を踊り出す。



「平凡な日々に♪(にゃん♪) 飽きちゃあったの・な・ら♪(にゃん♪) 異世界に行こう♪(にゃん♪) おいでよ、ほら♪(にゃん♪) 購買部♪」 


 智香も見ている女児アニメの替え歌を上機嫌に歌いながら指先で子猫と戯れるみくるちゃんの正面に立つ

 みくるちゃんは動物の言葉が判る能力を有している。

 故に、歌の最中に子猫が合いの手を入れるのはお茶の子さいさいだった。


 子猫の相手をするのに夢中になりすぎて、目の前に立っているはずの智香の存在には全く気付いていない様子だ。


「………なんかちょうだい」

「ふえあ!? いつからそこに!!? めっちゃはずかしい!」


 みくるちゃんが跳ね起き、その瞬間に驚いた子猫が50㎝は跳ね上がった


 落っこちては大変と、あわててみくるちゃんが猫をキャッチし抱きとめる。



          ☆ SIDE みくる ☆



「びっくりしたぁ………いらっしゃい。何か欲しいの?」


 僕はドキドキと早鐘のようになる胸を押さえながら智香ちゃんに向きなおった

 たしかに呼んだのは僕だけど、そのスニーキングスキルは高すぎる。

 本当に天職が格闘家ファイターなのかと疑いたくなる


「………わたしに合う武器」

「それならスマホに初期武器が入ってるはずだけど?」

「………毛糸の手袋」


 智香ちゃんが端末から取り出したのは、毛糸の手袋であった。

 初期武器はあくまで初期武器。


 大したものでないのである。もはや武器ではなくとも、立派な初期武器。

 とはいえ



「それ本当に武器じゃないね。智香ちゃんはそのへんの石ころでも拾って投げておけばいいよ。それでたいてい何とかなるはずだし。となると………防具か素材か食料かな。何が欲しい? なにか足りないものとか」


 と言えば、


「………あ」


 智香ちゃんは思い出したかのように手を打った


「ん?」

「………着替え」

「着替え!」

「………お洋服。欲しい」



 そっか。異世界に飛ばされたということは、何も持たずにここに来たということ。

 着替えもない。やっぱり人間に大事なのは衣食住だ。

 衣がなければ生活はできない。


「おっけー。見た目重視、防御力重視。どっちがいい?」

「………見た目」

「ほいさ。となると………僕の見立てでは赤のシャツとピンクのスカート。白のロングブーツあたりが智香ちゃんにお似合い。お値段なんと!」

「………なんと?」


 ドンドンと智香ちゃんの目の前に洋服を詰んでいく。

 身を乗り出して確認していく智香ちゃん。

 僕は指を4本立てて―――


「48,900ギル!」


 営業スマイル光線!


「………お金ない。まけて。0円」

「無理! 商売!」


 むう、と唸った智香ちゃん

 何か買うにしても、お金が必要。

 しかし、この世界の通貨は何も持っていないのだ。


「もしよかったら、僕が智香ちゃんの持ってる毛糸の手袋。10万ギルで買おうか?」

「………?」

「どうする?」

「………この毛糸に価値があるの。」

「初期武器に価値があるんだよ」

「………。わかった、売る。でも、あとで買いなおすわ」

「はーい。じゃあこれ洋服とおつりね」



 智香ちゃんにお金を渡し――あ、そうだ。


「智香ちゃん。ちょっと端末貸して」

「………ん」

「ここの『収納』アイコンをタップしてやると………ほら」


 智香ちゃんの着替えはすべて智香ちゃんの端末に収納された。


「………これが俗にいうアイテムボックス」

「さっき端末から手袋出したじゃん」

「………戻し方は知らなかった。ありがとう」


 やっぱりね。こういうこともいちいち説明していかないといけないのかな、と思うと少しげんなり。

 でもこれで、校内に散らばるゴブリンの死体などを収納して校内をクリーンな状態にすることが可能だ。


「………それじゃ、後ろの人たちのお買い物もよろしく」

「ん? ああ、いっぱい来てる! お客さん連れてきてくれたんだね!」

「………ん」

「ありがと! 売り上げがさっき来た不良生徒の一人だけだったから来ないんじゃないかって思ってたよ」

「………知名度がないだけ。需要はある。すぐに人が来るわ」




          ☆




 数分後。智香ちゃんの言った通り、大行列となった。



「た、たすけておっちゃああん!!」



 親友にSOSの電話をするのに、そう時間はかからなかった。


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