第22話 部室―岡田修【ラブコメ】
☆ タマSide ☆
「………それで、どうするの」
みくるちゃんの家から出ると、私の隣で澄海くんがこちらを見ずに聞いてきた
「みくるちゃんからもらった情報だけじゃよくわからないしー、正直言って解決策も見えないからねー。やっぱり現地に行くのが一番だと思うんだー」
私は自分の銀髪を右手の指でもてあそびつつ、左手で学校の方を指さす。
私たちの学校は初等部と中等部は校舎が離れている。だから学校消滅事件に巻き込まれなかった。
とはいえ、小学生の私たちにできることなんてほとんどない。
避難誘導に従って逃げるくらいだよー。
本来ならねー。
でもー、私たちはおっちゃんに使役される式神みたいなものでー、霊力の高い猫の妖怪なんだよー。
澄海くんのお母さん――つまりおっちゃんのお師匠様にご指導いただいてー、おっちゃんといっしょにゴーストバスターをやっているくらいだからー、普通の小学生とは一味も二味も違うよー
「ティモちゃんとクロちゃんもそれでいいー?」
「いいよ! 兄ちゃんがはやく帰ってこれるようにしたいもん! そこになにかあるかもしれないなら行ってみたい!」
「………わたしも、そう、おもう………よ」
「なら決まりだねー」
そうして決定したこれからのことを、澄海くんが携帯で礼子さんに報告すると、ため息をつく。
「………大山の方は期待できないけど、やるだけやってみろってさ」
「礼子さんの許可ももらっちゃったー。それじゃー、さっそくいってみよー!」
☆
「とうちゃーく!」
「すんなり、これたね………」
というわけで、学校跡地に到着したよー。
マスコミと消防車とパトカーでかなり迂回する羽目になったけど、最終的には屋根伝いにピョンピョンすれば人の視線にぶつからないで移動することはできるんだよー。
さてー、学校はどんな様子かなー?
学校が円形に切り取られているかんじかなー。
体育館があった場所を中心にグルッと校庭を巻き込んでえぐれているって感じー?
中心部にはDCQって文字が書いてあるって話だったんだけどー、水道管が破裂したのかー、はたまた下水なのかー、学校跡地には水が溜まっていたねー。
それに臭い。
「まあ、学校が消滅すれば、学校の地下に存在するパイプが切断されるのはしょうがないねー」
フンスと私は鼻で息を吐きながら手のひらを肩のあたりで上に向けてやれやれのポーズをとった。
「………切断面に、霊力の残渣みたいなのが見える」
澄海くんが感覚を研ぎ澄まして霊視してくれたみたいだ。
私も霊力を目に込めて学校跡地に広がる霊気を視認すると
「ほんとだー。なんの模様かよくわからないけどー、たしかにあるねー。なにこれー、魔法陣?」
「………おそらく」
私にも切断面に霊気が見えた。そんでもって断面に魔法陣があるということは、これは学校が消滅するときにはこの魔法陣の力で学校が転移したってことになるのかなー?
「クロちゃーん」
「う、うん」
「連写機能で学校跡地の魔法陣を激写―! コンビニでプリントアウトしたあとで礼子さんに見せにいこー。さすがに魔法陣までは私にはわかんないもんねー」
クロちゃんが私の指示に従って、学校跡地の淵から携帯に霊力を込めてなぞるようにパシャシャシャシャ! と撮影してくれる
神字や紋様、黒魔術や魔法陣のことまでは詳しくはわかんないもん。そういうのは専門家におまかせしまーす
「この大穴もおっきいねー。おかげで水たまりも池みたいになっちゃってるし、中央にある『DCQ』の文字がみえないよー」
テレビで言っていた、中央にあるDCQの文字。
みくるちゃんが言うには、その世界に行ったというけど、直接見ておきたかったなぁ。
なぜ文字が記されていたのか
魔法陣は霊視しなければ見えないというのに、その文字だけ浮き彫りになっているというのに、何か意図があるのではないか?
テロリストたちは魔法陣で人目につかずにすることができたにもかかわらず、わざわざ所在を示すような情報を残したってことは、DCQの意味を知る者に対するメッセージ。
『この世界に転移したぞ』というメッセージだ。
しかし、なぜそのようなことを?
そもそも、“誰”に対するメッセージなんだ?
「うがー! 考えてもわかんないよー!」
「………タマ、落ち着いて」
ポンと私の肩に手を置いた澄海くん。
その時だ。
「あ、あそこ!!」
ティモちゃんがどこかを指さして黄金色の瞳で遠くを見つめていた
ティモちゃんが指さす先を追ってそこを私も注視してみると
『………。』
「………ローブの男がいる」
ローブの男がいた。
フードをかぶって顔を隠している。
まるでやましいことがあるかのように。
じっと魔法陣を見つめた後、空中に魔力で何やら書き記していく。
「見るからに、犯人………みたい」
「あんなわかりやすい犯人がいてたまるかー!」
あきらかにカタギの人間ではないよー!
一般人は魔力を使いません! 空中に魔力で字を書けません!
ローブの男は空中に魔力で円を描くと、さらにその中に幾何学模様を魔力で作り始める。
「………なにをするつもりかは知らないけど、好きにさせるわけにはいかないね」
何をするのかわからないなら、何かをする前に潰せばいい。
「はいこれあげるー」
「………(こくり)」
私がその辺に落ちている親指サイズの石を拾うと、澄海くんに手渡した。
そんでもって―――
「………っ!!」
澄海くんはローブの男に向かって小石を思い切りぶん投げた。
狙いは頭。ターゲットは150m先。
遠投だというのに、ほとんど山なりになることもなく寸分の狂いもなくローブの男のコメカミ直撃コースを描いて飛んでいく。
澄海くんはクォーター宇宙人。
もとから人間をやめている澄海くんは腕力もとても強いよ。
時速200kmは出てるんじゃないかな………。すごすぎ………
『ッ!!』
澄海くんの殺気に気付いたのか、ローブの男が身体を逸らして直前で石を避ける
なにやら魔法陣を完成させようとしていたみたいだけど、それを阻止することは――
『………』
できそうにないか。すでに完成していたみたいだ。
恨めしそうにこちらを睨みつけながら、ローブの男は魔法陣に魔力を注ぐ。
その魔法陣を中心に、ミシミシと空間が歪み、別の景色が目に映った
「あれはー………もしかしてあれがみくるちゃんの言っていた異世界?」
「………それが妥当」
「空間移動はずるいよー!」
私たちの襲撃に気付いたローブの男が魔法陣に向かって飛び込んだ
「………くそ、逃がした」
ミシミシと音を立てて歪んだ景色が元に戻る
すると、最後に魔法陣がすぅっと消えてしまいそうになる
だけど、それだけで終わらせるつもりはないよ。
私もスマホを取り出してズームして魔法陣をパシャリ。
消えゆく魔法陣をギリギリで捕らえた。
「まー、獲物をタダでは逃がさないのがー、タマちゃんなのー」
さらに私はニコリと笑って人差し指を立てた。
その指を見た澄海くんが、眼を見開く
「………あの一瞬でいつの間に………タマは器用だね」
「スリは得なのー。指先の器用さならー誰にも負けないよぉ?」
澄海くんが視ていたのは、私は指先から伸ばした霊糸。
実は澄海くんの投擲した小石には、あらかじめ霊糸を括り付けておいたのだー!
霊糸を操作してー、件のローブの男が避けた瞬間に糸を解いて操作し、ローブの男の背中にピトッと貼り付けておいたのだー!
糸の先の感覚はつかめないけれど、この糸がつながっている限り、相手がどこにいるかがわかる。
魔力や霊力を操る者ならできて当たり前のスキル。『魔力糸』。もしくは念糸、霊糸ともいう。私の場合はそういう基本的な技術を細かく扱うのが得意なのー。
「ただー、次元がズレて相手が別の世界に行ってるのに霊糸が機能するのかー、不安だねー」
「………誰も試したことないよ。期待はしない」
「なーんか違和感があるけど、接続している感覚はあるよー。あー!」
別次元に行っているローブの男に接続した霊視の感覚を探っていると、ローブの男の存在感がいきなり消失した
「タマちゃん、どうしたの?」
いきなり声を上げた私に反応して、ティモちゃんが不安げに聞いてきた
「相手の反応が消えたー? うそーん」
「………霊糸に気付かれたの」
「うーん。そうかも。相手も一筋縄ではいかないねー………」
ぐぬぬー! ローブの男めー、何の目的でここに来ていたかもなぜ異次元に行ってしまったのかもわからないけどー、今度会ったらただじゃおかないんだからー!!
☆ DCQ Side ☆
「もどったよぉ………ケホッ、ゴフッ!!」
みくるちゃんがボランティア部の部室に再び出現すると、いきなり盛大にむせていた。
「あいや、大丈夫かいな、みくるちゃん」
「コフッ………大丈夫らいじょうぶ。ちょっと喉に痰が絡んだだけ。しっかりとモフモフも補充してきたし、もう元気元気。」
「モフモフで風邪は治らんよ………」
あきれながらも、修はボランティア部奥のタンスから毛布を引っ張り出すと、その毛布をみくるちゃんに掛けてあげた。
「えっ? えっ!? どこから現れたの!?」
「いきなり出てきたです!? みくるさま、だいじょうぶです!?」
「………」
しかもみくるちゃんは、ボランティア部の無室の床に寝そべったまま出現していた。
それに驚いたドラムと葵の両名が慌てふためくものの、修と智香の二人は、驚きはしない。
超常の現象にいちいち驚いていたら身が持たないことをよく知っているから。
修は衰弱して弱弱しく両腕で立ち上がろうとするみくるちゃんに肩を貸し、椅子に座らせると
「霊薬は?」
「あと一個………」
「なら無理はしなさんな………それにしても大変な時にクッソ重い風邪引いたなぁ………」
「ほんとだよ………」
と、なにやら話しながら、修は暖かいお茶と体温計をみくるちゃんに手渡した。
体温計をもそもそと服の内側に入れ、腋に挟むと今度はお茶を受け取る。
そして毛布にくるまりながら、お茶をすするみくるちゃん。
その顔色は、どう見ても病人のそれだ。
「蘭丸にミルクあげてから戻って来たんやろ? 日本の様子はどないやったん?」
「どうもこうも、大パニックだよ。町中の放送で避難してください!! って言ってるけど、全国で5か所も同じようにこの世界に大移動しているんだ。どこに避難すればいいのかまるでわかってない感じ。かくいう僕も、布団から起き上がれずに避難できないけどね」
みくるちゃんは、元の世界での様子を修に伝える
顔色はよくないが、情報を伝えることは必要なことだ。
「日本!? どういうこと!? なんで突然出てきたあなたが、こっちの世界の住人のあなたが日本のことを知ってるのよ!」
だが、ここには事態をなにも把握していないドラムが居た。
みくるちゃんがもたらした情報は、ドラムにとっては日本につながる重要な情報だったのだ。
現状、みくるちゃんがただ一人だけ世界を行き来できるなどとは知らないがゆえに、混乱しつつ、きつく詰め寄ってしまうのも仕方ないことと言えた。
「うぐぅ………! 大声はやめて………頭に響く………」
「ああ、ご、ごめん………」
だが、相手は病人。そんなことをすれば体調に悪影響を及ぼす可能性がある
辛そうに右手で頭を押さえながらギュッと目を閉じるみくるちゃんを見て、ドラムも反省して謝ったが、頭の中は知りたいことだらけだ。
「ドム子さん、その話はあとでおっちゃんから話たるから、少しだけ待っててくいやん」
「………。わかったわよ………」
「ありがとちゃん」
修にまでそう言われ、ドラムとしては引き下がらざるを得ない。
その時、ピピッと体温計の電子音が鳴った
それを取り出して修に手渡す。
視界もぼやけているみくるちゃんは、自分で確認する気力が湧かないようだ。
「40℃か………インフルエンザやないのん?」
「かなぁ………めっちゃ全身が筋肉痛で節々も痛いし………そうかもね。マスクちょうだい。念のために」
「使い捨てマスクあったかな………ああ、あったわ。これ使いやんせ」
「ありがと、おっちゃん」
マスクを受け取ると、すぐに耳に掛ける。
ついでに修が冷えピタを持ってきたので、それもおでこに貼り付けておいた。
「ああ、あとね、ティモたちが僕の見舞いにきてくれたんだぁ、今は僕の代わりに学校跡地に調査に向かってるところ。おっちゃんのお師匠さん、ええっと、礼子さんを通して大山の家にコンタクトを取ろうとしているよ。さすがに事が事だから、礼子さんも動いてくれると思う。僕は日本とココの橋渡しになるから、日本での情報収集はおっちゃんとこの猫たちに任せた」
「なるほどね………。ウチの子たちも動いてくれてたんや。戻ったら礼を言っててくいやん。みくるちゃんも、ありがとちゃん。あとで購買部で働いてもらうから、それまで寝とっきゃん」
「そうする………。ごめん、布団だして………」
「はいな。おやすみ」
「おやすみ………」
ボランティア部は二重部屋になっている。
二つの部屋を合わせて教室半分くらいの大きさだ。
元生徒会室で、依頼などを受ける時は応接セットなどがあるそこそこ広い空間。その奥の部屋がなぜか6畳の和室になっているのだ。
保健室からかっぱらって来た布団も常備してあり、眠る気満々である。
修が布団を敷いて、シーツも適当に敷き終えると、みくるちゃんはいそいそと布団の中に潜り込んだ
「ああ………抱き着ける何かが欲しぃ………モフモフがたりない」
「子猫ならいるけど今のみくるちゃんにはあまり近づけたくないな。モフモフ分が足りなくても今は寝なはれ」
「………ぐすん」
和室の電気を消し、カーテンを閉めると、修はそっとその部屋を出る
するとそこには、腕を組んだドラムが居た。
いくら病に伏している女の子相手とはいえ、かいがいしく世話を焼く修の姿に妬いているのが判る。
(………恋する乙女は最強ね)
(みくるさまが元の世界で本当は男だと知ったらドラム殿がどういう反応をするのかわからないです)
視線だけで智香と葵は会話をしながら、成り行きを見守る。
「岡田。どういうことなの。説明してもらうわよ」
「はいはい、面倒やなぁ………同じ説明をさっき智香ちゃんにしたばっかりやけど………みくるちゃんはな、この学校の生徒やねん。たぶん、ドム子さんもよく知っとるよ。子供のころからの付き合いや。」
「は? どういうことよ? あんな生徒、中等部も含めて見たことないわよ?」
修とドラムは実は幼稚園時代から同じ学校だ。
となるとみくるちゃんと修が幼馴染である以上、ドラムもみくるちゃんのことを知っていて当然である。
「去年、おととしの学園祭で全校生徒を驚愕に陥れた【ミスター・ミスコンテスト】通称『男の娘ンテスト』の優勝者。みくるちゃんや」
「え、って、ことは………さっきのあの子って………牛ノ浜、くん?」
「せやせや、男の子やで」
その暴露に、ドラムは思考が追いつかずに口をパクパクと動かし
そして―――
「えええええええええええ!!!?」
と絶叫するのであった。
(ど、どういうこと!? あの子はこの世界の人間じゃないの!? ていうか牛ノ浜くんってどういうこと!? 完全に美少女じゃない! ってことはあの姿は女装!? あんなにかわいいのに男の子ってことは、………つ、ついているのよね………考えられない!!)
パニックを起こしつつ、おかしな勘違いを加速させながら
「みくるちゃんは今日、たまたま風邪で休んでたからこの異変に巻き込まれなかったみたいなんよ。そんで、おっちゃんもフユルギたんもそうなんやけど、みくるちゃんは2年前からこの世界と日本を行き来できる状態だったから、みくるちゃんに日本での様子を探ってもらってたのね」
「そ、そうだったのね」
混乱しつつも、一応の納得を示すドラム
「………ってことは、岡田。あんたは実はもう日本に帰れるの!?」
だが、世界を行き来できると聞いたドラムの関心は、そこに向かった。
当然、今の異世界転移に納得できない彼女は、一刻も早く元の世界に帰りたいのだ。
「ん? ああ、説明が足りんかったな。行き来できるってのは魂だけや。肉体をこっちの世界に飛ばされたおっちゃんにはそう簡単に元の世界に戻るすべはあらへんよ。せやからどないしようかなーってなっとるとこ。もちろん、いまこっちの世界で寝とるみくるちゃんも魂だけこっちの世界に来てる状態。いわゆる仮初の肉体だけでこの世界におるっちゅうことや。日本でのみくるちゃんの肉体が風邪で疲弊しているから、魂だけやって来たみくるちゃんの今の肉体も、魂や元の肉体につられて疲弊しとるんやろうね」
「そう………なのね」
すぐに帰ることはやはり無理なのだと悟り、ドラムは残念そうに息を吐く。
「そういや、ちなみに今のみくるちゃんは完全に女の子の身体やで」
「うえっ!? そうなの? ってか、どうやってそんなの確かめたのよ」
「ん? そんなん直接見たり胸に触ったりするに決まってるやろ」
「っ~~~~~~!!! ヘンタイ!!」
「幼馴染の元男に欲情なんかせんよ………。ウチの子たちを育てる過程で裸見るのも別に慣れとるしさ」
みくるちゃんにセクハラしたと宣言して真っ赤になったドラムに罵られても、修には邪心は少ししかないのだ。
修はドラムの言葉を適当に鼻で笑って受け流す
あまりにもぞんざいな扱いにドラムは苛立ちを覚えるものの、修は女性という生き物に苦手意識を持っている。
元男というみくるちゃんは姿かたちは女性のものだが、修からすれば遠慮する必要のないただ一人の女性なのだ。ドラムとの扱いが違うことは当然と言えた。
「さて、聞きたいことはもう知ったかにゃ?」
「………そうね。まだまだ知りたいことも疑問もいっぱいあるけど、今はいいわ。この世界の生き方を教えてくれるんでしょう? 今はそれで我慢するわ」
「はいな。ありがとちゃん」
ドラムは椅子に座ってこれからのことを考える
おそらく、一番事情を知っていそうなのが、ここにいるボランティア部の面々。
そして、中等部の井上智香。
鴉天狗の風丸葵は現地人としての貴重な情報源だ。
葵は今、タブレット端末を操作して自らが録画した映像を編集している最中で、智香はその隣でお茶をすすりながらそのタブレット端末を覗いている。
実にフリーダム。
個性の強いボランティア部に、協調性は皆無であった。
「ん? くぁあ………なんか人増えてんな………誰だよ、部屋に女連れ込んできたやつ………」
そんな時だ。フユルギが目を覚ましたのか、あくびの後にドラムが部室に居ることを面倒くさそうに指摘した
「おい、ログイン中は無防備になるから人を入れるなよ………面倒臭ぇ」
フユルギはぐいーっと体を伸ばし、脱力すると、興味なさそうにスマホを取り出す。
「ああ………あとはもう兎が4羽しか残ってねぇな。いい感じに勇気(ハゲ)が雑魚を間引いてくれたか。」
確認をしたのは、学校の敷地内に残る残敵数だ。
学校の敷地内にいたゴブリンやオークは狩りつくされ、残るは角兎だけとなっている。
その様子を見ていたドラムが、フユルギに向かって口を開く
「ねえ、大山君」
「あん?」
興味のないことにはとことん興味を示さないフユルギが、興味なさそうにドラムの方に視線を向けると
「さっき聖くんがゴブリンを倒したときもそうだけど、魔物を倒すと武器が手に入るって、本当なの?」
「ああ、本当だぞ。なんなら試してみるか? 風丸、ちょっと兎とっ捕まえてきてくれ」
部室内に視線を巡らせ、いい感じにパシリにできそうな葵に声をかけるフユルギ
「私は記者であってパシリではありませんです」
そのパシリをバッサリと断る。
「なんだよ使えねーな。おっちゃん!」
「めんどい」
「意趣返しかよ。しかたねーな………まあ、ちょうど近くに居るみたいだし、俺が行くか。そういやみくるちゃんは?」
「和室で寝かしとるで」
「あいよ………。こういう時こそみくるちゃんの出番だってのに………ったくよぉ」
フユルギはポケットにスマホを突っ込み、部室を出る。すると
――ドン!
「きゃっ!!」
「ぁあ゛!?」
部室を出た途端に、フユルギが女子生徒とぶつかった
ぶつかった瞬間にフユルギはイラっとした声を発する。
普段の彼ならばある程度のことはスルーできるし、特に気にしないどころか相手を気遣うことすら可能なほどに気遣い上手なフユルギだが、今は非常事態。
強面で、オレンジ色の髪で、一見して不良に見間違われる彼のドスの効いた声に
「ひっ! ご、ご、ごめ………ごめんなさ………っ! ぅ、ぅああ………!」
と、真っ青を通り越して土気色になった女生徒の声にもならない悲鳴が帰って来た
「あん? お前はさっき豚に犯されそうになってたやつか………」
その生徒は、サイズの合わない男物のカッターシャツを着た少女。
「ひぅっ!!」
先ほど修とフユルギがオークから助け出した少女。坂本奈々だった。
坂本奈々は、男子生徒に犯されそうになり、オークに犯されそうになったのだ。
男子に接触するのに恐怖がせりあがってくる。
精神的な異常をきたして震えながらも、彼女は言葉を発しようとする。
「あの………こ、こ、こ、これ………を………」
フユルギはチラリと大事そうに握られた彼女の手元に握り締められた『悪霊退散』の御札を見て
「………ったく、ラブコメはよそでやれよな。ここを女のたまり場にした覚えはねえよ………」
盛大にため息を吐く。
「おい、おっちゃん!! 客だ、もてなせ!」
「人使いあっら!!」
「
「おっちゃんの客なん!? そやったらまぁ、せざるをえんなぁ………」
「お前もさっさと中に入れ。そんじゃあな」
それでも、小さな子供にしか興味がない彼の女性嫌いを何とかするチャンスでもあるかと思いなおし、すべてを修に押し付けて、邪魔ものであるフユルギは兎さんを探しに出かけるのであった。
(………オサムのフラグ建築技術は一流ね)
(本人は女しかいないこの空間に真っ青になっているみたいです)
(………女性が苦手だって言ってたけど、わたしに対しては別に普通に接してくれていたわよ。むしろ面倒見がよかったくらい。そこはどうなのかしら)
(たぶん、智香殿は小さいですから、子供枠に数えられているのではありませんか? ほら、修さんはロリコンらしいですし)
(………なにそのうれしくない認識)
そしてその様子を見ていた智香と葵。
視線だけで会話する彼女たちは、鋭いコンビだけあって、なかなかに気が合うらしい。
(それにしても、フユルギさんは見た目に反して気遣いの達人ですね)
(………そうね。フユルギは見た目で損するタイプかしら)
(でも普通にモテるみたいですよ)
(………モテるがゆえにバイセクシャルって言ってたわね)
(どこか歪んでますです。この部室の性癖。)
などと会話をしていたこととはつゆ知らず。
修を巡ったラブコメが展開する!!!
「あなた、坂本さんね? そんな恰好で、なんでここに?」
ドラムが座る椅子の隣に奈々は腰かけ、ドラムがまず坂本奈々に話しかけた。
「そ、その………センパイに、その、助けられて………お礼を、言いたくて」
「助けられたって………岡田に? あれ、そのカッターシャツ、見覚えのある血の跡が」
「は、はい………。岡田センパイに、助けてもらいました」
そういって、奈々はギュッとお札を握る。
修も女性が苦手とはいえ、一応のもてなしをするつもりではあるのか、お茶を用意して
「んー、あー………あの時の子か………屋上にはいかなかったんや」
と、すこし離れた場所に座ってから自分の疑問を唱える。
「男の人たちの視線が怖くて………屋上には行けなかったんです………でも、
御札を握り、深々と頭を下げる奈々。
「や、やっぱり、それ岡田のシャツ!」
奈々が来ているシャツが修の物だと知り、声を荒げるドラムだが修はそんなことはどうでもいいとばかりに話を続ける。
「ま、たしかにその恰好じゃ刺激的やんな。男もんのカッターシャツと破れたスカートだけってのも防御力がなさすぎるわ。そのへんも気ぃつけとけばよかったな、ごめん」
「っ!!!」
そんでもって、この男はとことんデリカシーに欠けた。
自分の格好がいかに煽情的であったかを客観的に想像すればすぐにわかる。
オークに服を破かれてから、血にまみれた男子生徒のそれも自分を犯そうとした男子の服を着るなどとてもできないし、修からもらったシャツしか着るものはないのだ。
この状態で屋上に向かったとしても、その煽情的な姿はさらなる視線にさらされ、奈々のトラウマを呼び起こされてしまうことになるだろう。
なまじ容姿が優れている分、その破壊力は計り知れない。
「ああ、そういやおっちゃんのバド部のユニフォームを一枚だけボランティア部に置いとったわ。これでも履いといてちょうだい」
しかし、修はフォローも忘れない。
修は席を立ち、ボランティア部に置きっぱなしにしていたバドミントンのユニフォーム一式を取り出すと、アディダスの刺繍が入ったパンツを奈々に差し出した
「なにからなにまで、ありがとうございます。センパイ」
頬を染めてお礼を言う奈々。
「ええよええよ。でもユニフォームって高いから、ちゃんと返してね」
「は、はい」
台無しである。
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