巻き込まれる現代!

第21話 自宅ー岡田タマ・クロ・ティモ【猫妖怪】



 日本―ここはみくるちゃんの自宅。



「あふぅ………くらくらする………やっぱりこっちの本体は眠ってても体力が回復するわけじゃないんだよね」



 自宅の外では、近所の人たちが逃げるように叫んでいるのが聞こえる。

 それはそうだ。なぜなら日本で5か所の学校が消滅。しかも近所。それが自分たちのところに被害が及ばないとは言い切れないからだ。



「おねーちゃん! おきたぞ!」

「おおっと」



 三毛猫の雄、牛ノ浜ブチ丸が僕の起床と同時に飛び込んできた

 くらくらする頭でなんとか抱き留める


「おねーちゃん、ねてないとだめーなの!」

「あ、ちょ、くすぐったいよアリス!」


 さらに僕の腹の上をちょこちょこと走り回る、牛ノ浜アリス。シマリスメスだね。


「おかー、さん。」

「うん。今ミルク作ってあげるからねー」


 蘭丸も僕の眼ざめを待っていたみたいだ。


 フユルギが言うにはDCQと現実世界の時間軸が同じになってしまっているらしい。

 いつもだったら2年くらいDCQで遊びほうけても問題なかったけど、さすがに時間軸が現実とリンクしているなら、こまめに現実に戻らないといけないね。


 それにしても


「僕だけ巻き込まれ損ねてよかったぁ………」


 今思うと、本当にそう思う。

 僕は向こうに行き来できるし、アリス、ブチ丸、蘭丸のごはんをあげないといけないからね


「アリス、僕が寝てる間、なんか変わったこととかあった?」


 まだ現実世界の方ではまだ僕の風邪は治らないし、熱も高い。くらくらする



 くらくらする頭を叱咤して起き上がり、蘭丸のミルクを温めるついでに熱冷ましの薬を服用しておく。

 さすがにこの状態じゃ無理だ。

 あまりお薬には頼りたくなかったけど、この際仕方ない。


「しゅうへんのみなさんはひなんしてくださいっていってたの。おっきなこえで」



 アリスがティッシュを咥えて僕の肩まで駆け上る。

 アリスに礼を言ってそのティッシュで鼻をかむ。



 避難、かぁ。まあそうだよね。あんな学校が巻き込まれるような大事件だもん。周囲にどんな影響があるかもわからないから、近くには居たくないよね。

 おっきな声でってことは、そういう町の放送があったと思ってよさそうだね。


 となると、僕も避難しないといけないの?


 いやいや、別に僕はここが危険ではないって知ってるからいいか。



――――ピンポーン!



「おや、誰か来たようだ」

「ぼくがいく」


 蘭丸をあやしつつ、鳴り響くチャイムの音を聞いてブチ丸が玄関へと向かった


 ドアノブにぴょんと飛びつくと、器用に肉球で挟んでノブを回し、ドアを開ける

 猫の芸当ではないが、それをしないとブチ丸は外に遊びに行くことはできない。

 ドアがどうしたら開くのか。それを教えてあげたらブチ丸はできるようになったのだ。


 言葉がわかるからこその芸当だ。


「誰だったのかな」

「ありす、においでわかる」

「じゃあ知り合いだね」




 しばらくすると、ブチ丸がトトッと駆け寄ってきた。

 僕の能力【動物たちの茶会アニマルトーク】の効果範囲である3m以内に入るや否や



「おねーちゃん。ティモたちがおみまいにきてるぞ」



 とブチ丸がおっしゃった


「本当? じゃあ入ってもらって」

「わかったぞ」



 ティモたちか。


 そっか。そりゃあそうだよね。

 あの子たちなら、僕が風邪で寝込んでいることを知ってるだろうし、なにより巻き込まれていないことが分かり切っている。



 ブチ丸は僕の能力の効果範囲から出ると、ティモたちを呼びに行った。



 僕の能力の効果範囲にいないのに、どうして呼びに行くというのか。


 答えは簡単だ



「おじゃましまーす!」

「おじゃま………します」

「きたよー」



 僕の家にやってきたのは、3人の子猫・・・・・だからだ。



「………。(ペコ)」


「おや、珍しいね。スカイくんも来たんだ」

「………。(こくり)」


 さらにもう一人、白髪赤目の無口な少年が僕の家に入ってきた。


「………おっちゃんの学校が消滅したから、ママから知ってそうな奴に詳しく聞いて来いって」


 ジト目のまま、スカイくんはポツリとつぶやいた。


 なるほど。

 さすがにあの人もおっちゃんのことが心配にもなるか。


「初等部はもう夏休みなんだっけ?」

「………(こくり)。校舎も違うから巻き込まれなかった」


 スカイくんは、本名上段澄海うえんだんすかい

 僕らが通う学園の初等部に通う小学4年生


 ついでに言うと、おっちゃんの霊媒師の師匠の息子さん。

 さらに言うと、そのお師匠さんの旦那さんがハーフ宇宙人で、澄海くんはクォーター宇宙人にあたるという、正直言って意味わかんない生命体が、この澄海くんなのだ。


 白髪赤目なのは宇宙人としての特徴なんだって。

 宇宙人でありながら、霊能力もある、そんな男の子が、澄海くん。


 なんか別の物語の主人公とかやってそうだよね。



「おっちゃんもいないしー、でもみくるちゃんが家にいるってことは知ってたからねー。おっちゃんは死なないから心配ないんだけどー。おっちゃんがいないと私たちのごはんがないんだよー。ご自慢の藁人形もおっちゃんとリンクしないしさー。困ったねー」



 そんでもって、おっちゃんの藁人形をつまんでプラプラしながらのんびりした口調で話す、空気を含んだふわふわの銀髪で猫耳を生やした女の子。この子は岡田タマ

 右目が黄色で左目が青色のオッドアイ。


 おっちゃんの育てる子猫の一人。運動能力は並だけど頭は切れる。そして直感と状況判断能力が優れ、気配りのできる長女だ。


 白猫の妖怪、らしい。


 だけど、夜中におっちゃんと共に数珠と御札を片手に街を駆け回って悪霊や妖怪を退治しているって聞いたことある。

 妖怪とか見たことないけど、さすがにこの猫耳を見るとね。


 あと、オッドアイの影響か、タマは左耳の聞こえが悪いらしい。

 妖怪レーダーの役割を果たすのが右耳だけでは心もとないとこぼしていた。

 いうても人間をはるかに超える聴覚なんだけどね。


「その………修さんが、いないと………わたしは………」



 そんでもって、光を反射するほど見事な黒髪の女の子は、岡田クロ

 もちろん黒猫だ。瞳の色は澄んだ蒼色。縦に裂けた瞳孔も、どこか猫っぽい印象を与える。

 気が弱い子だけど、心の優しい女の子だよ。

 3姉弟の中で最も運動能力が高いのもこの子。


 この子の首に下がっている鏡には【ナントカカントカのミコト】とかいう神様が封印されており、神降ろしをして自分の身体を依代にして悪霊を叩く物理アタッカーだとか。


 正直妖怪退治関連のことは僕にはさっぱりだからよくわかんない。



 まぁでも、タマもクロも、おっちゃんのことが大好きなのだ。

 それは間違いない。


「うー、兄ちゃんが帰ってこれないなんて、そんなのやだ! ねえみくるおねーちゃん。なんとかならないの?!」


 そんでもって、元気いっぱいの男の娘・・・が、岡田ティモ


 茶色とオレンジ色の虎模様が特徴の髪で、当然頭部には猫耳がついている。


 霊能力の方はからっきしで、おっちゃんから呪術を習っている。運動能力は低い。

 低いと言っても3姉弟の中でって話であって、一般人からしたら化け物みたいな身体能力だ。


 ティモが僕のブチ丸を抱きかかえて歩いてくる。

 ティモにとって、ブチ丸は弟みたいな存在なのか、とてもかわいがってくれるんだよね


 そんでもって、当然ながらこの人猫たちは人語を話せる猫なので、僕の【動物たちの茶会アニマルトーク】がなくとも猫とのコミュニケーションが可能というわけ。


 猫以外だとわかんないらしいけどね。

 そうじゃないと僕のアイデンテティがなくなっちゃう





「そうだね、さっき僕がおっちゃんと連絡とったんだけど、元気だったよ。ただ、どうやって戻ってこれるのかわかんないから模索中って感じだったかな」

「ねーえ。それってやっぱりー、おっちゃんが食べてたクッキーに関係するのー?」

「うぇ!? 知ってたの!? いやまあ隠してはいないけどさ………」


 察しのいいタマがド直球で確信を聞いてきた


 びっくりして変な声を出すが、一緒に暮らしていたら気付くよなと考え直す



「だって兄ちゃん寝る前にクッキーたべていきなり死んだように寝るんだもん。歯も磨かないしね!」


 ぷんぷんとティモが頬を膨らませる


 どうやらおっちゃんは隠し事がへたくそなようだ。


「ズボン脱がしても反応ないもんねー」


 何してんの



「まあ、それを知ってるなら話は早いね。おっちゃんはそのクッキーをたべた後、異世界に魂だけトリップするんだ」


「おおー! 異世界トリップはロマンがあるねー! 私の邪竜の封印されし鬼の右手がうずくよー!」


 タマが左手を押さえながら、まったくもって普通のプニプニした手をこちらに向ける

 うん。この子はあれだ。中二病も混じっているね。


「………鬼か邪竜かはっきりしろ。あと両手とも右手ってどういうこと」


 ダス! とタマの後頭部にツッコミを入れてくれた澄海くん。ありがとう。無口だけどツッコミ担当はキミしかいない。

 タマの漫才を横目で見て苦笑しつつ、僕は温めたミルクを蘭丸に与えるために蘭丸を抱えた


「あ、哺乳瓶かしてー。その子が新しい子だよねー。私がミルクあげたいなー」


 叩かれた頭をさすりながらもほほ笑んで会話をコロコロ変えて主導権を握る。

 タマは自分のペースで話したいらしい。僕から蘭丸と哺乳瓶を受け取ると、優しい表情で蘭丸にミルクをあげた。


 もう気付いているだろうけど、この三匹の子猫たちはおっちゃんが育てている子猫だよ。

 おっちゃんのアパートに一緒に住んでいて、僕らの学園の初等部にも通っているんだ。


 私立だし、おっちゃんのお師匠さんは霊媒業で荒稼ぎしているから、猫の妖怪を入学させるなんて、わけないよね。


「それでー、おっちゃんはその異世界に、今度は生身で行っちゃったってことなんだよねー」


 ちぱちぱと蘭丸がミルクを吸うのを見守るタマ。

 やはり一番理解力があるのはタマだ。


「そうなるね」

「となるとー、おっちゃんは異世界からの脱出を目標にしてー、私たちはこっちの世界でおっちゃんと学校が元に戻れるように活動しないといけないんだねー。幽霊退治以外は専門外だけどー、礼子さんを通じて大山の家にコンタクトを取ってみるよー」



 礼子さん。とは澄海くんのお母さん。上段礼子うえんだんれいこさん(23)だ。

 礼子さんの旧姓は大山礼子おおやまれいこ


 凄腕の霊媒師だけど、旧姓からわかる通り、僕らの悪友大山不動フユルギの血縁関係にあるお方だ。フユルギの叔母にあたる人が、澄海くんのお母さんだ。


 つまり、澄海くんはフユルギと従弟の関係にあるってことだね。

 面識はほとんどないって言ってた。


 でもま、化け物揃いの大山の家なら、この事態に対して動いてくれるはずだ。

 なんてったってフユルギが巻き込まれているのだから。



「僕は蘭丸にミルクをあげたらすぐに向こうの世界に行くつもりなんだけど、こっちでの活動は任せてもいいかな。僕は向こうとこっちをつなぐパイプになるよ」

「まかせてよー。おっちゃんに早く帰ってきてほしいからねー」



 ドンとペタンコな胸を叩くタマ。

 そういや、タマたちのクラスには僕らと同級生の弟や妹たちが居るんだっけ。

 心配しているだろうな。学校が消滅するんだもん。兄弟が巻き込まれたって子たちも多いはずだ。


「あと、一応僕が向こうで仕入れた情報を教えておこうかな。知っていると思うけど、仮装したローブの男が学校に侵入して、その後学校が転移した。でも学校が転移した後、学校内部にローブの男はいなかったみたいなんだ」


「ふーん。異世界に転移した後にどこかに姿をくらませたか………それともローブの男だけはこの世界にとどまったか………」


 ブツブツとタマが呟く。タマの頭は良い。僕よりもよっぽどこの世界で活躍してくれるだろう。

 僕は体調も悪いから任せることしかできないけど、この子供たちの存在はとてもありがたい



「えと、タマちゃん………どうするの………?」

「そーだねー。ひとまず私の勝手な憶測が当たってたことに満足かなー。原因を調べないといけないからー、今から学園に行こうかと思ってるよー」

「でもタマちゃん。ぼくたちは避難しないと」


 タマの袖を引っ張るクロ。それに対してタマはすぐにコレからすべき行動を決めたが、ティモが放送を聞いて避難しないといけないことを言う。



「そんなのぶっちしちゃえばいいんだよー。私のおうちはあのボロアパートだけなんだよー!」

「そ、そう、だよ」

「たしかに!」


 タマの力説に納得を示すティモとクロ


「………学園は立ち入り禁止になってるはずだけど」


 そんな3人にポツリと水を差すのが、澄海くんだ。

 いつも冷静でいてくれるから、猫たちのストッパーになってくれる


「そんなもん猫に戻ってしまえば侵入はサクサクだよー」

「………はぁ」


 どや顔を向けるタマに向かって、澄海くんがため息を一つ。

 苦労かけるね、澄海くん。


「………もう、好きにしろ。人に化けて全裸になっても僕はなにもしないからね」

「うわー! ひどーい澄海くんー!」


 まだ人間の経験が浅い子猫たちと、それを引っ張ってあげる澄海くんは、ゴーストバスターなだけあって仲良しだけど、好奇心に任せて行動する子猫たちにほとほと若干疲れてきているみたいだ


 そんなタマと澄海くんの間を抜けて、漆黒の髪の女の子が僕の手を握ってきた


「………その、みくるさんの、お風邪の具合、大丈夫………ですか」



 眉をハの字に曲げて心配そうに僕を見上げるクロ。


「あはは、心配してくれてありがとう。少し寝てたら大丈夫だよ。僕のことは気にせずに調査に行ってきてくれるかな。さすがに僕は外に出られるような体調じゃないからさ」

「おだい、じに………あのこれ、お見舞いの果物、です」

「ありがと、あとでちゃんと食べるからね」



 ぽむっとクロの頭を撫でてあげると、眼を細めて笑みを浮かべる。

 なんだかんだ言っても、この子たちは猫だ。


「ふぁ………んっ………ぁ………」


 動物であれば、僕のことが嫌いになるはずがない。僕のモフモフゴッドハンドに掛かったらにゃんこもわんこもイチコロだ。


 やりすぎると中毒性があるので、適度にやめてあげるのが、動物にとっても大事なのです

 もっと撫でてと目で訴えてくるクロだが、僕は体力面で限界を迎えそうだから潔くクロちゃんから手を放してベッドに腰かける。



「みくるちゃんはこのまま寝てていいよー。あ、おじやつくってあげようかー?」


 心配そうにタマも見つめてきた。


「タマちゃん料理できるの?」

「おっちゃんに一通り習ったからねー。カレーと麻婆豆腐とナポリタンを作れるようになったのー」


 イタズラ好きだけど、最も空気を読んで器量のいいのがタマだ。

 そうじゃなければ長女は務まらないか。

 小学4年生で料理ができることに驚きだけど、タマは頭がいいからね。


「うーん。気持ちだけもらっておこうかな。さすがに食欲がわかないや。みんなも僕の風邪が移るまえに、早くこの家を出た方がいいよ」

「私たちは猫だから移らないと思うけどなー。でもわかったよー。私たちの方で何かわかったらメールするねー」

「助かるよ。みんなの活躍はおっちゃんに伝えておくね。」

「えへへー、それはうれしいねー」


 タマは蘭丸が飲み終えた哺乳瓶をサッと洗って熱湯消毒したあと(何も言わずにやってくれた)


「今日は大変な時に来てくれてありがとう」

「ううん。私も知りたいことを知れたからねー。それじゃ、おじゃましましたー」

「おじゃま、しました」

「ばいばーい!」

「………(ペコ)」



 4人でこの家を去っていった。



 さて、もう一度ログインしないと………

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