第16話 高等部ー岡田修【痛覚反転】
「それ」
「ほい」
フユルギが蹴り飛ばしたゴブリンの額に、修は御札をペタリと貼り付ける。
「それ」
「ほいほい」
振り下ろされる棍棒をフユルギは受け流し、そのゴブリンに回し蹴りで蹴り飛ばし、修はそのゴブリンの額にお札をペタリと貼り付ける
「いやあああ!!! 誰か、助けて!!!」
ふと教室の中を覗き込めば、女生徒がオークに押さえつけられ、服を破られていた。
周囲には、男子生徒の死体。
内数体は、ズボンを脱いでいるという、見るに堪えない姿だった。
オークはその獣欲を満たすために女生徒を犯そうとしているらしい。女生徒のスカートを破り捨て、女生徒の上半身はボロボロ、ショーツも破られているようで、近くにそれらしき布切れが散らばっていた。
恐怖によって失禁もしているようだ。教室内につんとした臭気が漂う。
「そら」
「はいな」
もちろん、彼らは空気など読まずに突入し、フユルギはオークを蹴り飛ばし、修はその先でパァン! といういい音を響かせながら、オークの背中に張り手で御札を張り付けた。
「おい、邪魔だ、早くどっか行け」
フユルギはオークをヤンキックで蹴り飛ばした後、オークに押し倒されていた女生徒を気だるげにしっしと追い払う。
「ちょい待っちゃん。この子、怪我してはるやん。しかも、打撲痕からしてオークやなくてそっちの下半身丸出しの男の方とみた。うへはー、男っちゅう生き
「どうせ男は下半身で動いてるからな。で、それがどうした」
「いや、さすがにこの子がここまでされたんがオークや無くて人間の仕業やー言うんが納得いかんくてな。気持ち悪いねん」
「はぁ、好きにしろ。その怪我じゃ動けないだろうし、結果的に助けた子が死ぬのも寝覚めが悪い」
「ありがとちゃん」
フユルギに許可を得た修が礼を言いながら女生徒に近づくと、
「ヒッ!」
恐ろしいものを見る目で、修から距離を取ろうとする。
だが、すぐに壁に当たって逃げられないことを悟る。
たった今、犯されそうになっていたのだ。男子生徒と、オークに。
男という生き物が怖いのだ。女性という生き物を怖がっている修には、彼女の気持ちが理解できた。
「おっちゃんはなんもせぇへんって。おっちゃんほど人畜無害な高校生はおらんよ」
修は、決してイケメンではない。ただし、特別不細工でもない。
気の弱そうな、それでいて人のよさそうな中肉中背の、運動能力は高いが運動音痴という普通の男子だ。
もし、近づいていたのが強面のフユルギだったら、女生徒は卒倒していただろう。
修は、彼女に視線を合わせて、ぎこちなくほほ笑んだ。
間違っても抱きしめたり頭を撫でたりはしない。それが修だった。
「あ、ありっ、とう………グスッ、なんとか、たす、かりました………あのままっだったら、えぐっ………本当にっ、うぁああああああああああん!!」
どうやら女生徒は本当にギリギリのところだったらしい。
ズタボロの身体で、泣きながらお礼を言う
保護欲をそそられる姿。しかし、どう転んでも頭を撫でたり抱きしめたり安心するような一言は言えない。修は物語の主人公のような広い心を持っていないただのヘタレだからだ。
女生徒の方も、修に泣きつくようなことはしない。それは体が、魂が拒絶していた。少し動かすだけで体中を駆け巡る激痛もさることながら、修が近くに居るだけで、全身の鳥肌が止まらない。
今まさに犯され殺されそうになっていたのだ。それもまた仕方のないことといえた。
「その身体の方もなんとかしてあげるから、ちょっと待っちゃんよ」
その代わりに修は、ポケットから藁人形と五寸釘、木槌を取り出し
「ほい、ここ持ってねー」
「………ふぇ?」
手渡された藁人形を握らされ、流れるように修は女生徒の手の甲に五寸釘を添えると
「チクッとするでー。【
カン! と、木槌で女生徒の手の甲を、藁人形ごと五寸釘で打ち抜いた
「あああっ!!!」
女生徒は困惑する、なぜ、こんなことをするのか。
理解不能。
肉棒に貫かれるはずの身体は、あろうことか、鉄の五寸釘に貫かれてしまっている
その激痛は、殴られ、蹴られ、へし折れた骨と同等、いやそれ以上の激痛となって彼女を駆け抜けた
「
ズボッ! と五寸釘を引き抜くと、その瞬間、違和感に気付く。
手の甲に、穴は開いていない
いや、それどころか、体中から痛みは無い。
握らされた藁人形を見れば、自分がけがをした場所とまったく同じ場所の藁が欠けてはじけ飛んでいる
藁人形がわたしの怪我を肩代わりしてくれたのだろうか?
そんな疑念が頭をよぎる。そんな馬鹿な、と一蹴することはできなかった。
目の前で起きたその奇跡を、己の体験したその経験を、否定することはできなかった。
修の固有スキルである【
超常の現象が立て続けに起き、困惑する女生徒をよそに、修は藁人形を回収して、ポケットから新たな紙を取り出すと、念を込める。
「はい、この護符をポッケに入れといて。」
「これ、ひっく……これは?」
ボロボロの服を寄せ集めて肌を隠そうとしながら頬を染めてお礼を言う女生徒。
怪我が完治したことで、その容姿が整っていることに修は気づく。視線を下に向けると
背は低く、胸は大きめ。上履きの色から、どうやら2年生。後輩の様だ。
修の視線の先に気付いて股を閉じ、ボロボロの服を気持ち程度に胸に寄せて隠そうとする。
しかし、いかに修が童貞とはいえ、女生徒の素肌にさほど興味はなかった。
修のモットーは『Yes, ロリータ。お菓子あげるからこっちにおいで』である。
彼は紳士的なロリコンである故に、煽情的な姿となった女生徒にも、普段と変わらぬように接するのである
同じように、フユルギも女生徒には興味を示していなかった。
幾多の女を食ってきた彼は女性にはすでに飽きており
フユルギの優先順位は 『女<<虎<筋肉<立派な顎髭』 という常人には理解不能の思考回路を持っていたためである。
「この護符には自動迎撃が仕込んであるから、御守りにしてくいやんな。最上階まではもう何もいないはずやっでな。ほな」
修は怯える女生徒に気を使い、女生徒の破られた服を隠せるように自分が着ている上着を被せてから、特徴的な模様と『悪霊退散』と書かれた紙を手渡す。
その際、修の上半身はオタオタしく、
女生徒の怪我を治し、立ち去ろうとしたところで
「ブゥ………」
頭を振って立ち上がろうとするオーク。
「ひっ!」
「おろ、『家内安全』の札ダメージだけじゃ死なんかったか………」
御札が張り付いていることで発生する継続ダメージで、ビクン、と体を痙攣させ、御札の張り付いた背中からは煙が上がっている。
すぐに修も女生徒のことを意識の外に追いやり、フユルギに蹴り飛ばされたオークの元へと駆け寄ると、人差し指と中指で持った御札を顔の前で掲げる。
すると、柔らかい紙のはずなのにピンと張りができて、紙は曲がることなくまっすぐ上に伸びた。
そのまま、一閃。その御札でオークの首筋を切り裂く。
「うわああ!」
吹き出す血しぶきにたまらず悲鳴を上げる女生徒。
返り血をバックステップでよけてから、修はオークの身体を足でツンツンする。
オークがが死んだことを確認すると
「………起床の時間やで、【ゾンビ兵】」
修がその御札を宙に投げると、御札は宙に浮いたままピタリと制止する。そして御札は意志を持ったかのように宙で軌道を変え、ペトリと御札がオークの額に貼り付いた。
するとあろうことか、オークはダクダクと血を流しながらうつろな瞳で立ち上がったではないか。
これにはたまらず女生徒はまだ生きていたのか、と驚き
「う、動いてる! せ、センパイ………逃げましょう!」
強面のフユルギよりは幾分か接しやすそうだったからか、怪我を治療してもらったからなのか、それとも別の感情からなのか、女生徒は修の服の袖をつかんで引っ張る。
「あー、ちょっと待ってな。おっちゃんたち忙しいねん」
眼鏡を押さえながら若干鬱陶しそうに女生徒を見る修。
彼はロリコンの童貞。そして彼女いない歴17年(と異世界歴数年)。
だが、この世で最も苦手な生き物は、女性。
せっかく助けた女性であっても、
胸が大きく、顔立ちが整っていても、女性というだけで修には無理だった。
服の袖を今すぐに振り払いたいとさえ思えるほどに。
そんな修を見て、床に転がる、仏さんとなった邪魔な男子生徒たちの腹を足で押し退けて教室の隅に寄せていたフユルギは舌打ちをする。
「おっちゃんに代わって俺が命令を下す。同族およびゴブリン種の排除を命令する。その後、速やかに御札を剥がして自害しろ。行け」
「あ、情報操作はずっこい!!」
修が天職【呪術師】によるオークのゾンビ兵に命令を下す前に、フユルギの天職【情報屋】による介入指令でゾンビ兵を動かす。
のしのしと歩きながら、オークゾンビは教室を後にした。
「おっちゃんが遅いのが悪い。次行くぞ。あとゴブリン33とオークが1………いや0になった。兎が15、そんで将軍が1だ。位置情報からして将軍がオークを屠ったかな。………ん?」
「あ、簡易結界が破れた! どないした!?」
フユルギがスマホに視線を移しながら戦況を呟けば、修が声を上げた。
フユルギの方も同様に、違和感を感じて顔を上げる
「ドラゴンが来る。さすがにドラゴンは簡易結界を破れるレベルってこったな。」
フユルギのつぶやきに、女生徒の顔が凍り付く
「ど、ドラゴンって、あのドラゴンですか!?」
修の上着を身にまとうようにして立ち上がる
「せや、そのドラゴンやで。【呪術師】レベ250のおっちゃんの簡易結界を破れるとなると、レベ500以上。古代竜クラスってことやな。となるとセルビアやないのん?」
「………みくるちゃんが来てくれたのか。こりゃあ助かる。おい、窓の外見てみろ、でっけーのが居るぞ。ウケる」
フユルギがからかうように窓の外を指さすと、そこには、今までよりもひときわ大きなゴブリンと、それに向かって剣を振り下ろす、女生徒がひそかに恋心を抱いていた生徒会長。
彼もここにいる彼らのように生徒を救うために激闘をしていたのだろうか。頭から血を流していた。
―――そして、そんな彼が手も足も出なかったゴブリンが、一口で飲み込まれるほど巨大な体躯を誇る、ドラゴン
「ほとんど魔力で飛んでるから、風圧による衝撃破とかが来なくて静かやな」
「そうだな。普通だったら窓ガラスが砕け散っているぞ。魔力操作の腕を上げたな、セルビア」
悲鳴を上げそうになるが、目の前の二人は動じた様子がない。
意を決して、女子生徒は二人に声をかける
「あ、あの………」
「あ?」
「なにゃ? 質問は手短にしてくいやん」
フユルギに睨まれて竦みそうになる女生徒。
同じくこちらを振り向いた修の方を意識しながら、問いかけた
「あのドラゴンは、味方………なんですか?」
「せやで。人間は決して喰わないように、躾けてあるからねい」
「食えと指示したら喰うけどな。あいつ食いしん坊だし。」
質問は終わったとばかりにフユルギはスマホに視線を落とす
「オークと将軍はもういなくなった。あとは兎とゴブリンだけか。おっちゃん、幸いにしてセルビアの気配で魔物は入って来れないから、セルビアが去ったらもう一度結界張れ。それで俺らの仕事は終わりだ。みくるちゃんと
「はいはーい。そんじゃ、おやっとさ。ちゃんと避難するんやで。」
窓から飛び降りたフユルギを追って、修も女生徒に避難するように促してから、窓から外に出て行った。
女生徒は、窓から身を乗り出して外に出て行った二人を見送る。
「ここ、2階なんだけどな………」
恐る恐る、窓に近づくと、倒れ伏す生徒会長と、その傍には金髪の可憐な少女の姿が。
ドラゴンは目を細めながら少女にのどを撫でられて、恐ろしいうなり声をあげている。
どうやら本当に人間に危害を加えないドラゴンらしい。
しばらくすると、草原に向かて助走をつけてから飛び去って行くのが見えた。
「な、なんだったんだろう、さっきのセンパイたち………」
なんだか、夢を見ていたような気持だった。女生徒は『悪霊退散』と書かれた護符を胸に抱え、肩に掛けられたシャツをギュッと握りしめる
それが夢ではないと言っているようで、現実を意識させられる。
そんな女生徒の呟く声も、胸の中に残る気持ちも、誰にも届くことなくむなしく教室に溶けたのだった。
窓下には、着地を決めるフユルギと、着地に失敗して膝で額を強打する修の姿があったのは、秘密だ。
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