第15話 高等部ー坂本奈々【絶対絶命】



 坂本奈々は絶体絶命のピンチに陥っていた。


 彼女は高等科2年生ながらこの学校の5本指に入る美少女。



 整った容姿、それになにより、その豊満な胸囲である。


 彼女はちやほやされることに慣れていた。


 異世界に学校ごと飛ばされるまでは。



「なんなのよ、これ………」



 窓の外に広がる景色は、いつもなら校庭の先には公道が見えていた。

 それが、草原に代わっている。


 体育館から教室に戻ったものの、どうすればいいのか、大混乱であった。


 どこの教室でも同じ。

 先生も来ない、臨時会議が長引いていたのだろう


 当然だ。いきなり異世界に飛ばされたのだから、先生たちだって混乱するハズ。


 しかし、自分の現状に対し、早く解決策を見つけてくれない大人たちに苛立ちが募るばかりであった。



 先生たちが来ない間、生徒たちは何をしていたかというと、携帯を取り出して家や親に連絡を取ろうとする。

 当然、奈々も同じようにスマホを取り出して連絡をしてみた。


 だが、嘲笑うかのように表示される『圏外』の文字。



 不安に駆られた生徒たちが、弟や妹でもいるのだろう、中等部の校舎に行くと言って、教室から出て行った。


 その直後である。


「きゃああああああああああ!!!!」



 校庭の方で警備をしていた消防隊員が、大きな鉈を持ったゴブリンらしき生き物に、頭をかち割られていたのだ。


 体育館の中で先崎先生や、逃げようとした生徒が殺されたときにも感じた。

 生命の、“軽さ”を。



 その光景を目の当たりにして、彼女はしばらく放心していた。


 そんな彼女たちにも目指すべき“指標”ができる。


『てめーらよく聞きやがれぇえええあああああああああああああ!!!』


 校内放送で流される、絶叫によって。


『今からてめーらは高等部の屋上へ向かえ! その間に先生たちが死ぬ気で時間を稼ぐから、死なない程度に死ぬ気で生きろ! あたしが絶対に守ってやるから、てめーらも死ぬんじゃねぇぞ!!』



 中等科の熱血教師の一人であるしのぶが、校内放送を使って、全校生徒を高等科の屋上に行くように指示したのだ。

 力強い鼓舞とともに、学校中の生徒たちは蜂の巣を突いたような騒ぎとなるのは必然と言えた。


 ここにいてもあの化け物みたいなのに殺されるだけだ。

 ならば、とにかく大人が言っていることに従って、上に逃げなければ!!


 背中が泡立ち、居てもたってもいられなくなって、とにかく逃げようと立ち上がった。


 だが、絶体絶命の場で、助かる見込みがないこの状況。

 己の命を最優先にする、利己的な考えの人間が目指すべき指標を得たことにより、“それ”はより顕著に表れることになる。


 友達だと思っていた女の子は、自らが助かろうと、自分を押しのけて我先にと教室から飛び出し、それについていこうとしたところ、自分に好意を寄せていたはずの男子が周囲や自分に対して暴力を振るって我先にと逃げ出した。


 結局のところはこうなのだ。


 緊急時になったら、味方を見限って、自己中心的な考えに基づき、己だけが助かる道を目指す。


 さらに


「どうせこんなことになったらもうおしまいだ! どうせみんな死ぬんだ!! くそお!!!」


「ヤダ、暴れないで―――あガッ!!」


 突き飛ばされて逃げ遅れた奈々に対し、ヤケを起こした男子生徒の一人が拳を振り上げて奈々の鳩尾にむかって拳を突き入れる

 その突然の行動に、奈々は理解ができなかった


 したく、なかった。



「ど、どうせ死ぬんなら最後くらい、いい思いしたっていいよな! なあ!」



 奈々と同じように逃げ遅れた男子生徒の一人が、腹を押さえてえずいている奈々のシャツのボタンを力任せに引きちぎり、ブラの上から力任せに胸を揉まれた


「やめ、やめて!!」


 あまりの嫌悪感に全身の毛穴という毛穴が浮き、鳥肌が立つ。

 ヤケを起こした男子生徒から逃げようと、抵抗を試みるも


「くそっ! 動いてんじゃねーよ!!」


「あぅ! ぐっ! や………!!」



 殴る蹴る等の暴行が入るのだ。暴力を受けるたびに、脆い彼女の身体からは、バキ、ビキッ! と骨の悲鳴が聞こえる。

 彼らはそれでもお構いなしに奈々を殴った。


 彼らだって追い詰められている。追い詰められた人間は、やけを起こし、利己的に行動し、己の欲求を満たすため、恐怖をごまかそうとするのだ。



「へはは、坂本のおっぱい、やーぁらけー!」

「おい、俺もまぜろ」

「俺も一度は顔をうずめてみたかったんだよな!」

「じゃあ腕押さえててくれよ」

「最後の最後なんだ、いい思いしたいもんな!」



 その状況を見た男子生徒の一部が、この状況を好機とみてそれに便乗する


「やだ、助けて!」


 教室から逃げようとする女生徒たちも、痛ましそうに彼女を見ながら、ごめんとつぶやき、己の安全を優先して、自分を見捨てて教室から去ってしまう



 奈々の胸を揉んだ男子生徒は、カチャカチャとベルトを外してズボンを下ろし、猛々しくそびえるソレを出す。



「いや、やめて、やめて!! いやあああああ!!!!」



 そして、奈々のスカートに手を伸ばす

 抵抗しようにも、腕は拘束され、腰をひねっても、ふくよかな胸が煽情的に揺れるだけであった


「暴れんな、このっ!」

「あグぅ!!」



 また、顔を殴られた


「や、や―――!!」

「邪魔だ!」

「ああぁああっっっ!」


 振り払おうとしたら、その腕を箒の柄で殴られ

 グチャッ! と肉の中で骨が潰れるような、人体からは鳴ってはいけない音を出す。


 なんなのだ。


 なんなのだ、この状況は!


 わたしが一体何をした


 なぜ、こんなにも惨めな思いをしないといけないのだ


 服を剥かれ、人に見捨てられ、絶望の中、犯され、最後には化け物に殺される


 まだ、自分は何も成していない。


 こんなモブ共ではなく、生徒会長である聖勇気のような、まるで王子様がこの世にあらわれたとしか言いようのない、完璧な男と付き合いたかった。

 まだ見ぬ彼氏と一緒に買い物に行きたかった。

 デートにも行きたかった。


 そして、雪の降る聖夜には街のイルミネーションを鑑賞した後に二人でラブホテルにでも泊まってしけこみたかった。


 もちろん、そんな理想が現実に起こることはありえないだろう。

 理想が高すぎて、彼女はずっと処女のまま彼氏の一人もいないのだから。



「離して! 離せええええええええ!!!」




 悪夢なら覚めてくれ。

 そう願わずにはいられない。


 夢は叶わず、絶望の中に散ることになる。


 まごうこと無き現実が、奈々の目の前に広がっていたのだ


 涙で視界が歪む。拭うこともできずに、頬を伝う。

 肉棒に貫かれ、犯され殺される未来に絶望し、非力な彼女は次第に抵抗も弱くなる


 こんなところを助けてくれるヒーローなどはいない。


 あるのは絶望だけ。


 その事実だけが、彼女の胸を締め付けていた。



「おい、うしろ―――!」

「あ? なに言っろろろん?」


 突如、奈々の足を開かせようとしていた男子生徒の首がおかしな方向に捻じ曲がる


 力を無くしてどちゃりと地面に崩れる男子生徒。


 ありえない方向に曲がった首。


 その、生徒の後ろにいたのは―――


「ひっ………! ああああああああああああ!!!!!」



 豚の姿をした、化け物。


 大きな棍棒を片手で振り回し、戯れで男子生徒の首をへし折ったのだ


 さすがの生徒たちも、目の前の脅威には、欲望よりも逃亡が優先される。


 なんとか脇を抜けてドアから外に出ようと試みるが、豚の化け物はそのでっぷりした巨体からは考えられないほどの俊敏さで、脇を抜ける生徒たちの先に回り込み、その凶器を振り回して3人もの生徒を殴り殺した


「ブゥーゥ」


 そして、ニタァ、とよだれを垂らしながら奈々を卑下する化け物


 獲物を見つけたと言わんばかりに、ひどく嗜虐的な笑みを浮かべ、いたぶる気満々の表情でのしのしと、歩いてくる


 あんまりだ。


 あんまりだ!


 この世に救いなど無かった


 ヒーローも居ないし都合よく助けてくれる王子様もいない。

 このまま見逃してもらえるとも思えない。絶望の先に広がる、さらなる絶望。


「いや、いや!」


 いやいやと首を振りながらズリズリと後退し、窓際に背をつける奈々。


 それを見て、さらにニタリと嗤いながら棍棒を置いて近寄る豚の化け物


 殺されてしまった彼らと同じ結末になるだろう

 こうなってしまえば、いつ死んでも同じだった。



「ブガガブブガブ」


 追い詰められた奈々の制服を、男子生徒とは比べ物にならないほどの力で掴み上げ、力任せに破られる

 抵抗する間もなく、スカートも破られ、邪魔だとばかりにショーツにも手をかけて引き裂かれる


 豚の化け物が引き裂かれた制服から手を放すと、奈々ペタリとしゃがみ、その恐怖に、股から太ももにかけて、暖かい液体に濡れていくのがわかる


 とはいえ、恐怖に動くこともできず、思考も停止していた


 よだれを垂らしながら、豚の化け物は奈々の肩を掴んで押し倒す

 ガンッ! と頭を強く打ち付け、明滅する視界とともに、漸く思考が回復しだす


 しかし、思考力が回復してきたところで、この現状を抜け出すすべがあるわけではない。


 現に、逃げようとした生徒たちは殺された。


 もう、殺されるだけだ。

 楽に殺してくれることを祈るばっかりだ。


 そう思っていたら、豚の化け物は、己に巻いていた腰布をズラす。


 そこに会ったのは、男子生徒のソレよりも、棍棒よりも凶悪な兵器。

 猛々しく反り立つそれを奈々に当てがい、突き入れようとしているのだ



「ま、まって、そんなの、はいんないよ、し、死んじゃうよ………!」


「ブじゅじゅブュヒヒ」


 よだれをまき散らしながら、豚の化け物は愉悦の表情を浮かべる。

 奈々の抵抗もむなしく、いきり立つソレは無情にも奈々の中に侵入しようとしていた



「いやあああ!!! 誰か、助けて!!!」


 絶望の中、助かる見込みを求めて奈々は叫んだ。

 死ぬにしても、こんな死に方はあんまりだ。


 こんなことなら、モブに犯されていた方がマシかもしれない

 あんな化け物に処女を散らされて、そして殺されるよりははるかにマシだ。



―――誰でもいい、助けてくれたらわたしを好きにしてもいい! だから、誰か助けて!! 


 はたして奈々の願いは

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