第10話 高等部ー聖勇気【勇者】
「あーもう、うざったいわぁ」
岡田修はゴブリンの頭をどかしながら廊下を進む
「おい、殺さないのか?」
「面倒くさいやん。経験値も少ないし、なにより汚れとうないねん」
「それもそうだな。」
保健室から出てしばらく進むと、校舎内にゴブリンや角兎が侵入してきていたのだ
それを適当にいなしながら廊下を歩く。
周りには箒を持って迎撃したり逃げ惑ったりと忙しなく動く生徒たちが移る。
彼らは素手でゴブリンを面倒くさそうに押しのける修とフユルギに驚愕の目を向けるが、本人たちは意に介した様子はない。
レベルマックスである以上、レベルの低いゴブリンを殺したところでたいした経験値は望めない。
特に急いでいるわけでもないため料理人のレベルをあげる必要性もない。
ゆえに、ゴブリンを殺すことは無かった。
それがたとえ、他の人たちに牙をむくとしても。
「もう学校に侵入してきてるってことは、消防隊の人たちはゴブリンを押さえきることはできんかったっちゅうことでっしゃろ」
「そうなるな。」
「ほな、生徒会長さんを早いとこ探し出してみんなの混乱を押さえさせてもらいましょか」
「だな。たしかおっちゃんを連れてきてもらうために俺が送り出したから、3年3組に居るんじゃないか? まだゴブリン達は1,2階をうろうろしているみたいだし、まだ数も少ない。三年の教室はとくに問題ないだろう。」
フユルギは【千里眼】スキルで三年の教室を観察した結果、まだ三年生の被害は出ていないことが判明した。
ならばよしとおっちゃんは三年の教室へと向かうことにする
「フユルギたん。生徒会長さんの居場所はわからんのん?」
「ちょっと待ってろ………やっぱり3年3組に居るみたいだ。早いとこあの
こうして、二人はゴブリンを適当に押しのけながら三年の教室へと向けて歩き出した。
三階に到着すると、フユルギの言うとおり、ゴブリンの姿は見当たらなかった
1,2階に比べると比較的に混乱は少なかったようだ。
ただ、1,2年生は上へ上へと逃げているため、廊下は少し騒がしい。
「勇気様! この教室に何の用だったのですか?」
大野紗枝が聖勇気の側により、廊下の雰囲気とはまるでかち合わないセリフを吐く
廊下には1,2年生の生徒が慌ただしく駆けているため、この教室の雰囲気だけが教室の外とかけ離れていた
「いや、だから人を探しに………」
「まぁ! どなたでしょう。私がすぐに連れてきて差し上げますわ!」
大野紗枝が大見得を切って頷くのを、岡田修は冷めた瞳で見つめた
「なぁ、ああいうのを雌豚っていうのか?」
「なまじ顔だけはええからなぁ。人望もあるし、おっちゃんの無い人望ではどうにもならん。しかし雌豚であることはおっちゃんには否定できん。」
そんな紗枝を、フユルギは指さして雌豚呼ばわりする。
げんなりする修を見て、フユルギは鼻を鳴らして紗枝を視界から削除した。
「ふーん。まぁ、俺は女には興味ないけどな。見飽きたし。」
「フユルギたんは男の顎鬚と筋肉さえあればええんとちゃう?」
「当たり前だ。俺は素敵な顎鬚の筋肉おじさんに出会うために生まれてきた。」
(当たり前なんや………)
フユルギのセリフに冷や汗を流しながら修は成り行きに任せることにした
すでにフユルギは幾多の女性を食ってきたモテモテ野郎。女の方から寄ってくる。
だからかな。悲しいことに彼は女性には慣れて、慣れ切ってしまったのだ。
飽きてしまい―――バイセクシャルになるほどに。
「それはそれとして、おーい、ハゲ―!」
フユルギが勇気を呼ぶと、勇気は驚いた様子で振り返った
「あ、大山! 動いても大丈夫なのかい!? それと俺はハゲてない!」
「ん、治った。」
「治ったって………あ、そうだ、キミが探していた人が見当たらないんだが………」
「ああ? すれ違ったんだろ。もうこっちで勝手に見つけたから大丈夫だ。それよりも、お前ちょっとこっち来い。」
イケメン同士の邂逅に、教室の中の女性陣が色めき立つが、努めてそれらを無視しつつ廊下に出る。
フユルギが勇気を教室から呼び出し、フユルギの容体を詳しくは知らない勇気は治ったとほざくフユルギをいったんスルーし廊下で待機していた修を見ると、「キミのことだったのか………」とほっとしたため息を吐いた
「とりあえず、状況を説明したいんだけど、今ここの廊下を1,2年が走っているように、1階はパニック状態だ。理由は、まぁ、校庭を見ればわかるだろうが消防隊が殺されて校舎に角兎とゴブリンらしき生物が侵入してきているってことだ。」
「な!!?」
生徒たちに囲まれていたせいで状況の確認をできていなかったらしい勇気は驚愕に目を見開く
「そこで、俺とおっちゃんはそのゴブリンの一匹をぶっ殺してみたわけだが、スマホにこういう異変が起きた」
スッとフユルギがスマホを手渡す。
そこには
名前:【
種族:
性別:男
天職:【鑑定士】 Lv.1
HP: 110/110
MP: 110/110
攻撃: 15
防御: 15
素早さ: 15
知力: 15
器用: 15
ジョブスキル:‐‐
獲得可能職業スキル:【鑑定(1)】【鉱石鑑定(1)】【ステータス鑑定(2)】
獲得可能スキル:【ヤンキック(1)】【フック(1)】
ジョブスキルポイント:5
「な、なんだ、これ?」
「ここは、なんつーかゲームみたいな世界なんだよ。魔物を殺せば経験値が手に入ってレベルが上がって強くなる。
お前も一度試してみるといい。ここに向かって来る途中、何人もの生徒がスマホとにらめっこしていた。おそらく生きるためにゴブリンやウサギを殺した生徒だろう。そいつらも同じようにスマホに異常が起きているはずだ。
コレが本当だって証明できれば、この学校の生徒を守ることができるかもしれないだろ。
俺たちが言ったところで信憑性がないからな。生徒会長であるお前が生徒たちに説明してやれ。」
「こんなことが、信じられるわけが………」
「だからやってみろっつってんだろ。」
信じられないものを見た表情の勇気に頭を掻きながら適当に返すフユルギ。
別に学校の生徒が死のうがどうでもいいのは、修と同じであった。
信じようが信じまいが、とりあえず伝えることが大事なのだから。
「あと………ここのアイテム一覧には初期武器が入っている。有効に使え。」
フユルギがスマホを操作すると、虚空に【虫眼鏡】が出現した。
「なっ!? どこから!」
「知らん。おそらくだが、この天職っていうのにあったアイテムが入っているらしい。そこのおっちゃんの場合は職業が【霊媒師】で武器が【御札】だった。これでも信じないってんだったら、お前の脳みそがアッパラパーだったってだけだ。」
フユルギの言葉に合わせて、修は御札をスマホから召喚して人差し指と中指に挟み、ピラピラとはためかせる。
実際は初っ端から藁人形と五寸釘という武器だったが、それを知らせる必要はない。
「それは………だれでもできるのかい?」
勇気が遠慮気味にそう言うと
「さぁな。俺たちは出来た。お前らができるかどうかは知らん。だからやってみろって言ってんだろうが! 二度言わせるな、俺は壊れたラジオか!」
「まぁまぁ、落ち着っきゃんフユルギたん。あとは生徒会長さんが信じるかどうかやん。言うべきことはもう言うたし、もうええんとちゃう?」
なかなかにフユルギはイライラしているようだ。
説明するのが面倒くさいらしい。無意識に語彙が荒くなっているフユルギを修が宥めた
「………わかった。とりあえず………機会があったら、やってみるよ」
「機会があったら、ねえ」
半信半疑な勇気のそのセリフがフラグとなったのか
「うわあああああああああ!! こっちに来た!」
「助けてぇ―――――!!!」
「ギギィギヒィ!」
「グヘッグキギギギ」
二匹のゴブリンと生徒たちが三階に駆け上がってきた
「お前、フラグ建てるの上手いのな」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろう!?」
ゴブリンから逃げるために慌てていたのか、女子生徒の一人が足をもつれさせて転んでしまった
「ひっ!」
「ギヒヒヒッグゲッ!」
獲物を嬲り殺すことに快楽を覚えているのだろうか、女生徒の上にまたがったゴブリンのその醜悪な顔は不気味に歪んだ
槍を持ったゴブリンが、その生徒を突き殺そうと槍を振り上げ―――
「おい、行けよ」
「っ!!!」
フユルギのセリフで我に返った勇気は、その女子生徒の方へと向かって駆け出した。
「た、たすけ………」
女生徒が絶望の表情でこちらに助けを求めた
フユルギと修の二人は、その状況を見ても何も感じることは無く、勇気に成り行きを任せることにしていた。
相変わらず、冷めた二人である。
ゴブリンが振り上げた槍を女生徒に突き刺そうとしたその時
「やめろぉおおおおおおおおおお!!!!」
「ギギィ!!?」
勇気は力の限りゴブリンに体当たりをかまし、女生徒の上にまたがったゴブリンをどかすことができた
その影響か、ゴブリンと勇気は二人でもみくちゃになりながら廊下を転がった
「あ、ありが………」
「いいから! 早く逃げるんだ!!」
結局女生徒は、何一つ最後まで言い切ることができぬまま、屋上へと向かって駆け出した
ここで、三年三組の生徒たちも何事かと廊下に顔を出した。
そこにはゴブリンともみくちゃになって倒れる勇気の姿。
「勇気様―――!!」
「大丈夫ですか!?」
「こっちに来てはダメだ!!」
素早く立ち上がった勇気が生徒たちに注意を促す
「ええからはよトドメささんかい」
ポツリとつぶやく修の一言。容赦がない。
「ギギィ、グヘッ」
ゴブリンも体勢を立て直して槍を構えた。
ほらグダグダやってるから………と呆れたため息を漏らす。
「おい、おっちゃん。アレ。」
「んぁ? ああ、アレやな。了解ちゃん。」
フユルギに顎でなにやら指図され、修はその場から静かに移動する。
「ギキィ! グヘッギギジュギヒィ」
「くっ!」
その間にも状況は動いていた。
ゴブリンが突きだした槍を辛うじて避けた勇気は、手を伸ばしてその槍を掴みとる。
槍を奪おうと思ったのか、思い切り引っ張るがゴブリンは140cmほどと小柄な体躯でありながらもその内側に秘めた筋力は意外に強く、簡単に奪えるようなものではなかった
ゴブリンと勇気の筋力はほぼ均衡していた
それでも、体格差のおかげか
「らあああああああああ!!」
勇気は自分の胸ほどまでしかないゴブリンの腹を蹴飛ばしながら槍を放り捨てた
「ちっ、槍すててどうするんだよ、テメェ素手で相手を殺す気か!? ああ?」
それに対してフユルギのコメントは辛辣だった。
「ご、ごめ………」
「ええねんええねん。フユルギたんもそげんことわかっとんねん。せやからおっちゃんがコレ持ってきたった。ホレ、使いなはれや」
そういって修が用意周到に持ってきたのは、消火器。先ほどフユルギが顎で指し示したものだ。
消火器は重量のある金属製の鈍器である。
消火器を手渡すついでに、蹴飛ばされてうつ伏せに倒れるゴブリンの背中を踏んづけて勇気が攻撃しやすいように押さえるのも忘れない。。
「コレで一発ドカンとやったれ!」
「わ、わかった!」
勇気は渡された鈍器を振りかぶって―――叩きつけた
グジュッ という脳漿がぶちまけられる音。
それに伴い、その光景を目にした周囲の人間にも強烈な吐き気が襲う
「まだ終わっとらんで。」
修がそう呟く。胃の物をぶちまけている暇はない。三階に上がってきていたゴブリンは、2匹居たのだから。
修は伊達にヘビーな人生を歩んではいない。吐き気を催すこともなく、油断をすることもない。
修は踏んづけていた脳漿をぶちまけられたゴブリンを蹴飛ばして脇にどかす。
こちらに向かって杖を振り上げるゴブリンは口元で何かをごにょごにょと呟くと、杖から火球が跳び出してきた
【ゴブリンシャーマン】
ゴブリンは馬鹿ばっかだけど思っているより筋力が強い!
馬鹿なのは変わりないけどゴブリンシャーマンはゴブリンの中でも知恵の発達した種類。
初級魔法を使うことができる。
思いのほか筋力が強いので気を付けよう!(二度目)
「うわぁ、シャーマンやった………めんどくさ」
修は火球を、メガネを押さえながらしゃがんで避けると、火球はその後ろにいた勇気の方へと向かったが
「うわぁ!?」
勇気も持ち前の反射神経で華麗に避ける。
火球は壁に当たり、炎はすぐに霧散した。
ゴブリンが魔法を使ったことに対して周囲から悲鳴が上がり、教室の奥から状況を観察していたものの、その状況から上の階に逃げようとする生徒が続出する
その様子を立ち上がりながら見回す修は、これはもう人望の厚い聖勇気にステータスのことを説明してもらうのはあきらめた方がええんやろか、と考えた。
せっかく一匹倒したのに、周りが逃げ惑っていたら話を聞いてくれるとも限らんしなぁ。
はぁーあ。
「めんどいめんどいめんどい。フユルギたん、どげんかして!」
「めんどい。」
「せやろな!」
助けを求めた修だったが、ポケットに手を突っ込んでいるフユルギに一蹴される。
なにがめんどいかって、それは実力を隠したままゴブリンを倒さないといけないことだ。
「生徒会長さん。おっちゃん運動音痴やし足手まといやろうけど、一応あいつの足止めするんで、その間にスマホを確認してくいやん」
「そんな! 俺がするよ!」
「ええからはよしろ。おっちゃん意外と気が短いねんで!」
首の骨をコキコキと鳴らした修は、丸めた背中でファイティングポーズをし、かなり情けなそうな姿だが、そこに恐怖の色がない。
小柄な体をのしのしと揺らしながら修に向かって走るゴブリン。
そこかしこから悲鳴が聞こえ、己のクラスからは嘲笑の声が聞こえる
「あのキモメガネ! 勇気様になんて命令口調を!」
「ギャハハハ!! なにかっこつけてんのあいつ! マジウケるんですけどwwwwww」
「ていうか修、まだ教室の近くに居たのかよwwwwww」
「まだ死んでなかったのかwww 傑www作wwwwww」
修にすればいつもの事やと適当に流していたことだが、目の前にいるのは生徒会長である
「いい加減にしないかキミたち!! 学友が必死に時間を稼ごうとしているんだ! なぜ君たちはそんな状況でそんなことが言えるんだ!!」
持ち前の正義感が前面に出てしまい、その嘲笑を止めるために動いていた
「ハァ? 傑作なものを笑って何が悪いんだよ、バァーカ!」
「今のは違うのです勇気様! あのキモメガ――岡田くんが生徒会長である勇気様に命令口調など―――」
勇気の糾弾に各々言いたい放題の3年3組。
女子たちはこぞって言い訳を始める。
いやいや、かばってくれるのは嬉しいねんけどはよスマホ確認しいや。
そのためにこっちはがんばっとんねん
それにあんたら見てるだけで助ける気も逃げる気もないんかい。
と修すら勇気やクラスメイトに対して青筋を浮かべていた
ふと周りを見ると、唯一樋口ドラムが心配そうにこちらを見ていることに気付いてすこしだけほっこりした修は―――だらりと拳を構えた。
「ギヘッ」
「きもい」
ニタニタと嗤うそのゴブリンが、杖を振りかぶって修に対して殴り掛かった
怯えてさえいなければ大して早い攻撃ではないため、バックステップで下がるだけで攻撃をかわしていく。
杖を振り下ろされても下がる。横に振られても下がる。
武道家のような器用な足運びなどできないのだ。当然である
「うわ! こっちにくるな馬鹿!」
「あっちに行ってよ!!」
「キャアアアアアアア!!!」
せめてもの仕返しとばかりに、避けながらクラスメイトの方へと向かった。
「こっちもいつまでも避け続けられるわけやあらへんで。みんなが遠巻きに見とるからいいものの、はよ確認しろ」
「う、うん!!」
勇気が振動するスマホを取り出して驚愕に目を見開く。
勇気のスマホが振動していたことに、周りのみんなも驚愕の表情をする。
こりゃ説明の手間が省けたかな、とフユルギと修が思っていると
―――ガッ
「あ、やば………」
「岡田―――――!!」
修はバックステップの最中に足を引っ掛けて転んでしまった
誰かに嵌められたわけではない。
もともとの運動音痴が災いした結果だ。
修の運動能力は低くはない。むしろ高い方だ。ボランティア部の副部長と同時に、バドミントン部の副部長も務めるほどだ。
だが、彼は体の動かし方が下手で、致命的に身体が硬かった。
柔軟が足りないのかもしれない。
異常を察知したらしい樋口ドラムが修の危機に透き通った声を張り上げる
「ゲゲギャッ グヒッ、グヒヒっ」
ニタリと嗤うゴブリンは、杖の先端から赤い輝きを放ち、修に向けて振り上げた
その間も、勇気は慌てたようにスマホを高速で操作する。
修が危機的状況なのはわかる。
だが、それを打破するためにも、最善なのはフユルギに教えられた初期武器とやらを出すことだと判断したためだ。
「あかん………準備運動しとくんやった………」
特に恐怖心はないが修は自分自身に呆れたため息をもらし、周囲の生徒は再び火球が現れて修を焼き尽くすのではないかと目を塞いだ
「で、でた! っ! やめろォオオオオオオオオオオ!!!」
―――ザシュゥ!!
修はいかに無様に転がって火球を避けるのかを考えていたところ、勇気が瞬時にゴブリンの目の前に現れ
光り輝く剣を振りぬいていた
―――ドサリ
見れば、ゴブリンの上半身と下半身は斜めにお別れしており、周りの人たちは息をのんでその光景に見入っていた
勇気の勇士を見届けた皆の時は止まっていた。
ずるりとズレたゴブリンの半身を見やり、勇気の持つ剣を見やり、その非常識な光景ででありながらさも当然のように血糊を振り落す姿は、英雄の姿だった
「お、岡田! 無事よね!?」
「んぁ? ああ、ドム子さん。おっちゃんは無傷やで、おかげさんで」
止まった時の中で最初に動いたのが樋口ドラムであった。
彼女は先ほどまでゴブリンに襲われていた修の元に向かって走り寄る
「よかった………ってドム子言うな! よかった、あんたが死ななくて………死んじゃってたらあたし………」
「おっちゃんが死んだらなんや?」
あからさまにホッとした息を吐いたドラムに修はややいぶかしげな表情だ。
ここまでわかりやすい反応をしているにもかかわらず、修の人間不信の部分が刺激され変な勘違いをしてしまう。
なんや、おっちゃんが死んでたらなんかあるんか?
せや、悪霊に取りつかれたら無料成敗できなくなるからやな。
おっちゃん師匠みたいな詐欺師やないし、良心的やから仕事外ではそげんお金は取らんよ~
ドム子さんならせめてお友達料金の半額くらいでうけおったるわ
などとてんで的外れな方向に終着した。
「い、いや! なんでもないの!」
ぷいっとドラムはそっぽを向いた。それに伴い、周囲の人間の時も動き始めた
周りに居る人たちはその様子を見て、『なぜキモメガネがドラムさんと話しているんだ』『死ね、ドラムさんとしゃべんなカス!』『キモイ』
と射殺さんばかりの視線を浴びせているため、内心では修はかなりビビッている。
「立てる? ほら、捕まって!」
「ん、ありがとさん」
ドラムの柔らかな手を借りて立ち上がると、ドラムは修の背中の埃を払った
「いやんドム子さんボクのおしりさわった、えっちー」
「いいからそうゆーの! はい、ちょっと血が付いちゃってるけどしかたないよね。」
上半身と下半身がお別れしたゴブリンの体液が少々付着していたのしかたないとして諦めることにした修は、ドラムを茶化しながら距離を取る。
やはり少し女性も含め、人間が信じられないのだ。
それに、いつまでも彼女のそばにいると嫉妬の念が暴力という形で現実になりそうなので早々に離れる必要があった
「そんで、なにがおこったん? あ、生徒会長さん初期武器だしたんやね。おめでとう」
「ああ。間に合ってよかったよ………」
「ちっ」
生徒会長の近くまで歩み寄った修が称賛の声をあげ、フユルギは舌打ちをした。
なんだとおもって修はひょいと勇気の手元を確認すると―――
「おろ? あれって………【神剣・オートクレール】じゃね?」
「天職【勇者】だな。あーあ。萎えた萎えた。行こうぜおっちゃん。おいハゲ、せっかく武器が手に入ったんだ。しっかり学校を守ってくれよ。後の説明は任せた」
「あ、おい! 待ってくれ! あと俺はハゲてない!」
「くどい! なんでもかんでも教えてもらえるなんて思うなよ? 俺は面倒くさがりなんでな」
フユルギは勇気に背を向けて歩き出した。
その背中には『もう話しかけるな』と書いてあるようで、勇気もその背中に声を掛けることは出来なかった
「ほな、おっちゃんももう行くわ。生徒会長さん。1,2階はすでにゴブリンだらけやで。みんなに説明してから救済に向かってくいやん。こっちはこっちですることあるから。」
「あ、岡田! あんた、何か知って―――むぎゅう!?」
引き留めようとするドラムが口を滑らせるのを修は寸前で気づき、口をふさいで止めさせる
ドラムの耳元に口を寄せ、小声でささやいた。
(………なんか知っとるけど、なーんも知られとうないねん。)
目を細めながらささやく修に、顔を赤くしながらコクコクと頷くドラム。
そんな彼女の心の中では大変なことになっていた
(お、岡田の息が、耳にかかってゾクゾクするー! うひゃああああ!!?)
そんな彼女の内心などつゆ知らず、ドラムが頷いたことに満足して、修はドラムから手を放す。
「―――ぷはっ! な、なんか嫉妬とかしちゃってんのー? ていうか手を離しなさいよ!」
「嫉妬なんかしてへんよ!? 何言うてはるのん、意味わからんわ!」
その瞬間、周囲から殺気が膨れ上がったことに気付いているが、背に腹は代えられない。
空気を読んですぐにセリフを変えるドラム。アイドルのわりにアドリブに弱かったらしく、セリフのつながりが弱かった。
修はすぐさま手を離してフユルギを追うようにその場を逃げ出した
「ほなな、おっちゃんは『ボランティア部』の部室におるから、用があるならそこに
フユルギは社交的であるが、意外と強面であり、周囲の人は無意識に道を開ける
その様子はまるでモーゼのよう。
修はひょこひょことその後ろに付き周囲の視線をフユルギの威圧感を借りて霧散させる
フユルギの後に続いて階段を下りる修。そんな二人を生徒たちは不思議そうに眺めていた。
「………虎の威を借る狐め」
ポツリと呟いたとある不良生徒の声が、喧騒に溶けて消えた
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