第5話 中等部ー井上智香【怪力乱神】




 井上智香いのうえちかは、中等部2年生で低身長の寡黙な少女だ。


 彼女は親がいない。

 兄弟も居ない。

 ゆえに、家も、ない。


 学園の寮に住み、バイトをこなして学費を稼ぎながら学校生活を送っていた。


 保護者のいない彼女を受け入れてくれたのは、この学校だけであったのだ。


(………退屈)


 しかし、彼女は孤独だった。


 怪力の悪魔

 そんなあだ名が広まったのはいつの頃だったか。


 彼女は無意識のうちに力を込めすぎて物を握りつぶしてしまうという厄介な体質を持っていた


 集中していれば手先は器用に動く。

 目を瞑ったままモナリザだって描ける。


 ただ、油断しているとペンを握りつぶしてしまう。



(………ほんとう、なんなんだろう。この能力ちから




 世話を焼いてくれる友人もいるが、自分が迷惑をかけてしまってはいけないと、自分からその友人から離れた。


 寡黙ではあるが、人づきあいはよく、人当たりもいい優しい彼女は、しかしながら必要以上に人と仲良くなろうとは思わなかった。



 彼女は校舎裏の自転車置き場の屋根に飛び乗ると、そこからさらに学校の屋上に飛び乗り、そこで終業式を適当にバックレていた

 もちろん、彼女以外の生徒にはそんなことは出来ない。


 なにせ自転車置き場の屋根まで2.5m。そこから4階建ての屋上までは20mはあった。

 それを一っ跳びで飛び乗ったのだ。



(………わたし、人間じゃないのかな。)



 人間が跳べる高さではない。

 それを悠々と苦にも思わずにやってのけられる自分自身に、少なからず恐怖を覚える



 屋上のフェンスに体を預けると、『シャン………』という金属が擦れる音が聞こえてきて心を落ち着かせる


 体育館の方をチラリと見ると、校舎の屋上まで校長先生の長話が聞こえてきた



 そういえば、と考えを巡らせる。


 この学校には結構、『変わった人』がいるという噂を聞く。


 どういう風に『変わった人』なのかは知らないけど、わたしみたいな人なのかな。

 ………そういや昔、変な人に会ったことがある


 たしか、異様に動物に好かれる女の子みたいに小さい人と、自称霊能力者である褐色の肌に黒縁メガネの人だ。



………

……




 いつだったかな。たしかわたしがまだ初等部に居た頃かもしれない。

 あの時は道端で野良猫をくすぐっていたら、急に野良猫が走りだしてしまって―――


『ふぼわ! たす、たすー!』


―――という意味不明な叫び声をあげる“巨大な毛玉の塊”にむかって先ほどまで自分が撫でていた猫が突進をしていたんだった。


 何処の世界にも動物に好かれる人間は居る。

 メガネの人の隣の毛玉は、その究極系だったのかもしれない。


 キツネやタヌキどころか、猿、猫、犬、鷲、どこから現れたのかパンダまでがメガネの人の隣の人に抱き着いていた。

 それで、毛玉を形作っていたのだ。



 ………なにあれ


 と思うのは当然のことだ。


 メガネの人は『またかいな。みくるちゃん、今助けちゃる』といって抱き着いているコアラを毛玉から引っぺがしていた。

 毛玉の中からは『もふー! もふー! もふしんでもひぃ!』などと聞こえる。


 動物に好かれている毛玉からも、その隣のメガネの人からも、なぜか自分と似たような気配を感じた


 さらにどこから来たのか、牛と馬とバイソンとヌーの群れが走ってきたのを察知したわたしは、巻き込まれたくないからそそくさとその場を後にしたけど。




……

………




(………あの人たち、わたしとおなじ、なのかな)




 学校が広いから会う機会は無いけれど、もう一度会いたいなぁ。

 智香がそう考えた、その時



(………ん?)



 体育館から悲鳴が聞こえてきた


 さらには体育館の出入口には火が立ち上っている



(………わお。中で何が起こってるのかめちゃくちゃ気になる。花火大会でもしているのかな)



 物陰に潜みつつ体育館の中の様子をうかがうと、パニックに陥っている様子だった。

 それはそうだろう。出入口に火が出ているのだから。


 故に、生徒たちは火のせいで体育館から出ることもできないのだ。


(………これは、終業式をバックレてて正解だったかも。)



 彼女は人の心配ではなく、まず最初に自分の安全に安堵した。


 とりあえず、状況が状況だ。警察と消防に電話でもしようかな――――っとわたし携帯もってないや。ここ屋上だし公衆電話も無い。あったとしてもお金がない。最悪ね


(………しょーがない。体育館の中はあきらめよう。)


 緊急時には赤いボタンを押して110番を押せばつながらないこともないことは、すでに思考から外れていた。


 フェンスの陰に潜みながら体育館の中を観察する


 体育館の中は意外と落ち着き始めていた

 なるほど、体育館の中には火は回っていないのか。


 炎を突っ切ってでも逃げ出そうとしないのは、渡り廊下を渡りきるまでに確実に焼死するからであろう。


 中が落ち着いているならば、警察や消防への通報も済んでいるかも。


 だったらわたしがこれ以上何かをする必要もないだろう


―――




 時間が経つにつれ、なんか大事になってきた


 それに、炎は燃え移ったりせずにその場でごうごうと音をたて続ける



 おかしいな。さすがに燃え広がってもいいはずなのに。

 超能力? 魔法?

 おお、ロマンがあるわね



 智香は若干興奮気味に体育館を眺める。

 ここから体育館に突入するなどという愚かしい行動はとらない。


 警察も到着した。消防も到着した。

 なら、自分が出ていく幕ではないのだ。


 消防が水を撒いているけど、なにを燃料に燃やしているのやら、火は鎮火する様子を見せない。

 消防、馬鹿でしょあなたたち。

 水を放射するんじゃなくて霧状に散布するんだよ! そしたら結合する酸素の反応が遅れるはずなんだから!

 灯油とかガソリンが引火して燃えている場合はそっちの方がいいのよ。


 なんでそれに気づかないかなぁ。


 気づいていてもできないのかな。ホースの設計上そうなのかもしれないわね

 残念。


 などと心の中で独り言ちながら屋上から体育館を観察する。



―――バタバタバタバタ!


 ふと見上げると、遠い空にヘリコプターが見えた


 このタイミングでのヘリはおそらく報道だろう。

 テレビは勘弁。サボタージュしている姿を映すわけにはいかない。と智香は屋上の出入口付近の陰に身を潜めた


 物陰から手鏡を出して様子を見守る



 間違ってもあのヘリは上空から水を撒くためのものではないだろう


―――抵抗をやめておとなしく―――



 警察の人が拡声器で呼びかける。

 なんだなんだ。

 あの火はやっぱり放火なのか?


 そんで、教師と生徒と一緒に体育館に立てこもっているのか?


 要求はなんだ。

 お金かな。

 お金なのかな。


 ひゃくおくまんえんかな。



 動機はつい出来心かな。



 wktk、wktk


 どうなる学校。

 というかいま、どういう状況なの、学校。



 声には出さず、非日常的な光景に心を躍らせる智香。

 彼女は多感な中学二年生。身長が低く、未だに小学生に間違われることも多いが、立派に中二病を併発していたようだ。



(………ん? なにこれ)




 早くこのカオスな状況が終わってくれないかな、とちょっと興奮気味に思っていると、足元に幾何学模様の魔方陣が広がってきた






 Whatほわっと


 なんぞこれ。


 なんぞこれー!



 そう思って首を捻った瞬間



(わ、ひかった!)



 魔法陣は淡い光を発する。

 淡い光はいつしか目を開けていられないほどの閃光となってあたりを覆い尽くした

 智香は腕で顔を覆って目を保護する。



 ………?



 …………………?



 ……………………………………???




 どれだけ時間が経っただろうか。



(あれ? なんともない。)


 自分の手足や服を確認して何も変化がない事を確認する



(なんだったのかしら、今の)


 疑問に思うのもつかの間




 ―――って、え? 校庭から先が草原になっちゃってる!



 そう。視界の先には、学校という土地がまるで似合わない、見渡す限りの草原があったのだ。


「………。」



 屋上からさらに貯水タンクの上まで飛び乗ってあたりを見渡す



 校門から先は見渡す限りの草原

 草原っておい。


 道路はどこに行った!? 県道は!? 標識は!?


 ここどこ!? 海外!? 異世界!? 宇宙!? 白昼夢!?


 あ、ゴブリンらしき生物発見。


 ゴブ………はい?

 マジで? ここはゲームの世界かな。それとも異世界?


 なんてこった。



 なんてこった!!



(異世界召喚に学校ごと巻き込まれてしまったっ!!)



 なお、ここまでがテンプレである。




          ☆ SIDE 智香 ☆




 状況を確認しよう。

 火は鎮火した。

 混乱する頭も沈静化した。


 生徒たちは警察の指示に従って各々の教室に戻っている。



 わたしの名前は、井上智香。記憶違いはない。


 そろそろわたしも教室に戻るべきだろうか

 高等部の生徒会長が茶髪の生徒を背負って保健室に向かっているのが見えた。


 おそらく、体育館のパニックのせいで怪我をしたのであろう。



 手鏡を確認する。

 わたしの顔だ。

 間違いない。



 わたしはついに頭がおかしくなったわけではないらしい。

 ポケットを確認する。

 なにもない。



 遠くを見る。草原でゴブリンとウサギが格闘しているのが見える。


 ゴブリンはボロボロの短剣を振り回してウサギの首を刈った。


 ふむ。

 わかることは、ここは地球ではない、ということ

 遠くにゴブリンが見えることから、ここがゲームっぽい世界だということがわかる


 だったら自分のステータスかチートか魔法を確認できるかもしれない、という中二心をくすぐられて、念じてみた。


(………いでよ【ステータス】っ!)


 イメージは目の前に素敵なウインドウが現れるところを。智香は強くイメージする。


 が―――


 結果、なぜかポケットにタブレット端末が出現した。


(………ツッコまないでおこう。)


 タブレット端末を取り出す

 その画面に書いてある文字は


【DCQオプションメニュー】



 わたしは無言でそれをタップした。

 すると


【ステータス】



 おおっ! でたっ!


 ステータス!




 えっと、確認確認。


名前:【井上智香いのうえちか

種族:純人間族ハイヒューマン

性別:女

天職:【格闘家ファイター】 Lv.250MAX

サブ職業:【  】Lv.‐‐

HP: 15100/15100

MP: 100/100

攻撃:  6080

防御:  6080

素早さ: 4000

知力:  10

器用:  920

ジョブスキル:【拳士】【武道家】

獲得可能職業スキル:【正拳突き(1)】【浸透掌(2)】【空歩(2)】【闘気(3)】【鬼気(3)】【縮地(3)】etc...

獲得可能スキル:【隠密(3)】【夜目(3)】【奇襲(3)】【気配察知(4)】【弓術(4)】【偽造(50)】etc…

ユニークスキル:【怪力乱神かいりょくらんしん

ジョブスキルポイント:3750(150ポイント消費でサブ職業取得可能)





 あきらめた。


 わたしは、いきなりステータスがバグっていた。



 レベル250!?

 なにそれ!

 最初からレベルMAXなんてチートも甚だしいわ!



 もともとわたしは力が強い方だけど、コレはいくらなんでも異常でしょう。

 それに他のに比べて知力が10ってどういうことよ。

 一応わたしは学年トップの成績のはずなのに。


 獲得可能スキルのところの( )の中はおそらくジョブスキルポイントの消費数。

 職業ごとに得られるスキルが限られていると見た。

 さらに、職業ごとに得られるスキル以外だと、消費するポイントが高い。


 ためしに【縮地】とやらを取得してみる。


 【縮地】を意識したまま地を蹴ると、一瞬で高等科の屋上から中等科の屋上まで移動できた

 瞬間移動ではないけど、すごいスキルね。

 これ自体が超能力っぽい。


 それに、なにこの【怪力乱神かいりょくらんしん】って。

 一番気になる。


 なぜ、こんな物騒な能力名になっているのだろう。

 それほど強力な能力だと思った方がいいのだろうか



 こわいよ! 地雷だよこれ!

 ………でも


(………ちょっとだけ、試してみよう)


 好奇心は、とどまるところを知らないのだから。試してみたくもなるというもの。


 タブレット端末をポケットに入れ、貯水タンクに手を当てる

 好奇心に負けてしまったことは仕方のない事だとおもう。


 そう、これは好奇心とそれに抗せざるを得ないこの状況が悪いのだ


 心の中で言い訳を終了し、拳を握りしめた



「………えい」


 そして、【怪力乱神かいりょくらんしん】を意識してかるーく拳を振りぬいた。

 瞬間、わたしのなかで【怪力乱神 《かいりょくらんしん》】が使用されたということが理解できた

 ほんの軽く叩いただけなのに


――――バゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!



 轟音を伴い、貯水タンクに風穴が空き、穴からは大量の水が押し寄せ、その勢いに負けたわたしは毎秒100ℓもの水の本流に飲まれてずぶ濡れになった

 勢いに負けて屋上から転げ落とされなかったことは幸運としか言いようがない




 しかし、その結果、中等科校舎の深刻な水不足が発生した




「………し、しーらない」





 一瞬でスタミナをごっそり奪われたわたしは、ずぶ濡れのままフラフラと屋上から飛び降りて逃げた


 あれよ。戦略的撤退。そう、しかたがないのです。



―――――



 逃げた先は、校舎裏門。



 裏門は県道となっていたはず。


 しかし、裏門から続くのは、山道。



(………山?)



 学校が山と隣接していた記憶はない。


 だが、直感的にこの山が危険な山だということは理解できた



 屋上から確認をしていたけれど、草原の方はゴブリンさんと野ウサギさんのテリトリー。

 山は、虫や動物のテリトリーでしょう。


 正門方面は消防隊が野兎の侵入を阻止していたけど、裏門までは手が回っていないようだ。

 バカだなぁ。


 わたしは山道を歩いてゆく。

 しばらく進むと校舎が見えなくなった



「……… へくちゅ!」


 そういえばずぶ濡れだった。


 しかたない。

 ずぶ濡れの制服を脱いで絞る。

 これから夏休みだっていうのに、ここらの気候はおそらく秋くらいかしら。


 ついでに肌着も脱いで絞る。

 ブラジャー? なにそれわかんない。

 わたしのこの貧相な身体に合うブラジャーなんてあるのかしら。


 パンッと音を立ててしわを伸ばすと、湿った肌着を着直す。


 冷たい。でも我慢。


 スカートも脱いで絞った。


 パンツはさすがに脱げなかった―――わけでもない。


(スースーする………)


 スカートを穿き直した後に、パンツも絞った。

 パン! と音を立てて破かないように皺をのばす。


 うーむ、こどもぱんつ。


「………。」



 しかし、偶然というのは怖いものである


「プギィィィイイイイイイイイイ!!!」



 わたしがノーパンの時に限って、変なのが現れた。



 豚だ。



 豚の化け物が現れた

 キモイ

 こういうのを、なんていうんだっけ?


 豚をさらに醜悪にしたような人型の生き物。

 盛り上がった筋肉は脂肪がたっぷりつまっており、錆びついた大きな槍を片手で軽々と抱えていた

 ゲームや異世界ではおなじみの生き物。



 オーク?


 ああ、オークだ。

 その膂力はバカにならず、精力旺盛、メスを穴としか見ていないような醜悪な豚野郎。


 なるほど。



 ゾワリと不穏な風がわたしの背を撫でた。



・精力旺盛豚野郎

・そこにのこのこ現れるノーパン少女

・わたしの手には白いパンツ。

・パンツをはいている暇があったら襲い掛かられる

・詰んだ←いまここ


 マズイ。



 この状況は非常にまずい。

 なにが不味いって、ノーパンなのが一番まずい。

 くそっ、わたし“くっころ女騎士”ではないのに!




「プギィ、ブキィィィィイイイイイ!!!」



 オークは仲間を呼んだ


「ブキキ」

「プヒーン!」



 陰から二体の仲間が現れた

 なんてこったパンナコッタ。


 わたしはさぞおいしい餌だろう。


 どうしよう。

 魅力がないこの身体でも滾ってくれるのを喜ぶべきか、悲しむべきか


 パンツを握りしめた右手の人差し指を額に当てて考えてみるが


「…………どっちでもいいか」



 わたしはその辺に落ちている石を三つ拾って、オークに向かって投げつけた



「ブギャッ!!?」

「ブッ!」

「ブヒーン!?!?」



 三匹のオークはそれだけで腹に風穴があいて息絶えた。

 まぁ、わかってたよ。


 わたしのステータスがバグってるから、そこまでの脅威ではないってことが。



 それが、今学校にいる人たちにとっての場合はどうだろう。

 さっきの豚の魔物は、普通に考えたらゲームでも初心者が戦えるような体躯ではなかったし、平和な日本で暮らしなれていた学生たちにとっては、ものすっごい脅威ではないか。


 ここはまだ学校からそう離れていないはずだ。


 わたしがこいつらを殺していなかったらと思うと、ゾッとする。


 わたしが豚を簡単に殺せたのは、わたしのステータスがバグっているからであり、決してわたしが強かったからではない。たぶん。

 だって、なんの努力もしていないもの。


 わたし以外の人のステータスがどうなっているかは知らないけれど、おそらくわたしが基準と考えるのは間違っている気がする。


 ほら、もともと普通じゃなかったんだもの。


 オークを倒すと、タブレットが振動した。

 何事かと確認すると、インフォメーションが記されていた


――― スキル【投擲】を入手可能です ―――

――― スキル【狙撃】を入手可能です ―――


 ふむ。どうでもいいわね。



「………とりあえずは」



 進んでみましょう。

 どうせ学校の中はパニック状態。


 わたしも少しだけ混乱しているけど、今は適当にぶらぶらして学校が落ち着いてそうな頃に戻ってみようかな。



 パンツを履いてから三匹のオークこぶたの死骸をひょいと飛び越えて先に進む


 ずぶ濡れの状態で学校に戻っても、貯水タンクはわたしが壊したことが疑われるだけだ。


 まあ、あの水の量だし、わたしのせいでずぶ濡れになった人も結構いるかもしれない。

 今戻ればそのうちの一人として『てへぺろ☆』とか言えば笑ってスルーしてもらえるかしら


 いやいや、水槽あれが破壊されて水があふれた時に目撃証言がないであろうわたしが疑われるのは自明の理


 ………やっぱり、一旦は雲隠れしよう。

 学校に被害が出ないように魔物っぽいのを殺しながら進もう。


 レベルがカンストしているなら、たいていのモノは怖くない


 だけど、なにが潜んでいるかはわからないから過信しちゃダメだ



「………そのためには」



 とりあえず、タブレット端末を操作して【気配察知】を獲得する

 消費は4ポイント。地味に高い。

 わたしの職業【格闘家ファイター】のレベルは250でMAXだ。ジョブスキルポイントとやらがレベル1上がるに付き15ポイント加算されると考えると、実は高くないのだろうか。

 しかし、膨大なスキル量を見るとそうとも言えない気がする


 でも………やっぱり1レベルに付き15ポイントは多いような気がする。


 とりあえず、【気配察知】を意識すると、頭の中で5m圏内の動物がどこにいるのか、鮮明に伝わった。これは便利。


 でも、気配察知にしては範囲が狭すぎる。

 予想できるとしたら、熟練度システムかしら。


 おそらく、気配察知を使い続ければもう少し範囲を伸ばすことができるはずだ。

 新たなスキルの開拓も可能になると思われる。


 そこの陰に隠れてわたしを狙っているであろうオークに向かって石を投げる


「ブギャッ!?」



 よし、スキルも正常に作動しているみたいね。



 殺したところで、わたしの心は痛まない。

 我ながら冷めた女だ。


「………。」


 それにしても………。


 ことごとくゲームみたいな世界ね。

 アゴに手を当てて考える。


 何も思い浮かばない。

 することもみつからない。



「………。」



 よし、もうどうでもいいや。進んでしまおう。



 このあたりの動物は、学校側から人間の匂いをかぎ取っているのか、学校の方に向かっているような気がする。


 わたしはすでにレベルがMAXだから何をすればレベルが上がるのかわからない。

 レベルをあげる必要がないのだもの。


 わからないけれど、普通だったら魔物を倒せばいいのかな。

 それか、職業に見合った修行や行動かしら。


 そんな気がするわね。


 とりあえずは服が乾くまで、その辺で学校を守るためにタブレットをいじりながら石を投げて遊んでおこう。




 こうして、智香はこの世界の仕組みについて知りながら、そして石ころを投げて遊びながら山奥へと歩いていき、人知れず学校の生徒たちをオークの群れから一人で守ることになっていたことは、知る由もない。




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