第16話 長いの、合点がいく
「儂は
横から「今は、
物の怪間での狐忌避はこのところさらに強まり、
妖狐襲来以降、心ある諸侯はことごとく改易させられ、領地は
そもそも美玉が清国からこの国へやってきたのは、飛散した殺生石を集めて
「ここいらは少し前まで、掛川といったんじゃ。今は
薄汚い僧侶姿以外に人の姿を取れぬ禿狸だが、物への変化にことのほか長じていた。
「ほいで、今日のことじゃ。その渡来妖怪の頭がどこぞから殺生石のかけらを我が物にし、これを手土産として北条某に取り入ったちゅうことがわかった」
「なるほどね。渡来妖怪の親玉は、禍つ石を持参して惣士に収まり、小栞を餌場にできる。小栞侯は美玉に禍つ石を献上し、さらなる寵愛を受けられる」
「幸いにも殺生石はまだ、あの女狐の手ぇには渡っとらんようじゃ」 見つめてくるやたら器量の整った顔に、悪童めいた笑みを寄越す。「今度こそ、石を取り返し、白月狐に預けておけば間違いないとしろしめす好機と思うが。おんしが
硬い表情のまま黙り込む
「むむ、追儺の里の狐たちは、ここらの物の怪にその、集めるとよくないことが起こる石を奪われてしまっていたのか?」
「まろたちが奪われたわけではないかな。殺生石のかけらが美玉びぎょくの手に渡らぬよう、力ある物の怪が分けて守っていると昨夜話しただろう。石は全部で五つ。
「まぁ、ほいだけじゃあなしに、京に二つもかけらが集まっとるのも無用心ちゅうのもあったわい。集まって話し合い、白月狐の殺生石はひとまず、紀伊の
雅寿丸は「ううん」と唸りながら顔を上げ、小手をかざして掛川城――改め小栞城を見晴るかした。口元に浮かべた楽しげな笑みはそのままに、しかし那智黒の双眸には何らかの決意が潮のように満ちつつある。
「追儺が探している石が、あそこにある。おれの追っている下手人も、あそこにいるかもしれん。慶吾の志も、あそこで果たせる。どうだ、ここは一つ、おれたちと手を組まんか?」
がき大将がいたずらの誘いを持ちかけるように笑いかけられ、言葉に詰まった狸の化身は口を尖らせた。降りた沈黙に、しばらく居心地悪そうにしていたが、なにを思いついたかわざとらしく手を打って見せ、早口にまくし立てた。
「こりゃいけん。儂はあん娘から目を離せんのじゃ。すまんが失礼させてもらうぞ」
背中の菅笠をひっつかみ、横目で追儺に一瞥をくれてから「儂ゃ、おんしが好かんのじゃ」と付け加える。よほど慌てているのか、二、三度転びかけつつ、赤と黒の眼差しを背に受けるままに木戸門の中へと消えていった。
そのむこうからは、この日最後の一仕事とばかりに声を張り上げる、菜売や豆腐売、納豆売の口上が聞こえてくる。虫の声はより高まり、夕刻といって差し支えない刻限となっていた。
菅笠姿を見送った雅寿丸は、さして気落ちした様子もなく追儺を促した。
「それじゃあ、おれたちもゆくか」
「そうだね」
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