第22話 優先順位


「この度は女王陛下並びに、その支配下にある鍵が大変失礼しました」

 そう言って頭を下げたのは、女性の声をした鍵だった。

「あなたは?」

「あの馬鹿な鍵の番で、子供の母親です」

「……はぁ」

「城の中のものがすべてああだとは思わないでくださいませ」

「いや、俺ら行ってないから、どんなんだか分んねぇし」

 それに応えるはずの憲治は裁縫に没頭している。そんなわけで窓口はどうしても鍵になってしまう。

 そして、ついていったピンクッションたちは、憲治の仕事に付き合っている。

 あの恐怖の鼻歌すら、二人は平気になったらしい。城で一体何があったと問い詰めたくなるが、他のメンバーは怖くて行けないので終わるまで放置することにしたばかりである。

「鋏ーー。そろそろお前の出番」

 憲治の声がしたので、これ幸いと引きずりだすことに成功した。



 憲治の犬苦手をすぐさま感知した女性鍵は、犬族貴婦人をすぐさま下げた。

「ほんっとうに申し訳ございません。私が信用できるのは、彼女しかいないもので」

 ぺこぺこと頭を下げる。

「気にしなくていいんじゃね? つか、ここに来た理由を教えて貰いたいんだけどさ」

 鋏が呆れたようにフォローしていた。

「そ……そうですわね。セルヴィアン様からあなた方がこちらに来ているのは、聞いていたのですが」

「セルヴィアン様?」

 誰だ? と憲治が訊ねる前に女性鍵は再度口を開く。

「はい。元私の主で、あなたが方をここに連れてきてくださった殿方です」

「ワーウルフの爺の名前だ。俺の前に鍵所有してたことが驚きなんだけど」

「はい。あの方は元は女王陛下の執事でした。陛下があのようになってから戒めたところ、解雇されまして。……私をお目付け役にするとともに、侍女だった彼女を私につけて宮殿を去りました」

「……だと俺と契約したのはそのあとか」

「でしょうね。ワーウルフの里に戻られて、あの地を守ろうとしていたのは知っていますから」

 結局、この世界の停滞を止められず、異世界に渡ったということらしい。

「この世界の均衡は絶対に必要なのです。どうかお力を貸していただけませんか?」

 断る、と言おうとしたのをすぐさま女性の鍵が遮った。

「本当にこの世界の均衡が崩れたら、何も出来なくなるのです。それこそあなたが得意としていらっしゃる裁縫も……」

「やるか」

「変わり身早っ!」

「裁縫の一つも出来ない世界に意味はない」

「……憲治ならそういうと思ったのよね」

「だよな~~。裁縫出来ればどこでもいいやつだからな~」

 女性鍵がすべてを言う前に憲治が即断する。それに対してすぐさま鍵が驚いた声を上げたものの、ピンクッションたちは呆れただけだった。

「で、では……」

「その前に!」

 メジャーが待ったをかけた。

「どうしてそうなったのか、あなたなら知っているうえに、教えてくれるってことよね?」

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