第23話 昔語り


 昔はこんな風ではなかった。

 不思議の国は様々な種族で溢れていた。

 気立てのいい女王陛下の元、平和だった。


 それが崩れたのが五百年ほど前。

 異世界を渡る剣士が不思議の国に滞在したのだ。

 女王は一目でその剣士に惚れた。

 これが衰退の始まりだった。


 女王が剣士に猛アタックするも「お前阿呆だろ? お前の夫の立場なんざ要らん(意訳)」と断られ、閏に押しかけようとすれば娼館に逃げらた。

 業を煮やした女王が「異世界に渡りたかったら寝所を共にせよ」と言い出し、剣士はそれを拒否。すべての鍵という鍵に女王の許可なしに能力を使うことを禁じた。


 剣士も色々と情報を集めたのだろう。鍵と契約している人族女性を陥落させ異世界へ渡った。

 女王はこれに激怒。人族の女全てを不思議の国から追い出すとともに、男は全て奴隷に落とした。

 そして、その剣士が戻るまで職務を放棄すると言い出したのが始まりだ。


 結局その剣士は戻ってこなかった。



「……阿呆だろ」

 大まかな話を聞いた憲治は最初にそう言った。

 流浪の剣士に女王の伴侶など務まるわけがなかろう。おそらく剣士には「我が侭女王」としかうつらなかったはずだ。

 逆に、剣士の方がわきまえていたともいえよう。

 どんな場合であっても、身分というものは絶対になることが多い。そしてその分、責任というものが発生する。

 それをこなせないと思った剣士が辞退するのは当たり前だ。

「セルヴィアン様も同じことをおっしゃって陛下を戒めていらっしゃったのですが……」

 女王のご機嫌取りをしていた大臣たちがこぞってセルヴィアンを非難。それを女王が了承。城を追われることになった。それが犬族貴婦人の言い分だった。

「わたくしに鍵を譲られ、城からいなくなりました。その後女王陛下の独裁が始まりました」

 そして、人族の持っていた鍵をすべて取り上げ、剣士が再度渡って来るまで異世界の行き来を最低限にしたという。

 おかげで異世界同士のゲートがおかしくなり歪んでいるのが現状だという。

「神隠し、というものが地球にはあるかと思います。返って(、、、)行けたのは、鍵が運航していたからなのです。ここを通さず行くということは、戻る術がほとんどないのと一緒なのです」

 このまま歪み続ければ、不思議の国は崩壊し、異世界同士の境界が曖昧になる。そうすれば、地球で当たり前の技術がいきなり地球でも「おかしい」と感じたり、今までない技術が変に独占されたりすることもあるかもしれないという。

「地球という異世界では化学技術が盛んですが、魔法が盛んな異世界もありますし、そういったものが全くない異世界もあるのです。全部が曖昧になってしまえば……」

 そんなことはどうでもいい憲治だが、裁縫関係が出来なくなるのはかなり痛い。


 そんなわけで再度城へ向かうことになった。


 その前に犬族貴婦人の服を作り上げることを忘れず、女性鍵にもアクセサリーを作るという細かさを見せた。

 勿論、アラクネは餌をたっぷり与え、鍵二人の異空間には素材をみっちりと……そんなことをしようとしたら、鍵二人に止められたのだ。

「お前は何しに行くか分かってんのか!?」

「いやぁ、また閉じ込められたとき用にと思って……」

「それを前提にするな!」

 にへらっと憲治が笑ったものの、これまた凶悪に映り、女性鍵と犬族貴婦人は恐怖におびえたとか。

 そんなことはどうでもいいとばかりに、再度城へ向かうことになった。



「向こうには鍵がそれなりにおりますので、ばれるでしょうけど」

 そう言って女性鍵が案内したのは城の通用口だった。

「しかし、着心地は以前のものと段違いですね」

 犬族貴婦人、エリサが呟く。

「そりゃ素材……」

「芋虫素材だとしても、最近はここまで肌触りが良くないのです」

「そりゃ、おれっちも行って選んだ素材だし。おそらくだけど、憲治が選ぶともうワンランク上のものを選べたと思うぞ」

 胸を張って鋏が言う。

「……選ぶ方が違うとそこまで違うものなのですね」

「あとは憲治の腕。着心地はそれが関係してるだろ」

「……特急で納得いってない」

 ぼそりと憲治が呟くが、他のメンバーからは無視された。

 これだけのために突貫工事的にドレスを作ったのだ。もう少し時間があればもっと上手に縫えたはずである。

「そのうち憲治にもう一回作ってもらえよ。布地から吟味してもらって」

「それは楽しみですね」

 犬が苦手なのを知っていながら、あえて鋏がふっていた。酷いものである。


 何事もなく、大広間までたどり着く。


 そして玉座には三歳くらいの幼女が座っていた。

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