第21話 憲治帰宅

 憲治としては狭苦しいところにいたので、身体を鳴らしただけのことである。


 だが、その場にいた者たちは攻撃を仕掛けてくると思ったらしい。そして悪人面な顔が役立ったのだ。

 鍵を残して全員が逃げた。


 これ幸いと憲治は鍵をつかむ。

「ぼぼぼぼ……僕は産まれたての鍵で、女王陛下に、おおおお、お目通りすらしてません! 僕を食べても美味しくないです!!」

「誰が食うか!!」

 自称産まれたての鍵の言い分に、思わず突っ込みを入れる。

「ママ~~!! だずげで~~!!」

 ぎゃん泣きを始めた鍵を手に取り牢屋をあとにする。

「これじゃ、人質取って逃げる悪人そのものよね」

<シュー>

 またしてもへこむ内容をピンクッションが呟き、アラクネが同意していた。

「いくつか聞くが」

「ひぃぃぃ!」

「お前の他に何人鍵がいる?」

「ごわいよーー! ママだずげでよーー!!」

 何を聞いてもこれしか返ってこなくなった。うるさいし、そろそろ面倒になってきた。


 そんなことをしつつ、犬族を避けて城内を歩いていると、髭の生えた鍵が行く手を阻んだ。

「パパ~~! だずげで~~!!」

 どうやらこの鍵が父親らしい。面倒なので渡したくなるが、ピンクッションに止められた。

 話を聞けということらしい。

「この! 子供を人質にとって城内を荒らしまわる悪党め!! 儂が退治してやる!!」

「鍵の空間ってイキモノ大丈夫だっけ?」

 ピンクッションのおかげでだいぶ冷静になった憲治はふと思った。

「年季で違うのかも」

 飄々とピンクッションが答える。目つきはすでに殺やる気だ。

 見るとどこからともなくアラクネも栄養を取っていたようで、糸を吐きだすつもりらしい。

「この煩いガキは返すから、色々聞きたいんだけど」

「人質を取る貴様の言うことなど聞く耳もたん!」

「……あっそ。ピンクッション、こいつおいてさっさと帰ろう」

「いいの?」

「鋏たちも心配してるだろ。それに納期もあるし。ずたずたになったドレス一からの作り直しだし」

「……そうね。そっちの方が建設的よね。この国救うなんて馬鹿らしいわ」

 ピンクッションもあっさりと納得し、鍵を放り投げる。

<シュッ!>

 アラクネが丈夫な糸を出し、それを使ってターザンのように城から出た。



 そのことをピンクッションが、、、、、、、、報告しつつ、憲治は裁断された布を使って再度ドレスを作り始めた。

「……城の住民に喧嘩売ったなんつったら、ここで商売できねぇぞ」

 疲れ切ったように鍵が言う。

「だからね、憲治とも話し合ったんだけど。私たちや金槌たちも一緒に移動できる国がないかなって」

「……救う気ねぇのね」

「呆れたから。いっそのこと一度滅んでしまえばいいのよ」

「なるほどなぁ。おれっちとしては憲治の腕が生かせるならどこでもいいが。アラクネはここじゃないと生きていけないとかあるか?」

<シュ、シュシュシュシュ>

 とりあえず魔物や魔獣がいるところなら大丈夫らしい。

「ピンクッション、アラクネ。いてもらわないと仕事がはかどらない。戻ってきてくれ」

「はーい」

<シュッ>

 こちらの会話を無視するかの如く、憲治が二人を呼んだ。



 この世界を救うという当初の目的は、達成できそうにない。鍵は思わずため息をついた。その時だった。


「失礼いたします」

 納期前だというのに、犬族貴婦人が訪れた。

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