第20話 憲治切れる


 約一時間。憲治は二人にどう似合わないのかというのをこんこんと説教していた。

 服のサイズは勿論、似合う色、似合う服の形と着こなし方。

「し……仕方ないじゃないっ! お仕着せなんだものっ!!」

「じゃあせめて自分のサイズで着やがれ!」

「役職によってお仕着せが違うのっ! 完全注文制なんだからこれしかないのっ!」

「どこの阿呆が作っていやがる!! そこまで合わない服をサイズ測って作るなんて最悪だ!!」

「女王陛下のお針子に失礼よ!」

 ぶちん。憲治の中で何かが切れた。

「あ゛あ゛ん?」

「きゃぁぁぁ!」

 女性たちどころか、この騒ぎを聞きつけた兵士たちまでもが牢屋に囚われているはずの憲治に怯えた。

「んな服、洋裁習いたての奴でも作らんわっ!! 鍵とメジャー、それから鋏連れてこい! 今すぐ同じような布地でお前らの服作ってやる!!」

 そこは自由を求めるところじゃないの? というピンクッションの呟きは憲治の怒鳴り声によってかき消された。


 そして、全員が憲治に驚いている間に、ピンクッションは針を呼び寄せていた。



 鍵たちがその場に来たものの、憲治は不機嫌なままだった。

「在庫の布地言ってみろ」

「は!?」

 驚いたのは鋏。

「ふざけんのも大概にしろよ。俺がお前ら(、、、)を間違えると思ってるのか?」

「まず! そんなもっさりしたものを俺が着せない! 特にメジャー! そんな下品なレースをやった覚えはない!」

<シュ、シュシューー>

 すぐさまアラクネも同意する。まずもって素材からして違うというのがどうして分からないのかと、憲治は突っ込みたくなる。百歩どころか千歩譲って芋虫の糸なら許してやろう。使っているのは、麻のような毛羽だった糸だ。

「それから鋏と鍵! 在庫知らないとかほざいた時点でアウトだ!」

 憲治は作ってしまったものは忘れないが、素材を忘れがちだ。そういうものを管理しているのが鍵と鋏なのだ。

「なめてるわね。そんなものなくたって、憲治は偽者(、)だってわかったんでしょ?」

 ピンクッションがこともなげに言う。

「当たり前だろ? こんなところに閉じ込められてて説教しないなんてありえない」

 憲治はにやりと笑う。


「しょ……処刑だ!! 女王陛下の御心に背く悪人は即刻処刑だ!!」

 兵士の一人が騒ぎ出した。

「うるせぇ! 処刑の前にお前ら全員分の服作らせろ! 俺の目の前だけでも服に対する冒涜はなくす!」

 そういう問題じゃないんじゃない? というピンクッションとそれに同意するアラクネの音はまたしても憲治には聞こえなかった。


 全員が憲治に注目している間にピンクッションとアラクネも動く。

 アラクネは強力な蜘蛛の糸(剣が壊れるレベル)を出し、ピンクッションはいつもの目つぶしである。

 それに加えて、ピンクッションは針で錠前を開けた。

 いつの間にか取得していたスキルである。


 自由になった憲治はぽきぽきと身体中から音を鳴らす。

「で、てめぇが女王の鍵か?」

「ひぃぃぃぃ!!」

 鍵が失神した。

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