第14話 ただ今考え中

 魔物に近いイキモノやら、金槌のようなイキモノが大量にいる街だった。

「……何で?」

 二足歩行の魔物に近いイキモノまでいるのか、憲治が不思議そうに訊ねた。

「女王の加護がわずかながらに届いてんだろ」

 鍵がこともなげに言う。

「鍵のような存在がいるってことか?」

「城ん中にいる」

 きっぱりと鍵が言う。ここまでくると存在を感じるらしい。

「向こうにも俺がいることは伝わったはずだ」

「なら好都合ってやつだなぁ」

 鍵の言葉に鋏が嬉しそうに返していた。



 何が好都合なのかと言うと、まずは空間にある色んなものを売り出せること。そしてあえて存在を気づかせることによって女王と面会まで持っていけるかもしれないということらしい。

「金槌、お願いがあるの」

 不服な憲治をよそに、メジャーが金槌に話しかけていた。

「何するんでい」

「簡単よ。私の言うサイズで枠組みを作ってほしいの。で、その枠組みに合わせて憲治は布を縫ってちょうだい」

 そこまで言われて、憲治も少しばかり納得した。

「几帳きちょうを作るのか」

「というよりも、衝立もどきかしら? 憲治に几帳は合わないし」

 さらりとメジャーに言われ、どんよりと憲治は落ち込んだ。

「確かになぁ。憲治が隠れてりゃ、怖くて近づかないというやつらも少なくなるだろうし」

「鋏までっ!!」

「それに憲治も外野を気にすることなく裁縫関係に取り組めると思うの」

 ピンクッションがフォローするものの、鋏の言葉に憲治以外の全員が納得しているのは明らかだ。


 そして、鍵たちを売り子にして、今まで作ったものを販売して通貨を得るという、実に文明的なことを行うということで話はついた。



 だが、それを行うまでには少しばかり苦労があるわけで。



 今まで疑問に思わなかったことが不思議なのだが、布や糸への染色はどのようにするのか、憲治は全く知らない。

 何故かウリーピルの毛と皮は黒で、留守番猫の服を作った時にはそんなもの関係なかったのだ。

「……おいどんも知らんぞ」

「というか、誰も知らないと思うの」

 金槌とメジャーが衝立の外側を作りながら口を開いた。

 余談だが、アラクネは食したものによって吐き出す糸の色が若干(、、)変わる。さすがファンタジーの世界、憲治は変な意味で感心していた。

「そのうち分かるだろ」

 鍵が憲治のそばから離れて言う。……微妙に傷ついてしまうのだが。

「微妙な色合いの刺繍を施せばいいと思うの。あとはウリーピルの皮にアラクネの糸で刺繍とか……」

「それだ!」

 ピンクッションの言葉に、憲治が反応する。憲治の刺繍の技量はアトリエでもトップクラスだった。皆が「その顔でその繊細な刺繍とレース編みは反則だ」と言うくらいに。

「おい、鍵」

「……ななな、何だよ」

「俺の道具箱取り出して。確か少しくらいなら刺繍糸入ってたはずだし」

 そう、別にこの世界の糸で刺繍しなくてはいけないということはないのだ。


 何だったら、少しばかり道具箱に入っているミシン糸を刺繍糸代わりにつかってもいい。

 そして、その糸がすべてなくなるまでに皆で、、染色方法を調べればいいのだ。


 そんなことを思いついた憲治は思わずほくそ笑んだ。


 ……そりゃもう、あまりにもの凶悪な顔に昔から付き合いのあるはずの鋏たちですら怯えるくらいに。



 慌てて金槌とメジャーが衝立の原型を作り、何とか憲治を周りから隠すことに成功したのは、そんな話から三日後のことだった。

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