第12話 留守役への贈り物

 王都に行く前にアラクネたちをどうしようかという話になった。

<シュ、シュシュー!!>

 一番最初に懐いたアラクネは、憲治と一緒に旅をするという意思表示をしてきた。

 ほかのアラクネたちはここに残り、家を管理しがてら布を織り続けるつもりらしい。


 憲治は半年間使っていなかったもう一つの魔石を取り出し、アラクネたちを世話しつつ、家の維持をしてくれる人物を作り出そうとした。

 出てきたのは、鍵を持った猫だった。

「……蜘蛛相手に猫はやばいだろ」

「失敬な! アラクネを食ったら毒でやられる!!」

「そいつは失礼」

 ケットシーというべきか、チシャ猫というべきか。ニヒルに笑うさまはチシャ猫だが、普通に二足歩行しているあたりはケットシーだ。

「とりあえず他の奴らみたいになんか作ってくれよ」

「……おう」

 そんなわけで猫用服を憲治は慌ててこしらえた。


「なるほど! これは着心地がいい!! 替え用の服はおいおいでいい。こっちも鍵があるからいつでも取り出せる!」

 猫が嬉しそうにはしゃいでいたが、この話を聞いた憲治もはしゃぎそうになるのを抑えていた。

「ってことは、アラクネたちが織った布はいつでも憲治の手にわたるってこと?」

「そういうことだ! 何ならウリーピルの糸を紡いで送ってやるぞ!」

「是非とも!」

 憲治も思わず食らいついた。

 ウリーピルはこの小屋から少し離れたところにいる羊系モンスターで、肉は食用ジンギスカンにしてよし、皮は防具や服にしてよし、毛は編み物やウール地の布にしてよしのいいとこづくめなのだ。

 勿論、ウリーピルからとれた毛で織った布で猫のスリーピーススーツを作ったのだが。


 半年引きこもるうちに、元からすごかった憲治の裁縫の腕はさらにスキルアップをし、元の世界のミシンよりも早くスーツを縫えるようになっていた。

 勿論、出来栄えもかなりいい。

 鍵たちにも腕があるので、それ相応の服になっている。それを喜んでいるのは、女性人格が宿った道具だけなのだが。

「ふふふっ。楽しみだわ。王都でも憲治の作ったものはきっと注目されると思うの」

 相変わらず首にぶら下がっているメジャーが楽しそうに言う。

「じゃあ、行くか」

 自分の生活水準を下げないために。


 憲治の思惑と鍵の思惑はこの時点で完全にずれていた。

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