第11話 引きこもりからの旅立ち
翌朝、出来上がった編み物を見た面々は言葉を失った。
ものが多すぎる。そして繊細すぎる。
「途中からべたべたした糸じゃなくなったから編みやすくて……」
「ものには限度ってもんがあんだろーがっ! こんなにあったって売れねぇんだぞ!」
鍵がすぐさま突っ込みをいれてきた。
「いやぁ、つい……」
「『つい』で済ませるな! 『つい』で!!」
次の瞬間、憲治の頭の上にいたアラクネが糸を吐いて、鍵を簀巻きにした。
「憲治の特技に文句つけないでちょうだい!!」
<シュ、シュシューー!!>
ピンクッションの言葉に、アラクネまでもが同意だと言わんばかりに威嚇していた。
「……結局俺が悪者かよ」
鋏に救い出された鍵がぼそりと呟いていた。
その後、アラクネ群れの一つが小屋に引っ越してきて憲治の趣味に付き合うことになったのはうれしい誤算だった。
その群れの長はあの髪留めを付けた蜘蛛だったりする。
いつの間にやら金槌が織機を作り、アラクネたちが布を作り出すようになっていた。
それを見た憲治は喜々として、服を作ろうと裁ち鋏で裁断しようとして、断念した。
裁ち鋏の刃がこぼれたのだ。そして、布は全く切れていない。
「……参ったな」
「どしたぁ?」
鋏がそばに来たので理由を言うと、あっさり鋏が布を切った。
「何故に!?」
「そりゃ、おれっちだから」
理由にならない理由を鋏が言う。憲治も布が切れたのであまり気にしないことにした。
さすがに針も今までのが使えないだろうと思っていたら、金槌が新しい針を作ってくれた。
これがまた使い勝手のいい針で、サクサクと縫える。
思わず全員分の飾りを作ってしまったのはご愛敬というものだろう。
そんなこともあって、憲治は不思議の国にて完全に引きこもりへとクラスチェンジしていた。
「できたっ」
本日もいいアイテムが出来たと喜ぶ憲治の隣で、鍵がでかいため息をついた。
不思議の国に来て早半年。憲治の引きこもり生活も様になっていた。
それを憂いているのは鍵だけという、どうしようもない状況でもある。
「憲治ぃ、そろそろ……」
そんな鍵を憲治はじろりと睨む。いや、睨んだわけではない。決して。
「な、なぁ。俺最初の時に頼んだよな?」
「……何だっけ?」
「だからっ! この国を管理して欲しいって」
最後はしりすぼみだ。
「このままでも大丈夫じゃね?」
好きなだけものが作れるという好環境だと憲治はのたまう。
それに対して鋏たちも頷くため、助長している。
「大丈夫じゃないから」
もうヤダ。怖いんですけど。この組み合わせ。その言葉を鍵は何度飲み込んだことか。
「……このままだと異世界関係にまで影響でちまうんだよぉ。だから、頼むよぉ」
「それに魔石効果も薄くなって、おいどんたちも動きが鈍くなる可能性が」
「王都に行くか!」
金槌の言葉に、憲治が素早く前言撤回した。
「……おいどんは嘘を言っておらぬぞ」
「言ってねぇけど、お前らが動けなくなるまでかなり時間あるだろうが」
「こうでもせんと、憲治は動かんと見た」
ぼそぼそと金槌と鍵が話す。
王都に行く気になった憲治を鋏とメジャーがあきれて見ていた。
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