第10話 素材入手

 人が住めるようになれば、次にするのはご飯を作ること。だが、食材はほとんどない。


 そんなわけで、全員で出かけることにった。

「これ薬草!」

 スコップが嬉しそうに薬草の周りを掘っていく。

 その後も「あの木の実や芽はすぐ食べられる」だの「もう少し待とう」だのと言いつつ、採っていく。

「……主食がないって切ないな」

 本日は木の芽などの野菜オンリー食事である。

 そして収穫としては、畑に植えられそうな木の実と薬草、そしてニードルウッドだけだった。

「今度もう少し探索しましょ?」

 メジャーが言い、その日は小屋へ戻った。


 翌日からは少しずつ範囲を広げて探索していく。少しずつ手に入る食料などが増えていくと、憲治の影が薄くなり始めた。

「憲治、戦えよ。せめて」

 鍵があきれたように言う。

「だって、痛いじゃないか!」

「おまっ! その顔でそれ言うか? 何人も殺してそうな……ぎゃぁぁぁ!!」

「……だから毎度自分を大事にしろと」

「心配ありがとう、憲治。でも許せないのよ」

「そうそう! 優しい憲治を捕まえてこんなこと言うんですもの!」

 毎度の流れと化しそうだが、憲治の顔を揶揄して鋏たち三人にフルボッコにされてしまう、鍵。その鍵が不憫で毎度憲治も忠告するのだが、憲治の忠告は鋏たちへのものだと思われているようである。

 ため息をつき、己の着ているものをじっと見る。

 中の服は何度も箒が洗濯してくれた、元の世界から着てきたもの。そして最近はチェーンメイル系を上から着ている。そして手には一応剣。しかし一度も振るったことはない。


 剣を使ったことなど一度もない。今まで憲治がしてきたのは空手と柔道。しかも痛さでやめたチキンである。

「俺に戦いは無理」

「お前てほんと見た目詐欺……ぎゃぁぁぁ!!」

 あれほど自分を大事にしろと言っているにもかかわらず、一言多い鍵がまたしても余計なことを言い、大変な目にあっていた。


 モンスターに出会えば、鋏やメジャーがいつの間にか攻撃していて終わってしまうというのが日常と化し始めた頃、とんでもないモンスターに出会った。


 顔だけ美しい女性、他は蜘蛛。グロテスクである。しかも髪は黒く長い。一瞬某ホラー映画を思い出してしまったが、まごうことなき、黒髪付きの人面蜘蛛である。

「えっと?」

「多分アラクネ」

 鍵がしれっと呟いた。

「……なんか想像してたのと違う」

 美しい身体を持ち、足だけ蜘蛛なのを想像していた。それが見事に裏切られたのだ。

「こいつの出す糸ってどんなもの?」

「あれ? 向こうで見なかったか。あの光沢のある綺麗な布はこいつしか出せない」

「テイムするか」

「ちょい待て。あいつには毒があったはずだ。テイムなんて無理っ!」

「やってみなきゃ分からん! 布のためだっ」

 鍵の言うことを無視して、蜘蛛に近づく。

<シューーーーー!>

 どうやら威嚇しているらしい。


 そしてあっという間に憲治とピンクッションたちに糸で攻撃を始めた。

「だから言ったのに」

 このまま糸で簀巻きにされ、そのあと毒でやられるのがオチだ。そう鍵は思っていた。……が。

「こりゃ、べたべたさえなきゃいい糸だな! 編み物するぞっ!」

 いつの間にやらかぎ針を取り出した憲治が喜々として編み物を始めた。

<シューー?>

「あ、少し出すの抑えてね。でないと綺麗に編めないから」

<シュシューー?>

「そうそう! そんな感じ!」

 どかりと座って本格的に編み出した憲治を止めようとすると、ピンクッションとメジャーにしこたま怒られ、鍵はおとなしく見ているしかなかった。


「それから、お前織物も出来るんじゃないか?」

<シュ?>

「いいの織ってくれ! そしたら俺が服を仕上げる!」

<シュー>

 会話が通じているのかすら鍵には分からない。


 狩りなどを終えた金槌たちと合流したものの、憲治は動く気配がない。そのため、その場で野営となった。



 憲治が時間を忘れて編み物をしている頃。

 寝ずの番はメジャーと鋏。鋏は時々アラクネの糸を切るのに呼び出されたりしている。

 そして編み物ができるように火を見ているのだ。

「~~~~♪」

 鼻歌を歌いながら、憲治は編んでいるが、アラクネが疲れてきたらしく糸が出なくなりかけている。

<シュシューー>

 疲れたよ、そう言わんばかりにアラクネが音を出した。

「そっか。ありがとな! おかげでいいのが出来た。これはお前に」

 そう言って手編みの髪飾りをアラクネに渡していた。

「お、似合う!」

<シュ、シュシュッ>

 ぽんぽんとアラクネの頭を撫でたあと、憲治はあっという間に眠りについた。

 そして少しばかり照れたところがある感じのするアラクネは、憲治の頭の上に乗り寝てしまった。


 それを見たメジャーと鋏も安心して寝ることにした。

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