空っぽ

男は立ち上がり、隣の車両に移った。

他に乗っている人がいないことを確認し、さらに隣の車両に映った。

一番先頭の車両の運転席付近まで来たが、どの車両にも人の気配はない。

どうやらこの車両に乗っている客は男だけのようだ。

運転席が見える小窓のそばまで来て、小窓の中を覗いた。


運転席の中は空だった。


「だ、誰もいない。どうやってこの列車は走ってるんだ。どこに向かってるんだ」


客もいない車両で男は大きな声を上げた。

誰もいないのだから、恥もなければ、外聞がいぶんが悪いこともない。

焦りは困惑へと変わり、怒りになりつつあったが、どこかでこの状況を望んでいる部分もあった。

運転席に近い席に腰を降ろし、頭をいて、肩を自分で揉んだ。


気持ちを落ち着かせて、何か考えをめぐらそうとすると、突然列車のドアが開いて、一人の女が乗り込んできた。

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