電車が過ぎ去ったホームで首（こうべ）を垂れながら立ち止まっていると、先ほど文句を浴びせかけた男が怪訝（けげん）そうな目をこちらに向けた。

あの上司の目と同じだ。

一気に肩が重くなって、会社に行くのが憂鬱（ゆううつ）になった。

列車を待つ人の列に並んでいる間、このまま列車が来なければいいのにとか、何らかの理由で列車が遅れればいいのにとか、遅刻を正当化できる理由が転がってくることを期待していた。

そのような淡い期待を打ち砕いたのは、重厚な鉄が軋（きし）みあう音と、音の割れたスピーカーから聞こえる鼻声交じりのアナウンスだった。

列車がやって来た。

当たり前のように。

会社に着かなければいいのにと思いながら、開いたドアに歩を進めた。

何も見ず、何も聞かず、ただ下だけを向いて、歩を進めた。

いつもなら、ぎゅうぎゅう詰めの車内で押しつぶされそうになる所だが、今日はそのような気配が無い。

ほんの少し前に視線を向けると、席が空いているのを見つけた。

すがりつくように空席に向かい、へたり込むように座った。

ほっと一息ついて、前を向くと異変に気がついた。

「あれ、間違えた？誰も乗ってない」

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