第3話
十日後、エリ・ブランシェの学校では新学期が始まった。マリは隣のクラスにいた。クラスに友達もできたけど、一番よく話をしていたのはマリだった。一緒に帰ることもよくあって、周囲から冷やかされたりもすることもあった。
相変わらず谷は立ち入り禁止のままで、谷には危険だとして近づくことができなかった。父はそこに出向いて仕事をしているようだった。住民には、石英とは別の資源の鉱脈を探している、地質学的にはこの辺にあるはずだ、と説明されていたが、本当にそうなのか父の態度をみては確信できなかった。実際には何をつくっているのかは分からなかった。
乙女座の月の中頃、火星艦隊の閲兵式があった。僕はマリと一緒に、あの丘へと行った。身を切るような寒さに日が西へと傾いていく中、僕らは久しぶりに丘にやってきた。枯草はなく、赤茶けた砂が辺りを覆っていた。僕らは丘の頂上へと登った。
空を見上げた。東の空に一番星が見えた、もう一つ、また二つ、そのすぐそばに星が出た。それは明らかに動いていた。それは人工の星だった。凡そ一分のうちに、光点は十を越えた。僕は双眼鏡を取り出し、その星々をしばし眺めた。そしてマリにもそれを見せた。
「冥王星で大規模な演習をするらしい」僕は父から聞いたことを話した。父はそのための閲兵式の出席のため二日前イーハトーブに向かっていた。そこから、軌道エレベーターでフォボス宇宙港へと昇っていく。演習には、地球や土星の艦隊も合わさるらしい。
「でも」マリは怪訝そうな顔をした「演習、って戦争の練習よね。戦争なんてないのに、どうしてそんなことするのかしら」
「さあ、それはわからないよ。でも、いざ、って時のために備えてるんじゃないのかな」
「いざ、なんて来るのかしら」
彼女は腑に落ちないといった様子だった。それでも一方、彼女はまた嬉しそうだった。久しぶりにお気に入りの場所に来られたのだから当然だろう。
「今度は春来よう。花も咲いてるだろうし、ピクニックしようよ」
帰り道、マリは嬉しそうに語った。僕も、彼女とピクニックへいくということは、とても楽しそうに思えた。
そう、春が来ると言うことは、凄く素晴らしいことだと、僕は確信していた。そしてそれは、もうすぐなのだ……
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