第37陣それぞれが歩む未来

 その日の午後、今朝言った通り俺はヒデヨシの部屋にやって来た。ノブナガさんは気を使ってくれたのか、部屋の前まで来た後、用事ができたと言ってどこかへ行った。


「高熱で倒れた時は、本当に心配したけど、無事に治ったんだねヒッシー」


「まだ完治ではないけど、昨日よりは熱が下がったよ。心配してくれてありがとうなヒデヨシ」


「そんなお礼なんて言わなくていいよ。心配して当然なんだから」


「当然……か」


 でも俺が城を出た時には、もっと心配してくれたんだろうな……。あんな酷いこと言われても、仲間だって思ってくれる気持ちはすごく嬉しい。だから俺も、しっかりと言わなければならない。この前の話を。


「なあヒデヨシ、俺この前さ……」


「待ってヒッシー!」


「ん? どうかしたか?」


「私今ヒッシーが何を言いに来たのか分かってる。分かってるから少しだけ時間ちょうだい」


「時間?」


「分かっていてもやっぱり辛いから。心の準備をする時間がほしいの」


「……分かった。ただ、風邪がうつるとあれだから、なるべく早くな」


「分かってる……分かってるから待って」


 ヒデヨシの申し出により、少しだけ待つことに。


 そして五分後、


「よし、オッケー。いいよヒッシー、話を続けて」


「随分待たせたな。まあいいけどさ」


 時間が経ってしまったせいで、少しだけ話しにくい感じになってしまったが、俺は今思っていることをヒデヨシに告げた。


「この前は悪かったな。急にあんな事言い出してさ。俺もいきなり結婚なんて申し込まれるとは思っていなかったから、ちょっと動揺していたのかもしれない」


「あの反応はちょっとどころじゃなかったよ。でも、まさかヒッシーがあんな事言うなんて思っていなかった」


「それには、ちゃんとした理由があるんだ」


 ここからが本題。本来ならノブナガさんにも聞いてもらいたいことでもあるのだけど、今はヒデヨシにだけ聞いてもらおう。


「もしかしてヒッシー、他に好きな人がいるからとか? あ、ノブナガ様とかかな」


「いや、そうじゃないんだ」


「じゃあ他に理由があるの?」


「ああ」


 俺はそう言って一息ついた後、ヒデヨシにこう告げた。


「まだ確証的な事は言えないけど、俺はこの時代の遥か未来から来ているんだよ」


『え?』


 ヒデヨシの声と重なって、部屋の外からも声が聞こえた。あ、ノブナガさんは気を使ってなかったんですね。よく分かりました。


「ヒッシー、それどういう意味?」


「そのままの意味だよ。俺にとってここにいる人達全てが、歴史上の人物。どんな生涯を送ったのかまで分かるんだよ」


「私が……」


「歴史上の人物?」


 今度は声すら重なっていなかった。かわざわざ盗み聞きしなくてもいいのにと思いながらも、俺は話を続ける。


「だからここで結婚したら歴史すらも変わってしまうかもしれないんだ。だからな俺はヒデヨシの想いには答えられない」


「そっか……。ヒッシーも色々抱えているんだね」


「抱えているというかなんというか、いきなりそういうこと言われて、なんて答えれば分からなかったんだよ。結局俺はそれを理由にして、逃げているだけだから。ごめなヒデヨシ」


 ヒデヨシには申し訳なかった。でも彼女は彼女の未来がある。俺はそれを壊すことなんてできない。


「ヒッシーは未来から来ているとするなら、もしかして私が誰と結婚するのも分かっているの?」


「え? あ、ああ」


「教えて教えてー。私の白馬の王子様を」


「そ、それはちょっと無理かな」


「えー、どうして?」


 その相手が、あなたが最も避けてる人物だから、とは言えないよな流石に。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ヒデヨシとも何とか和解した翌日、体調もすっかり良くなった俺は、ヒデヨシと共にノブナガさんも連れて久しぶりの城下町スウィーツ巡りをする事になった。


「噂では耳にしていましたけど、ヒデヨシさんってかなりの甘い物好きなんですね」


「俺も初めて見た時はビックリしましたよ。付き合わされた俺が食い倒れしてしまうくらいでした」


 現在三件目のお店に来ているわけだが、俺とノブナガさんは勿論ギブアップ。ヒデヨシは底知れずと言わんばかりに、俺達を無視して食べ続けていた。


「でもよかったです。いつものヒデヨシさんに戻って」


「え?」


「実はあの一件の後、ヒデヨシさんも元気がなかったんです。事情は知っていましたが、彼女も結構落ち込みやすいタイプなんですよ」


「そうですか……。でも話を聞いていたなら分かると思いますけど、こればかりは俺にもどうにもできない事なんです」


「未来を生きているから、ですよね」


「はい」


確信的なことは言えないが、ここが本当に戦国時代なら俺は未来を生きている事になる。それだけはどうあっても変えられない事実だ。


「ヒスイ様は、最初から知っていたんですか?私達が武将であるとか、どんな戦いがこの先あるのか、とか」


「ハッキリとは言えませんが、だいたい把握しています」


そこまで歴史に強くはないので、細かくは覚えていないが有名な戦とかは覚えている。

特に一番印象に残っているのが、


「だから辛いこともあります」


「辛い事?」


 織田信長が迎える最後だ。諸説あるが明智光秀によって討たれたとされている、本能寺の変。

もしこの世界にもそれが起きようものなら、ノブナガさんにとってはとても衝撃的な出来事になる。


(これだけは避けられたりしないのかな……)


ただそれだと歴史を変えてしまうので、そんな事は出来ないのだが。


「いつかは分かる事だと思いますので、今はそれについては秘密にしておきます」


「そこまで言われると気になりますけど……」

「それよりヒデヨシ、もうお会計済ませて店出てしまいましたよ」


「え? あ、ちょっとヒデヨシさん、そんな先に行かないでください」


 慌ててヒデヨシを追うノブナガさんの後を、俺は追う。ここ数日、色々な事があったけど何とか乗り越えられた。まだまだ解決していないことも多々あるけど、それも慌てずに片付けていけばいい。そうすればきっと、こうしていつまでも笑顔でいられる。


(さてと、今日も頑張るか)


 本日も安土は晴天なり。

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