第6章忍と休暇と包囲網

第38陣ボクっ娘とネネ

「休暇?」


「はい。城の警備などがありますので、全員でとまでは言えませんが、たまには戦以外で城の外に出るのもいいかなと思いまして」


間もなくタイムスリップして一ヶ月経つある日、城の皆を呼び出したノブナガさんがそんな事を言い出した。


「また突然の話ですね」


「最近色々ありましたから、たまには息抜きも必要かと思いまして」


「それで誰が行くんですか?」


「私とヒスイ様とヒデヨシさんで一泊二日で、少し遠くの宿に泊まる予定です。それで私達が帰ってき次第、残りの方には行ってもらう形になります」


どうやら休暇の使い道も決まっているらしく、三人で旅行に行く計画らしい。


「わーい、ヒッシーとノブナガ様と一緒に旅行だー」


喜びの声を上げるヒデヨシ。勿論俺も嬉しいのだが、メンバーがメンバーなだけに、少し不安だ。


(まだあれから一週間しか経ってないけど、大丈夫かな)


というか、残っている組の方がむしろ心配だ。普段絶対に垣間見えない三人が、揃って城の警備だなんて、いつかのヒデヨシとネネと一緒に過ごした三日よりも、酷いかもしれない。


「あの、ノブナガさん。一番不安な組み合わせを残して大丈夫でしょうか?」


一応その旨を小声でノブナガさんに聞いてみる。


「大丈夫ですよきっと。いざとなれば皆さん強いですから」


「ミツヒデやネネならともかく、リキュウさんは戦力にならないのでは?」


「心配いりませんよ。以前にも話しましたけど、ああ見えて強いですからリキュウさんは」


「そういえばそんな事言ってましたね」


けど、本当に大丈夫なのかな。


「とりあえずそこは三人を信じましょうよ」


「まあ、そこまで言うなら」


結局誰からも異議は出なかったものの、少しだけ俺の中には不安が残るのだった。


◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

休暇は明後日から取ることが決まり、俺はそれまでの間は普段通りの時間を過ごすことにした。


(この前みたいに魔力が切れたら、意味がないからな)


元の世界に戻ってからも、時々俺が行なっていたのが体内に宿る魔力を、更に増やすための一種の座禅。一応ここでも魔法陣を書くことはできるらしく、その上で毎日一時間ほどこれを行っていた。


(足りないものは増やせばいい。そしてもっと強くならないと)


静かな時間だけが過ぎて行く。周りにもこの時だけは邪魔しないでほしいと言ってあるので(行う前に必ず皆に伝えてある)、集中して鍛錬に励むことができる。


「ふぅ……」


そして一時間ほど経った後、俺は閉じていた目をゆっくりと開いた。


「で、何か用か? ボクっ娘」


「ふぇ」


ホッと一息ついた後、俺はどこかにいるであろうボクっ娘に声をかけた。こういう集中している時にも、誰かがこっそり入ってきた事くらいすぐ分かるようになった。

しかもよりによってやって来たのが、先の戦いでネネを連れ去った徳川の忍。未だに正式な名前が分かっていないので、ボクっ娘と呼んでいる。


「いつから分かっていたの? ボクがいること」


「儀式始めてすぐだ。俺が座禅をしている間は、他の人は入ってこないから、すぐに分かった」


「つまんないの」


そう言うとようやくボクっ娘が姿を見せた。格好はこの前会った時と変わらない。


「相変わらずだね。この前は大変だったのに」


「どっかの誰かさんの、お偉いさんに散々な目に合わされたからな。それで用があってきたんだろ?」


「特に用はないんだけど、ちょっとだけ確認したいことがあってね」


「確認したい事? わざわざ敵陣にまで来て何を確認したいんだよ」


しかもここは敵地のど真ん中。ただでさえリスクがあるというのに、とんだ根性をしているなと感心する。


「あのネネって子の事だよ」


「ネネの事?」


そういえばすっかり忘れていたが、この前徳川と衝突したのは確かネネが連れ去られたことによるものだった。何故連れ去られたのか、一番分かっているはずの本人が喋る気配もないので、あえて気にしていなかったのだけど……。


「その反応だと知らないみたいだから、一応教えてあげるね。そのネネって子は……」


「私の見てない所で、私の話をするのはあまり好きじゃないんですけど」


ボクっ娘が何かを言おうとした所で、噂をすれば影と言わんばかりに、ネネが部屋に入って来た。しかもかなり怒っている。


「あなた徳川の忍ですよね? 今すぐ出て行ってくれませんか? これ以上余計なことを喋るというなら、今すぐヒデヨシお姉様を呼びます」


「そこはノブナガさんじゃないのかよ! ていうか、ボクっ娘は一応顔見知りなんだから、大丈夫だよ」


「サクラギヒスイ! 私はあなたがヒデヨシお姉様を傷つけたことは絶対に許しません。もしこれ以上何か聞こうとしようなら、ただじゃおかないですよ」


しまいには俺まで脅される形になる。多分俺にはあっちの方の話で激怒しているのだろう。


「ただじゃおかないって、何をする気だよ」


「そんなの勿論決闘ですよ。私にはあなたを殺す理由があるのですから」


「殺す理由って……。まあ、そこまではしたくないから、大人しく従うよ」


あまりに物騒な事を言い出したので、俺は仕方なくネネに従う。


「二度とここに来ないでください! この泥棒猫」


「泥棒猫ってお前な……」


別に何か盗んだわけじゃないのだから、そこまで言わなくてもと思ってしまう。


「いいですかサクラギヒスイ、あなたがこの夜にしていた事は謀反に近い行為です。それだけは覚えておきなさい」


「謀反って……。まあ次からは気をつけるよ」


結局俺はボクっ娘から、重要な事を聞けずに終わってしまった。一体何故ネネはあそこまでして止めたのか、少し謎だ。

そこまでして隠したい何かがあるという事なのだろうけど、ネネの性格からしてそれを聞くのは難しいだろう。


(今は気にしても無駄か)


また新たに問題を抱えながら、俺は二日後の休暇を迎えることになったのであった。

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