第35陣始まりの日
熱の影響もあってか、再び目を覚ましたのはその日の夜中。ノブナガさんが看病してくれたおかげもあって、大分体が動きやすくなった。
(そういえば雑炊、食べれなかったな……)
それを待っている間に、色々と思い出してきて、そのまま眠ってしまったので、折角の雑炊を食べ損ねてしまった。
(腹減ったけど、時間も時間だし誰も起きてないよな……)
既に時刻は夜中の二時。日付すらも変わってしまっているので、誰かが起きているのかも考えにくい。おまけにまだ身体を動かすことはできない。完全に手詰まりって事だろうか?
「ヒスイ様、起きていますか?」
そんな俺の考えを打ち破ってくれたのは、やはりノブナガさんだった。深夜だというのに、わざわざ彼女は俺の様子を見に来てくれたのだ。
「すいませんノブナガさん、こんな時間にわざわざ」
「そろそろお腹が空く頃だと思ったので、お昼に食べなかった雑炊を温めて持ってきました」
「ありがとうございます。俺も、その、お腹減っていたんです」
「それならよかったです」
少し冷ました後、ノブナガさんお手製の雑炊を口に運ぶ。
「うん、おいしい」
「本当ですか?! 味に自信なかったんですけど」
「すごくおいしいですよ。こんなにおいしいもの食べれて幸せです」
「そ、そこまで言わないでくださいよ。私も恥ずかしいじゃないですか」
ほかが聞いたら思わずニヤニヤしてしまうような会話を続ける俺とノブナガさん。熱があって体が寒いせいか、よけいにノブナガさんの雑炊を肌で感じる。
うーん、生きているって素晴らしい。
「そういえばノブナガさん、お昼はすいませんでした」
「いえ、辛くなった時はいつでも言ってください。私達が力になりますから」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいです。たまに突然思い出すことがあるんで」
「それは昨日、ヒスイ様が命について色々話した原因ですか?」
「原因、確かにそうかもしれませんね」
昨日の事の発端は全てあの夢から始まっていたのは確かだし、それでノブナガさんやヒデヨシに色々言ってしまった。そういえばまだちゃんと謝れてなかったよな。二人に。
(だったら、今からでも謝らないと)
一旦雑炊を床に置いて、俺はノブナガさんの前で正座する。
「その、ノブナガさん。昨日俺色々言い過ぎましたよね? それについて謝らせてください。昨日はすいませんでした!」
そして謝罪の言葉とともに、土下座をした。勝手なことを言ったり、勝手に城を飛び出したり、そのせいでノブナガさんにも迷惑をかけたり、言葉だけでは足りないと感じた。だから俺は、ちゃんとした形でノブナガさんに謝罪をした。
「そ、そんな改まって謝らなくていいですよ。私も何も知らないで勝手なことを言いましたし、それにヒスイ様のおかげで私、少し考えさせられたんです」
「考えさせられた?」
「確かに私達はいつ命を落としてもおかしくはない時代を生きています。だから命を少し軽く見てしまいました。もっと大切にしないといけないですし、それに」
「それに?」
「誰かが死ぬのは悲しいに決まっていますよね。すいません」
ノブナガさんに逆に謝られてしまう俺。この人は何でこんなにも優しい心を持った人なんだろうか。普通なら怒ってもおかしくはない。それなのに、怒るどころか謝られてしまった。悪いのは俺なのに、どうしてノブナガさんはこんなにも……。
「謝らないでくださいよノブナガさん。逆に辛くなります」
「でも」
「ノブナガさんは何一つ悪くありません。これは全部俺の責任なんです。俺が弱かったから……」
「ヒスイ様は弱くないですよ! 何度も戦を勝利に導いてくれたじゃないですか。それに私よりも強いですし」
「違うんですよノブナガさん。俺は以前、自分が弱いせいで守れなかった人がいるんです」
「それはサクラっていう子ですか?」
「はい。俺が異世界で出会った子です」
そしていつしか好きになっていた子。彼女がいなければ今の俺はいなかった。というより、彼女が俺の命を守ってくれたから、今俺は生きている。
「かつて俺は、異世界へと飛ばされた事を話しましたよね? この魔法を覚えたのもそこだって」
「はい」
「その世界は、実は魔族の手によって支配されかけていたんです。その支配から世界を救ってほしいということで、俺はその世界に呼ばれました。まあ、あくまでサポート役としてなんですけど」
「魔族の支配、どんなものか予想できないですね」
「まあ、非現実的な話ですから。普通人間が魔法を覚えるだなんて、ありえませんから」
そう、あの世界では全てがありえない事ばかりだった。どれも本とかで読んだことがあるような設定ばかりのもので、普通の人に話したら絶対に信じてもらえない(現に異世界から帰ってきて二年の間、この話を誰も信じてくれなかった)。
「それで、サポートする事になったのが勇者サクラ。勇者と言われてもピンとこないと思いますが、簡単に言うと世界で一番強い子だと思ってください」
「世界で一番強い子ですか。じゃあそのサクラちゃんは、世界で一番強いから、世界を救う旅に出させられたのですね」
「簡単に言うとそんな感じです」
最初は二人だけの旅路。まだ魔法を覚えたての俺は、サポートなんかろくにできない事なんて分かっていた。
『俺、全く役に立たないと思うけど、本当に大丈夫なのか?』
『いいの。私がいるから大丈夫! だからよろしくねサッキー』
けど、彼女は不安そうな顔を一つも見せなかった。
これが全ての始まりである。
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