第32陣意味なき戦い
相変わらず雨が止まない中、未だに外へ出られない俺は、先程から何かが近づいている気配を感じていた。
(こんな時に敵か?)
もしそうだとしたら、何軍なのかはハッキリしている。恐らくヨシモトは、俺がここにいることを知り、何かしらの方法で伝令を伝えた。しつこく聞いて来たのは、時間稼ぎだった可能性が高い。
(つまりピンチって事か)
飛び出して来てしまったので、あいにく太刀を持っていない。頼れるのは魔法のみ。だが一つ問題なのが、先日の戦いで使った魔力が、まだ回復しきれていないこと。そしてこの悪天候。色々と悪条件が重なっている。
(でも確実に足音が近づいているし、どうするか)
冷静に考えている時間もないので、僅かでも魔力の回復をさせる。
『いたぞ、こっちだ!』
だが間もなく敵軍が到着する。
「やるしかないか」
外に出て敵を待ち構える。少し先に敵の旗が見えるので、もうすぐ敵はやってくる。
(ん?)
だがその途中で、俺は違和感を感じた。あの旗って確か……。
「敵じゃなくて織田軍の旗じゃん」
てっきり今川軍だと思っていたので、思わず驚いてしまう。
「ヒスイ様、ここにおられたのですね。至急ノブナガ様の所へ向かうので、こちらの馬をお使いください」
俺の所へやってきた一人の兵がそう伝える。
「至急って、ノブナガさんに何かあったのか?」
「説明は向かいながらします。とにかく急いでください」
「わ、分かった」
何か起きたのかと思い、急いで俺は馬に乗る。さっきまでのいざこざは何一つ解決していないけど、緊急だと言うのなら、急いで向かうしかない。
「よし、急ぐぞ!」
俺は一つ合図をして馬を走り出させる。だがわずか数秒も経たない内に落馬してしまう。
「そういえば俺、馬に乗ったことなかった」
土砂降りの中の道のりは、まだ始まったばかりである。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「はぁ……はぁ……」
「まさかこれほどまで腕を落とすとは。随分と弱くなりましたねノブナガ」
「ノブナガ様!」
その頃、ヨシモトと対峙するノブナガは、ヨシモトに押し負けていた。決して彼女の腕前が落ちているわけではない。彼女は目の前の戦いに、全く集中できていなかった。その理由は、彼女自身も分からず、ただただ戸惑ってばかりだった。
「やはり私の思った通りでした」
「え?」
突然ヨシモトは、槍の構えを解いた。まだ戦いは終わっていないと言うのに、一体彼女は何をしているのだろうか。
「今のあなたと戦っても、全く面白くありません。何故ならあなたは戦いながら別のことを考えてたあるからです」
「別に私は、戦いに集中できていないわけではありません。さあ、続きをしましょうヨシモト」
「無駄です。今のあなたは、戦う意志すら見られない。こんな無駄な戦いで傷がついたら、折角の綺麗な体が汚れてしまいます」
「あなたはさっきから何を言っているんですか? その首討ち取らさせてもらいますよ?」
「今のあなたにはできるわけがありません。戦人としての価値すら失った今のあなたには」
先程からヨシモトが何を言っているのか、ノブナガには全く理解できなかった。戦人の価値とか言われても、今一つピンとこなかった。
だが第三者の視点で二人の戦いを見届けていたヒデヨシには、何故だかその言葉の意味が分かるような気がした。
「もしかしてノブナガ様、ヒッシーの言葉が……」
「今のあなたには私は殺せない。ただ私も今日は本気で戦うつもりはなかったので、この辺で帰らさせてもらいます。そろそろ彼を連れてやってくる頃だと思いますから。それでは」
「あ、ちょっと待って!」
ヒデヨシがヨシモトを呼び止めるが、彼女は無視してその場を去って行った。
「一体なんだったんでしょうかね。ノブナガ様」
「……」
「ノブナガ様?」
ノブナガはヨシモトが去ってから何も言葉を発さなかった。ただ雨に打たれて、その場に立ち尽くしていた。
ヒスイが到着したの、その五分後の事である。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
迷い込んだ森を抜け、少し走った先、そこにノブナガさんとヒデヨシがいた。呆然と立ち尽くしているノブナガさんと、それをただ見守ることしかできないヒデヨシ。今来た俺にとっては、何が起きたのかさっぱり分からない状況だった。
「ノブナガさん! ヒデヨシ!」
「ヒッシー? どうしてここに?」
とりあえず声を出して二人を呼ぶが、ノブナガさんからは返事が返ってこなかった。
「大丈夫か? 何があった」
「ヒッシーの馬鹿! 何があったじゃないよ、勝手に城を出て行って」
「ごめん。ちょっと色々混乱していてさ。それよりもノブナガさんが様子変だけど何かあったのか?」
「実は少し前にね」
ヒデヨシから俺が到着するまでに起きたことを説明される。
「二人のとこにも来たのか? ヨシモト」
「うん。ヒッシーを包囲したとか色々言っていたけど、そうじゃないんだ」
「ああ。俺もてっきりヨシモトの罠にはめられたと思っていたけど、やって来たのは織田軍の兵だけだったし。って、そんな事よりも」
俺とヒデヨシが会話しているにもかかわらず、ずっと同じ状態のノブナガさんに、俺は声をかける。
「ノブナガさん、俺はちゃんと話したいことがあるんてますけど、聞いてくれますか?」
「……価値が……ない……」
「ノブナガさん?」
「私には……もう……生きる価値が……ない……」
「え?」
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