第31陣雨の中の再会と激突
ずっと雨に打たれていたら、寒くなってきたので近くの洞窟に一旦雨宿りすることにした。
「すっかり土砂降りだな……」
俺が今迷い込んでいるのは、どこか知らない深い森の中。周りを見渡しても何かが特別あるわけでもなく、本当にただの森だった。
(どれだけ走っていたんだよ俺)
これじゃあ本当に安土城には戻れない。いや、戻れたところで俺は……。
「へぷち」
そんな事を考えていると、俺ではない誰かのくしゃみが洞窟内から聞こえた。
「誰かいるのか?」
この洞窟自体結構広そうなので、誰かがいてもおかしくはないのだが、こんな時に誰かがいることが不思議なので、試しに声をかけてみることに。
「その声……もしかして、ヒスイですね」
「げっ、まさか」
返ってきた返事で、誰がそこにいるのかが判明。よりにもよって、今会いたくない人と遭遇してしまったらしい。
「何故あなたがここにいるんですか?」
「訳あって、たまたま雨宿りしているだけだよ。そういうおまえはどうなんだよヨシモト」
「私もたまたまです。なので今日は別に戦おうとは思ったりしていません」
「こんな雨の日に誰が戦う気起きるかよ」
声の主、今川義元は姿は現そうとはせずに、お互い声だけで会話をする。こんな土砂降りの雨の日にまた戦おうなんて気力は起きない。風邪を引いて損をするだけだ。
「それにしにても、よくもまあこんな遠い地まで一人で来ましたね」
「そんなに遠いのか?」
「安土城からだとここまで一時間はかかります。しかもこの森には、普通通らないところです。そんな所になぜいるのですか?」
「ちょっと色々あったんだよ。敵のお前には関係ない」
「ふうん、喧嘩でもしたんですか?」
「別にそうじゃねえよ。それに何があろうがお前に話すつもりはない」
「そうですか……残念です」
どうやら意地でも聞きたかったのか、その後も何度もヨシモトは尋ねてきた。勿論俺は答えはしなかったが、何故そこまでして聞こうとしたのかは、彼女が去った後も分からなかった。ていうか、何であいつここにいたんだろう。
(雨、早く止まないかな……)
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
同時刻、激しい雨が降りしきる中でのヒスイの捜索は、二時間経っても未だに消息掴めずだった。
「ノブナガ様、この雨だとヒッシーもどこかに雨宿りしているかもしれません」
「やはりそう考えるのが妥当ですよね。問題はどこで雨宿りしているか、ですけど」
「ここまで来ているとなると、この先は確か森になっていましたよ」
「確かそうでしたね」
「あの森かなり広いですから、今日の捜索はそこまでにしましょうよノブナガ様」
「明日になる前に、見つかればいいんですけど」
二人で馬を使って、かなりの範囲の場所を探し回わり、身体がかなり濡れてしまった為、一旦雨宿りをしている二人は近くにある森を最後の調査場所と決めた。
「ヒスイ様はどうして飛び出してしまったのでしょうか?」
雨を眺めながらノブナガは呟く。彼女自身が少し言い過ぎた所があったのも反省しているが、それ以上に彼が何かを抱えているのではないかとノブナガは感じていた。どうしてあそこまで命にこだわるのか、恐らく彼の過去に何かあったのだろう。だからあんなに強く……。
「私も分かりません。ただ、ヒッシーには私と結婚もできない深い理由があるんだと思います」
「ヒデヨシさんもやはりそう考えますか。私もそうだと思います」
今回の事だけではなく、今まで彼は何かを隠すような言動を何度かしてきた。ここの人間ではない以上の秘密を、彼は何か隠しているのかもしれない。
「彼一人孤立しているから、もしかしたらと思ったら、やはり探しに来ていましたね」
二人でうーんと悩んでいると、丁度外から声が聞こえた。この声は確か……。
「その言い方ですと、ヒスイ様の居場所を知っているかのように思えますが、ヨシモト」
「勿論知っていますよ。何故なら先程お会いしましたから」
「え?!」
慌てて外へ飛び出すノブナガ。そこには案の定ヨシモトがいた。
「それは本当ですか?」
「はい。教えてほしいですか?」
「て、敵ではありますがヒスイ様の為なら」
「待ってくださいノブナガ様。罠の可能性も考えた方が」
「勿論タダでとは言っていませんけど。あそこにはもう私の兵を送っておきましたから、増援をされては困りますし」
「そ、そんな。ヒッシー今武器も持っていないのに」
「卑怯な事をするようになりましたね。ヨシモト」
「別に卑怯ではありませんよ。ちゃんと言っているじゃないですか、条件を満たせば場所を教えるって」
どこか勝ち誇った顔でそう言うヨシモト。彼女は一体どんな条件を出すつもりだろうか。既に警戒をしているのか、ヒデヨシは武器を構えている。
「その条件とは何ですか」
ノブナガはあくまで冷静にヨシモトに尋ねる。
「織田軍が我々今川軍の傘下につくこと、それが条件です」
「なっ、そんな事できるわけないですよ! そうですよねノブナガ様」
「かなり厳しい条件を言いますね。そんなの勿論お断りします」
そう言いながら、ノブナガは腰の太刀を鞘から抜く。元からこうなるとは分かってたので、その流れは自然だった。
「はぁ……やはりそうなりますか。いいですよ、私あなたと一度手合わせしたかったので」
やれやれと馬から降りて槍を構えるヨシモト。
「私があなたを倒したら、意地でも教えてもらいますから」
「いいですよ。ただし勝てたら、の話ですから」
『勝負!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます