第27陣三つ巴の戦い③
ヒッシーと別行動をしていた私は、はある違和感を感じていた。先程から自分が進んでいる道には、徳川軍はおろか上杉軍すら見当たらない。
(道間違えたのかな)
でも進んできたのは一本道。間違えるはずなどなかった。だとしたら何故……。
「答えはこういう事じゃ。豊臣秀吉」
「え?」
どこからか声がしたかと思うと、前方と後方から敵兵が一斉に沸いて出てきた。そしてその集団を率いていたのは、ネネを連れた徳川軍総大将徳川家康。
「なっ、どうして」
「お主なら確実にこの娘を追ってくると思っていたからのう。罠を張らせてもらった」
「お姉様、私に構わず逃げてください!」
その状況を見て、ネネが叫ぶ。
「心配しなくていいよネネ。私が絶対に助けるから」
「お姉様!」
でも私は、こんな状況でも逃げようだなんて思わなかった。敵に背を向けるだなんて、戦人として格好悪い。それにネネを助けると決めた以上、ここで退けない。
(ヒッシーだって頑張っている。だから私だって負けられない)
相棒のハンマーをしっかりと握りしめ、そして私はは敵兵の中へと突っ込んで行った。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「ヒデヨシ?」
あまりにしつこいヨシモトを相手にしている最中、何故か一瞬だけヒデヨシの声が聞こえたような気がした。何か悪い予感がする。
「どこを見ているんですか。敵はこっちですよ」
「あーもう、しつこい! 頼むからヨシモト、ここを通してくれ」
「そうは行きません。ここで会ったら百年目。決着が着くまで私は終わりません」
「ここで会ったら一週間だって。お前に構っている暇はないんだよ!」
太刀にまた新たな力を宿す。今度は雷の魔法。これを与えれば、しばらくは動けなくなるはず!
「雷・一の太刀!」
「きゃあ」
雷を纏った一撃をヨシモトに与える。これは痺れ効果を伴った攻撃なので、直撃したら最後、身体が痺れて動けなくなる。
「か、身体が、動かない。どうして?」
「悪いなヨシモト。決着はお預けだ」
元通った道を急いで引き返していく。今は上杉軍よりもヒデヨシの方が大切だ。せめてこの悪い予感だけは消えて欲しいのだが……。
「な、何だこれ」
そして引き返すこと五分。俺は道を塞ぐ大量の兵達と出くわした。この鎧、間違いなく徳川の物だ(さっき見て、見分けをつけた)。
「まさか」
俺は不意打ちと言わんばかりに、大量の徳川の兵に向けて風の魔法を使って吹き飛ばす。
「な、なんじゃ」
聞き覚えのない声が遠くから聞こえる。徳川の兵をあらかた片付けると、少し間隔を開けて第二陣が見えた。
そこには先程の声の主と、それに捕らえられているネネと、ボロボロになって倒れているヒデヨシの姿があった。
「ヒデヨシ!」
「ヒッ……シー……?」
「何じゃお主」
当たってしまった。俺の嫌な予感が。若干相手の陣形が崩れているのは、恐らくヒデヨシが崩してくれたのだろう。だがあれだけの数を一人で相手するのは、高難度の物だ。
(一人で無茶しやがって……)
「大丈夫かヒデヨシ」
俺は慌ててヒデヨシに駆け寄る。酷い怪我を負っているようだが、どうやら命に別状はないらしく、呼吸はしっかりしていた。
「ごめんヒッシー……私……」
「喋るな、今はゆっくり休んでてくれ」
「ヒッシー……は?」
「ネネを助ける」
ヒデヨシを一度安全な場所に移動させ、俺は徳川軍と向き直る。
「よくもヒデヨシやネネを傷つけてくれたな」
「誰じゃお主は。妾の兵を何故一瞬で倒せた」
「俺は織田軍第一攻撃隊隊長、桜木翡翠。お前は?」
「妾は天下人徳川家康じゃ。織田の兵ならば、ここで討たせてもらおう」
「それはこっちのセリフだ。ヒデヨシとネネを傷つけた分の借り、きっちり返させてもらう」
「かかってくるがよい!」
『いざ、勝負!』
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「はぁ……はぁ……」
戦いは一方的な物になってしまった。ここまでにかなりの魔力を使ってきてしまったため、底をつき始めていた。その為か、家康に圧倒されて俺の体力も限界に来ていた。
「どうした、先程までの威勢はどこへ行ったのじゃ」
「ヒスイ!」
ネネが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。彼女が俺の名前を呼んだのは、初めてな気がする。
「まだ……終わってない!」
残り僅かな力を太刀に込め、至近距離からの一閃。それは確実にイエヤスを捉えたはずだった。だが、
「まだまだ甘いのう!」
「なっ!」
イエヤスは傷一つついた素振りも見せずに、彼女の得意とする中国拳法で俺に一撃を加える。その威力の大きさに、ついに俺は地面に倒れてしまった。
「何じゃ面白くないのう」
「くっ……そ」
「これでお終いかのう」
イエヤスは俺にトドメと言わんばかりに、頭を踏み潰し、もう一度足を上げて、かなりの勢いをつけて俺を踏みつけた。
身体が動かない俺は、まともにそれをくらい、地面に頭がめり込んでしまう。
「が……は……」
意識が遠のく。俺は助けられなかった。ネネを。守れなかった、この城を。
(ノブナガさん……)
「ヒスイ様ー!」
「……え?」
「何じゃ?」
二日ぶりに聞いたその声に、遠のいていた意識がほんの少しだけ戻ってくる。
「ノブ……ナガ……さん?」
だがそれも僅か数秒の話。その声の主を確認する直前に、俺は再び意識を失うのであった。
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