第28陣魔法使いの追憶〜終わりの始まり〜

 一度意識を失った俺は、再び目を覚ますと何故かノブナガさんに抱えられていた。しかも馬に乗っているからか、身体が揺れる。


「目が覚めましたか? ヒスイ様」


「ノブナガさん……どうしてここに?」


「先日徳川軍が動きを見せたと、伝令がありましてね。もしかしたらと思い、慌てて戻って来たんです」


「そうなんですか……」


 そうか、助けられたんだ俺、ノブナガさんに。


「そういえばヒデヨシとネネは?」


「あの後無事に救出しました。イエヤスは逃がしてしまいましたが、二人とも無事です」


「そうですか、よかった……」


 二人が無事だったならそれでいい。今回の目的はネネの救出だったのだから、それを果たせたのなら、それで構わない。


「ヒスイ様、この状況の中でよく頑張りましたね。ウエスギ軍までもが攻めてくるのは、私も予想外でした」


「俺は……何も頑張れてないですよ。魔力が尽きてしまえばただの人間。情けないですよ」


「それでも必死に城を守ろうとしてくれたのは、感謝の意を示さなければなりません。城の主として御礼申し上げます」


「ノブナガさん……」


「ですから、どうぞごゆっくりお休みください。部屋には私が連れて行って上げますから」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」


 もう一度ゆっくりと目を閉じる。かなり消耗していたのか、すぐに睡魔はやって来た。そして気がつくと眠っていた。


 こうしてノブナガさんが居ない三日間は、幕を閉じたのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 全てが終わった。


 消えていく闇、光を取り戻す世界。


 皆が歓喜の声を上げる。


 そう、全ては終わったんだ。


 一つの命を代償にして。


「サクラ! おい、大丈夫か!」


 少女の名はサクラと言った。


「ごめんねサッキー……折角……魔王倒せたのに……」


 世界は少女を勇者と呼んだ。


「何言っているんだよ! どうして……どうして……」


 勇者は仲間を連れて旅をし、そして全ての闇を払いのけた。


「どうして俺を庇ったりなんかしたんだよ!」


 己の命を賭して。


「何でかな……分からないや。でも……私後悔してないんだ」


「嘘だ! 俺なんかの命を救って、後悔してるに決まってる!」


「サッキーにはね……帰る場所があるから……そこに帰るまでは……死んでほしくなかった……だから……守れてよかった……」


 彼女は自分の命を張ってまで守った。


 異世界から来た彼の命を。


 それが彼女の、勇者としての本当の最後の仕事だった。それが彼を今後も苦しめることになるとはしらずに、その仕事を果たしたのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「また嫌な夢見たな……」


 俺が再び目を覚ましたのは、翌日の午後。目覚めは全くと言っていいほどよくなかった。理由は分かっている。


(よりによって、あの夢を見るなんて……)


 それは俺の一番の苦しみでもあった。本当に立ち直れない位の出来事だったし、今でもその時の記憶は鮮明に残っている。


(昨日のことといい、最悪だな……)


また大切なものを守れなかったのかもしれないと考えると、本当にゾッとした。



「ヒッシー……どうしたの? お見舞いに来てくれたのに、浮かない顔してたら私まで元気なくなるよ」


 先の戦いで、ヒデヨシは重傷を負ってしまったので、しばらく部屋で安静にしていることになった。ということで、俺とネネは夜にそのお見舞いに来ているのだが、どうもあの夢が頭から離れられなかった。


「悪い。ちょっと嫌な夢を見てな」


「嫌な夢?」


「ああ。忘れない嫌な夢」


「そんなに嫌な夢なら、忘れればいいのに」


「忘れたくないんだよ。いや、忘れちゃいけないんだ」


「ヒッシー?」


 そう、絶対に忘れてはいけない。彼女の事も。あの時起きた全てを。


「もう! お姉様の前でなにしているんです! だからあんなボロボロに負けるのですわ」


 少し元気がない俺を、何故か元気なネネがからかう。こういう時に、そういうのを言われると、すごく腹が立つ。


「戦ってない奴がよう言えるな! 勝手に捕まっておいて」


「何をー! あーあ、あの時助けに来た時は格好いいと思ったのに。やはり私はお姉様一筋ですわ!」


「全く、何を言っているんだよお前は……」


 でも前ほど酷いような感じはしなかった。まだ戦いの疲れが取れていないからなのかもしれないけど、それ以上に三日間を共に乗り越えた仲間だ。捕まってしまったとはいえ、彼女も役に立っていた、はず。


「とりあえず一件落着ということで、今日は解散! ほら、二人とも部屋を出て行って」


 お見舞いに来たというのに、部屋を追い出される俺とネネ。ネネは相変わらず文句を言っているが、俺は素直に部屋を出て行こうとした。


「あ、ちょっと待ってヒッシー」


 だがネネが先に部屋を出たところで、ヒデヨシに呼び止められ俺は足を止めた。


「ん? どうかしたか?」


「聞かないの? あの事」


「あの事?」


「ほら、戦いの前に言ったじゃん。私が話があるって」


「あ、そういえば言ってたな」


 戦で色々あって、すっかり忘れていた。出陣する前に、ヒデヨシがそんな事を言っていたな。


「で、話したい事ってなんだ」


「実はね、ヒッシーに一つお願いがあるの」


「お願い?」


 それが話した事? 何か大切な話だと思っていたけど、勘違いだったのかな。


「こんな事急に言うのも、あれだけど。ヒッシー、私と結婚しない?」


「え?」


 今なんて言った?


「え? じゃなくて。私を、その、お、お嫁にしてほしいの」


 桜木翡翠の頭が真っ白になった。

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