第22陣ボクっ娘忍者は魔法を学びたい 前編

 まさかの忍者の登場に、流石の俺も驚いたが、やはりそれ以上に謎だけが深まる。先ほどの戦いの時もそうだったが、彼女は確実に闇に紛れ、気配を消し、敵の背後を取るチャンスを伺っていた。

その隠密行動のレベルはかなり高い。さすがは忍者というべきだ。けど、それだけの実力の持ち主だというのにどうして彼女は俺に魔法を教えて欲しいなんて言いだしたのだろうか?


「さっきの戦いでも思ったんだけどさ、お前あれだけ気配を消すことができる実力があるのに、どうしてこんな得体の知れないものを教えて欲しいんだ?」


「だって格好良かったんだもん。あの一瞬光が出たあの瞬間が」


「あれは目くらましの魔法だよ。あれのどこが格好いいのか俺には分からないんだけど」


 むしろその後の斬撃の方がメインなわけだし、あれが格好いいというならそれはちょっと違うような気がする。


(すごい地味な攻撃だし)


「じゃあどういうのが格好いいの? ヒッシー」


「何でお前が聞くんだよヒデヨシ」


「いや私もちょっと気になったからさ」


「だよねー。気になるよね」


「お前まで混ざってくるな! というかいつまで外でこんな話をするの嫌なんだけど。まずお前は帰れ」


 もう既に戦いが(勝手に)終わって大分時間が経っているのに、俺達はいつまでも入口で立ったままだった。他の兵士達はというと、織田軍の兵士は城に戻り、くノ一が引き連れてきた兵士たちはずっとそこにいる。

そんな状況の中で魔法だの何だの話をしていたら、こっちとしても恥ずかしい気分だ。


「うーん、仕方がないな。今日は帰らないとお館様に怒られるし、ボク帰るね。また来るよ」


「さっさと帰れ。そして二度と来んな」


「ヒッシー、そこまで言わなくても……」


「何で俺は一度殺されかけた人間に、魔法を教えなければならないんだよ。そもそも誰かに教えられるようなものじゃないから」


「えー、つまらないの。折角面白いものを学べそうだったのに」


「何度も言うけど俺達は敵だからな、元々」


 肩をすくめながら兵を連れて歩き出すくノ一。とそもそもくノ一って女忍者の総称だから、彼女の本名は違うのではないかと思う。

そんなのはどうでもいい話なんだけど。


「俺達も帰るか」


「そうだねヒッシー」


 くノ一達の姿がある程度見えなくなったところで、俺はヒデヨシに言う。時間が時間なだけあって、眠くて仕方がない。明日も何が起きるか分からないし、部屋に戻ったらすぐに寝ないと。


「魔法かぁ……私もできたら教えてほしいな……」


最後にヒデヨシがそんな事を呟いていたのは、聞かなかった事にしたい。


■□■□■□

 色々と予想外な結果で終わった夜中の戦いから一夜明け、疲れているはずなのに意外と早く起きてしまった俺は、気晴らしにリキュウの元を訪ねていた。


「へえ、昨日そんな事があったんですかぁ。ヒスイ君も大変ですねぇ」


「本当色々な意味で大変だよ。こんなのどかな時間を過ごせるのも今くらいだしきっと」


「朝にこうしてお茶を飲んでまったりとした時間を過ごすのも悪くないでしょ? こういう時間を私は大切にしたいんですぅ」


「確かに何が起きるかわからないからな」


 相変わらず苦いお茶を飲みながら、静かな朝をリキュウと共に過ごす。こんな風景も、いつなくなってしまうか分からない。

戦というのはそういうものだし、戦国時代でなくても常に戦いの中で生きるものは同じ感覚だろう。俺はそれを過去に一度経験しているから、よく分かる。


「でも毎日ここで過ごしていて、退屈になったりしないの?」


「全然退屈なになんてならないですよぉ。むしろ毎日色々な発見ができて、楽しいくらいですから」


「色々な発見?」


「はい。毎日茶葉を変えたりしながら、色々なお茶を作っているんですよぉ。ですから、毎日新しいお茶が出来るんですぅ」


「なるほど。確かにそれは色々な発見ができそうだな」


流石は元祖お茶の鉄人。考えていることが違う。でもそれが彼女のこの世の生き方なのだろう。


「はい。いつかヒスイ君が気に入るお茶もきっと見つかりますよ」


「俺あまりお茶好きじゃないのですけど……」


「何か言いましたか?」


「あ、いえ。な、なんでもありません」


 相変わらず笑顔が怖いリキュウに多少怯えながら、俺はのどかな朝を過ごすのだった。


■□■□■□

 リキュウと別れ離れを出た俺は、そのまま部屋に戻ろうとしたところである事に気づいて一旦足を止めた。


「俺は昨日も言ったはずだぞ。魔法は誰にも教えないって」


 誰もいない場所に声をかける。本来なら誰も気づかないはずの気配なのだが、俺はたったいまそれに気づいた。


「えー何で分かったの? 昨日は全く気付かなかったのに」


 突然俺の目の前に現れるその人物。その正体は勿論、昨日散々しつこかったボクっ娘忍者だった(あくまで総称なので、こう呼ぶことにした)。


「何でかは分からないけど、その様子だと朝からずっと付けてきただろ? もしかして帰ってないんじゃないのか?」


「そんなの当然だよ。ちゃんとマホウを教えてくれるまでボクは絶対帰らないから」


「何で懲りないんだよ」


今頃兵士達は困っていないか少し心配にもなる。


「だって面白そうなんだもん。マホウ」


「面白そうってなぁ……」


 当然だけど魔法は興味本位で覚えられるようなものではないし、第一この世界に魔力すら存在していない。俺が使えているのだって、体内に魔力が埋め込まれているからであって、それがなかったらただの人間だ。

だからまず、根本的な問題を解決しないと、誰も魔法を使えるようになんてならないのだ。


「今日こそ絶対に教えてもらうから!」


 それなのに彼女は折れようとしない。


「はぁ……」


 何で俺はこんな目にばかり合わなきゃいけないんだよ。

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