第21陣魔法使いに憧れて
謎の人物に背後を取られ、身動きがとれない状態になってしまった俺は、とりあえず落ち着いて現状を打破する策を考える。その間にも謎の人物は勝手に俺に話かける。
「あれ? どうしたのかな。もしかして予想外だった?」
「ああ。全くもって予想外だったよ」
「君は僕達を城から離そうとしていたけど、そんなの最初から僕は読んでいたんだ。だから今頃は城の方は大変なことになっていると思うよ」
「何だと!」
つまり俺が誘導するつもりが、逆に相手に誘導されたことになってしまった事になる。という事は、今ヒデヨシの元にはかなりの数の兵士が向かっていることになる。
「期待の新人だなんて聞いていたけど、どうやら考えはまだまだ甘いみたいだね。策の裏の裏をかかなければ、この世界では生きていけないよ? まあ、もう死ぬことになるんだけどね」
「くっ!」
迂闊だった。そもそも何軍か分からない時点で考えるべきだったんだ。そこに敵将と思わしき人物がいないってことを。この暗さだと敵兵を見たところで、どこの軍なのか分からないし、ましてや明かりがそこにあっただけで決してその場に敵将がいるとは限らない。
初めから彼(彼女?)は、暗闇に潜んでいて俺が敵兵を誘導するのを見計らって敵の首を取るつもりでいた。城の方は数さえいれば何とでもなるだろう。
どうやら俺達はいきなり絶体絶命のピンチに陥ってしまったらしい。
(でもだからと言って諦めるなんて事は出来ないよな)
確かに今の状況はあまり芳しくない。でもヒデヨシは諦めてなんかいないだろう。どんな時でも真剣に生きている彼女なら、何とかしようと頑張っているはずだ。だったら俺だって……。
「さてと、じゃあ時間も惜しいからトドメ刺させてもらうね」
剣を俺に突きつけたまま、別の剣を抜く音が聞こえる。どうやらもう一つの剣で、俺の心臓でも刺すつもりなのだろう。だったら……。
「俺だってそう簡単に終われない!」
俺は相手に背を向けたままで相手の視界を奪うことのできる光の魔法を発動させる。それと同時に、俺を中心として周囲が強烈な光に包まれた。
「な、い、いきなり光が!」
思わぬ反撃に驚いたのか、相手は小さな悲鳴をあげると共に一歩下がる。それを見計らって俺は、すぐに太刀を鞘から抜いてその勢いを利用して半回転。背後にいた謎の敵に一撃を加える。
「きゃァァ!」
相手が一歩下がった影響で大した一撃を与えた手応えは感じなかったが、確実に一撃は加えられたはず。俺は火の魔法を使って、辺りをちょっとだけ照らした。そこにいたのは、微かに傷を負ってその場に座り込んでいる銀色の短髪の少女だった。
「な、何今の!急に光が出てきたと思ったら、眩しくなって……。気付いたら斬りつけられてて……。 僕あんなの見たことないよ」
「それは見たことないだろうな。というか俺と一部の人間にしか分からないだろうからな」
「き、君は一体何者?」
「俺か? 俺はヒスイ。魔法使いさ」
「マホウ……ツカイ?」
意味不明な言葉を言われてキョトンとする少女。まあ、分かる方がおかしいもんな。次に何を言うのかちょっと待ってみると、彼女から予想外の言葉がでてきた、
「か、格好いい! そのマホウというやつボクに教えて!」
「は?」
■□■□■□
謎の少女に突然の申し出を翡翠が受けているその頃。
敵を何としても城下町に入れないように防衛していた私は、今の状況を見てため息つく。
(もう、やっぱり駄目だったじゃんヒッシー)
本来の作戦なら私はは今頃敵の本陣にたどり着いているのだが、待ち受けていたのは城に向かって攻めて来る沢山の敵兵。
多少の援軍がいるとはいえど、このまま真っ直ぐ敵陣に向かったところで敵将はいないと思われるので、結局彼女が城を防衛することになってしまった。
(でもこれだけの数が攻めて来ているという事は、ヒッシーには敵将が向かっているのかな?)
そうだとしたらこっちより彼のほうがピンチだ。今すぐにでも援護に向かいたいが、なにせ数が数なので、強行突破しようにもかなり手間取る事になってしまった。
(不意打ちでも食らったら、いくらヒッシーでも……)
この暗さの中だから、いつどのタイミングで敵が攻撃を仕掛けてくるのか読めない。闇討にでもあったら、いくらマホウという不思議な力があったとしても確実に負けてしまう。
(ううん、きっと大丈夫、ヒッシーならきっと)
そんな不安はありながらも私は彼を信じていた。この前の戦いだってそうだったけど、彼は予想外の展開にもすぐに対応していた。
だから今回だってきっと……。
「ヒッシー……」
思わず戦いながら私は、彼の名前を呼んでしまった。
「呼んだかヒデヨシ」
「え?」
まさかそれに本人が返事をするとも知らずに。
「ヒッシー、どうしてここに?」
■□■□■□
「えっと、つまりこの子がヒッシーの弟子になりたいって言っているの?」
「ああ。俺は勿論お断りなんだけどな」
「そんなこと言わないでよー。ボクは真剣なんだよ」
あの後この少女を俺は引き剥がすことができず、ヒデヨシの所までズルズルと連れてきてしまった俺は、事情を彼女に説明した。
説明したと言っても、俺自身ほとんど理解できていないので、とりあえず本人に色々と聞いてみることにした。
「まずお前、名前何て言うんだよ」
「ボク? ボクはくノ一って名前なんだ」
「くノ一?」
その名前に俺は当然聞き覚えがあった。それはヒデヨシも同じらしく、その名前を聞いた瞬間少し驚いていた。
「という事はもしかして、お前忍者なのか?」
「うん。そうだよ。すごいでしょ」
「いや、確かにすごいけどさ」
何でその忍者が魔法を覚えたいだなんて言い出すんだ?
「ボクも新しい力に目覚めてみたいの」
「俺が敵だってこと忘れてないか、お前」
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