第20陣陽動と闇討ち

 それから更に時間が過ぎ、外は既に真っ暗になっていた。常に敵軍の見張りをつけているのだが、それらしい動きは未だに見えておらず、俺達は緊張感が抜けないままその夜を過ごすことになった。


「ねえヒッシー、さっき言ったことが本当なら、もうそろそろ動きがあってもいいと思うんだけど」


「うーん、確かにそうだよな。あっちだって偵察をこっちに送ったっておかしくないはずなのに、その気配すら見えない」


「そうなんだよね。でもだからと言って油断できないから」


「油断できないのは分かるんだけどさ、その状態で寝るの辛くないか?」


 今現在俺とヒデヨシは城下町の出入り口付近にある小さな小屋で敵の襲撃に備えていた。城の守備の方はネネに任せてあるが、若干不安がある。

彼女が戦っているところなんて一度も見たことがない上に、あまりやる気が見えない。だから俺もこの配備には反対したのだけれど、


「私達がその前になんとかできるから大丈夫だよ」


ヒデヨシが強引ではあるが正論な事を言ってきたので、結局この配備に。確かにネネを前線に出すよりは、大人しく城にいてくれた方がまだマシだ。


(ヒデヨシの事だから、どうせネネと一緒にいるのが嫌なんだろうなきっと)


 ネネと一緒にいたくないという一心で出した作戦なのだろうけれど、ベストではあるので俺はそれ以上の事は言わなかった。

しかしどうやらネネを前線に置かなかったのは、もう一つ考えがあったらしいけど、それに関してはヒデヨシは語ろうとはしない。


「ん? この鎧の事言っているの? 平気平気。もうすっかり慣れているから」


「その体で?」


「その体で、って失礼だよ! 私だって真剣に生きているんだから」


「悪い悪い。からかうつもりはなかったからさ」


「ふーんだ。ヒッシーの嘘つき」


 拗ね始めるヒデヨシ。ちょっと俺も失礼なことを言った事を言ってしまった事を反省した。


(真剣に生きている……か)


 以前ノブナガさんが言っていた通り、いつ死ぬか分からないのがこの時代。その中で小さい体ながらも一生懸命に戦っている彼女を、俺はちょっとだけ馬鹿にしてしまったのだ。それは反省しなければならない。


「悪かったヒデヨシ。お前だって真剣なんだよな」


「当たり前だよ。私は一人の戦人として生きているんだから、常に真剣なの!」


「じゃあその真剣なのを今見せてくれよ」


「え?」


「どうやら敵軍が動き出したみたいだからさ」


 外に目をやると、遠くに灯っていた光が微かに動き始めたのが見えた。どうやら相手が動きを始めたらしい。そしてそれとほぼ同タイミングで、伝令が俺達の元へやって来た。


「伝令! 敵軍が動きを見せ始めました」


「よし、こっちもさっき伝えた通りの作戦で動くぞ。城の兵にも伝えてきてくれ」


「はい!」


 伝令を城へ向かわせ、俺とヒデヨシも外に出て出入り口の門のど真ん中に立つ。


「さてとヒデヨシ、前回は全く活躍しなかったから今回は頼んだぞ」


「活躍できなかったのはヒッシーがほぼ原因なんだけどね」


「まあそんな事気にするな」


「あ、誤魔化した。ずるいよヒッシー」


「さあ行くぞ!」


「うん!」


 俺にとって初めての夜戦となる今回の戦いは、ほぼ日付が変わると同時に火蓋が切られる事になった。


■□■□■□

 今回俺が組んだ作戦は前回のような地の利を活かしたようなものではなく、いたってシンプルな作戦。何て言ったって今回の場所は辺り一面に広がる平原。敵の大将は何故平原のど真ん中のあえて目立つ場所に陣取っている。

おかげでこちらからも姿が確認できてしまうくらいだ。そんな敵には考え込んだ作戦よりも、シンプルな策の方がベストに違いないと思い、今回の策を立案した。


「でもやっぱりヒッシー、それって単純すぎないかな。相手からしてみればこっちの姿も丸見えだし」


「今回はそれを使った作戦なんだから心配するなヒデヨシ。何とかなる」


「そうだといいんだけど」


 で、肝心のその作戦の内容はというと、俺はこの暗闇の中であえて目立つような光や火の魔法を使って、敵をこちらへ引き寄せる。それを俺が片付けている間に、ヒデヨシは敵本陣へと向かい叩く。原理は前の作戦とは変わりないが。

先程も言ったように、敵の姿はこちらから丸見えなので、迷ったりもすることなくすぐに叩けるに違いない。


「しかも敵はご丁寧に明かりを持たずに動いている。突然どこかが明るくなったら必ずそっちへと向かうはずだ」


「うーん、何か私は嫌な予感がするんだけどな」


「とりあえず今は動くしかない。俺はもう始めるから、頼んだぞヒデヨシ」


「あ、ちょっと待ってよヒッシー!」


 ヒデヨシをその場に残し俺は、早速城から離れたところに向かう。その移動の間にも、火の魔法を使ってあえて俺の行動が目立つようにする。これなら敵だって俺の方に向かってくるだろ絶対に。


「けどその考えがお見通しだったらどうかな」


「え?」


 移動途中、突然暗闇の中から声が聞こえる。慌てて俺はそこに光を向けるが、そこには誰もいない。一体どこに……。


「ここだよ、織田軍の新人君」


「なっ!」


  突如背筋が凍りつき、動けなくなってしまう。


「どうやらボクの闇討ちは大成功みたいのようだね」

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