第23陣ボクっ娘忍者は魔法を学びたい 後編
結局彼女は何を言っても帰ってくれず、どうしようもなくなった俺は、仕方がなく彼女を連れてヒデヨシの元へ来ていた。
「そこまでしつこいなら、ヒッシーも諦めて教えてあげればいいじゃん」
「そういうわけにもいかないから、困っているんだよ」
「そういうわけにもいかないって、どういう事なの?」
「まず第一条件としてここには魔力が一ミリも存在していない。魔法というのはまず、魔力がないと使うことすらできない。俺みたいに既に体内に魔力があれば、また別の話なんだけど、そもそもお前達は魔法って言葉すら知らないだろ?」
「うん。私そんなの聞いたことがなかった」
「ボクも」
聞いたことがないのは当然だ。何せ俺が生きている時代にだって、そんな言葉普通は存在していない。もしも仮に存在していたとしても、それよりも遥か昔の時代である戦国時代に、そんな言葉が生まれているなんて考えられない。
「それに俺が魔法を使えるようになったのだって、あの世界には沢山の魔力に満ち溢れていたからであって、元からそんなものがないこの時代に住んでいる人間に、教えるなんてまず不可能なんだよ」
だからいくら彼女が教えを請いても、俺は断り続けることしかできないのだ。まあ、それ以前に彼女は敵なのだから、教えるなんて普通はありえない話なんだけど。
「これで分かってくれただろ? お前が魔法を使うことなんてありえないし、教えることなんて絶対にできないって事が」
「うーん、何となく言いたいことが分かったけど、でも諦めたくないなボク」
「しつこいって。無理なのは無理なんだって。それにお前には既に忍者としての素質があるから無理に新しいことを覚える必要なんてないだろ」
「忍者としての素質……か。そんなのがあったら、ボクは最初からこんなに教えを請わないよ」
「その言い方だと、まるで素質がないみたいな言い方だけど、昨日の戦い方からしてあれでも充分あると俺は思ったんだけど」
「あんなの基本中の基本だから。ボクはまだまだ下級忍者だから、親方様の役にも立てなくて……」
「そういえば昨日も気になったけど、お前が仕えている親方様って誰なんだ?」
「ボクの親方様は命の恩人、徳川家康様一人しかいないよ」
「と、徳川家康だって?!」
突然超大物の名前が出てきて、驚いてしまう。この時代の人物として存在しているのは当然なのだが、この名前を聞いただけで驚かない人がいない方がおかしい。
「どうしたのヒッシー、そんなに驚いて」
「親方様そんなに有名人なの?」
「有名人もなにも……」
「有名人もなにも?」
「あ、いや何でもない」
そこで俺は次の言葉を言うのをやめる。徳川家康と言えば、かの江戸幕府を作った人物で有名なのだが、まだ今の年代じゃそんな事起きていない(確か江戸幕府ができたのは千六百年だった気がする)。
そんな未来の話をしたところで、当然分かるはずがないし、ある意味ではネタバレになってしまう。
「と、とにかく何でそんな有名な人の下についているのに、敵軍の俺に魔法なんか教えてもらいたがるんだ? 別に下級忍者だとしても他の人に教えてもらえばいいだろ?」
「それが上手くいかないから大変なんだよ。ねえボクに教えてよ。お願いだから」
「だから無理なんだって」
ここまで必死に言われると、断る方がおかしい様に見えるが無理なのは無理なのだ。
でもこのまま帰したところで、また勝手に帰ってくるだろう。それに相手が徳川なら、このあと何が起きるか分からない。
だったらどうすれば……。
「なあボクっ娘、お前が覚えたいのは必ずしも魔法でないといけないのか?」
「そういう訳ではないけど、格好良かったから力をつけるのにいいかなって思ったんだけど」
「じゃあ別に魔法じゃなくてもいいんだな?」
そこまで考えた所で、俺はある事を思いついた。別に魔法にこだわっていないなら、格好いい力は他にもある。
「う、うん。うん?」
「ちょっとついてこい」
■□■□■□
という事で、俺はボクっ娘を連れて闘技場へ。ここでなら彼女に魔法以外のものを教えることができる。
「え、えっと、ボクはこれから何をされるの?」
「魔法を教えることはできないけど、剣の使い方なら教えられると思ってな」
「剣の使い方を?」
魔法以外で何かを教えられるか考えた時、最初に思いついたのがこれだった。これなら練習すれば何とかなるし、魔法みたいに事前準備とか必要ない。
「別に魔法にこだわらなくていいなら、他の事で少しでも強くなるのもいいと俺は思う。そうすればいくら下級忍者でも、周りが実力を認めてくれるよ」
「で、でもボク剣なんて使ったことは……」
「だからこれから少しずつ教えてあげるって言っただろ? 時間はかかるかもしれないけど、積み重ねていけばきっと報われるよ」
それは俺もそうだった。元は魔法とは全く関係のない人間だったのだ。けど、色々な経験を繰り返していくうちに、少しずつ成長して、最終的には世界を救った人の一人として名を馳せる事ができた。
だから彼女だってきっとできるに違いない。人間誰しも努力を重ねれば成長する。
「でもよかったの? ヒッシー。一応彼女敵だよ?」
「そうだけどさ。何かあいつを見ているとちょっと思い出したんだよ」
「思い出したって何を?」
「失敗を繰り返しながらも、誰かの力になりたくて努力していたあの頃の自分をさ」
「ふーん、私にはちょっと分からないや」
「分からなくていいんだよ。どれだけ努力したのを知っているのは、自分自身だけなんだからさ」
そしてその間に、どれだけの人を守ってこれたのかを知っているのも自分自身だけなんだから。
「いいかボクっ娘。教えるからには手加減は一切しないからな」
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